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第14話 事務所への来訪者

 『反魔導術人民解放戦線』の動きが止まり、事務所で待機しながら優雅な時間を満喫する杏。外出から帰ったまなみと雑談していると扉が開き、とある人物が訪問してきた。その人物の来訪によって大騒ぎに……


お読みください。

 久しぶりねぇ……。こんなに暇なのは。

 例の『反魔導術なんたら』の動きがここ最近ない。個人的にはないならないでありがたいんだけど、相手が相手だけに変に動きがないと不気味で仕方がない。本当に厄介な……。


 といいつつ、せっかくの暇を満喫しなければ。


 私は事務所にストックしてある紅茶の封を切り、茶葉をティーバッグに入れる。お気に入りのティーポットにそのティーバッグをいれ冷蔵庫にストックしてあったミネラルウォーターを注ぐ。


 これで……っと、後は抽出をじっくり待つばかり! 


 さてさて、待っている間に事務仕事を片付けつつ……。勉◯堂の高級最中をかじる。中身と皮が別々にパッケージされていて、食べるときに合わせるんだけどこれが秀逸! 甘さ抑え気味の柔らか目の羊羹とサクサクした皮の組み合わせがたまらない。あぁ、鼻を抜ける香ばしい最中の皮の香り……噛み割ったサクサクの皮の中から溢れだす、舌の上に広がる羊羹のまったりとした甘さ……。


 あれ? 何の話を……まぁいいや。そのぐらい暇なのよねぇ。当分、『反魔導術なんたら』の活動がなければいいのにな。


 私はそう思いつつ、水出し紅茶をカップに移し外を見ながらすする。


 外は雨。季節はすっかり移り変わっていた。緑萌え、痛いぐらいの日差しがあふれる季節から紅葉で山が紅く燃える季節へと移り変わっていた。

 外の山を覆う木々の紅葉が濡れて深みのある紅に染まっている。


 しばし、物思いにふけっていると事務所の扉が開く。


「よく降るわね。秋のこんな雨は気が滅入るわ」

「あ、お帰り」


 雑用で外へ出ていたまなみが帰ってきた。彼女は体にまとわりついた雨粒を少々忌々しそうに払い落とす。


「どうだった? 何か新しい情報はあった?」

「全然。警察もどうやら手詰まりのようね。何にも新しい情報がなかったわ」


 まなみは所用で外出したついでに警察へよって、例のテロ集団の情報を聞きにいったのだが、どうやら空振りに終わったようだ。


「なにはともあれ、お疲れ様。食べる?」と言い、まだ残っていた最中をまなみに差し出す。

「あ、この最中! いいもの食べてるじゃない。いただくわ」


 まなみは袋を開け、羊羹を皮で挟んでかじりだす。


「しかし、これからどうする、杏? あまりにも連中の動きがないとこっちはおまんまの食い上げよ。多少、もらうものもらわないと……」

「そうねぇ……。なにか多少情報があればもう少し動けるんだけどなぁ」


 目下の問題はテロ組織の動きが無いために収入が減ってしまったこと。一応、軍属あつかいらしいんだけど非常勤で実際に何らかの指令を元に動かないとお給金がガクッと減ってしまう。他の関係のない依頼を受けることができれば問題ないんだけど、テロリストの相手をしながらなので、そうそう実入りの良い案件を受けることもできない。そういう案件はだいたいややこしい込み入った案件になるのでテロリストの相手をしながら掛け持ちなんてちょっと無理。なんせ相手は神出鬼没、こっちが振り回されるぐらいだからいつ行動に出るかわからない。となると事務所で待機なんてことも必要なわけで結果収入減……ということになっちゃう。


 せっかく、順調に業績が上向きになったというのにまた元通り……。ホント貧乏神にでも取り憑かれているのかしら? 何処かから金づるが降ってこないかしら。


 などととりとめないことを考えていると徐ろに事務所の扉が開く。ダークグリーンのレインコートを来た青年が事務所に入ってきた。


「あら? いらっしゃい」


 レインコートのフードを上げると件の特尉さんの顔が現れた。


 彼の姿を見るやいなやあからさまにまなみさんの挙動がおかしくなる。「……あ、急ぎの仕事が」と言ってまなみさんは特尉さんに目を合わせないようにしてそそくさと事務所の奥へさっさと引っ込んでしまった。


 まなみさん、ダイジョウブデスカ?


 仕方がないので、私が応対することになった。


「お久しぶりです」

「お久しぶりね。今日はどういった要件?」


 そう言うと特尉さんは鞄から何やら怪しい感じのする封筒を取り出した。その封筒には内務省のロゴが入っていた。


 内務省関係……? また、中央のお役所が厄介事を押し付けにきたのかな? 


「とりあえず、書類を確認してください」と特尉さんに促され、封筒の中の書類を確認する。その書類にはこう書かれていた。


『最上特務少尉 いたりん魔導術士事務所で魔導術士実地研修を命ずる』


 へっ? ウチで実地研修? どういうこと? まぁ魔導術士になるためには国家試験の前後、所定の期間、所定の現場で実地研修をしないといけないんだけど、なんでウチでやることになったの?


「どういうこと?」と頭の上に大量の疑問符を浮かべていたら、特尉さんが付け加えた。

「書類に書いてないですか?」


 えっ? 何か説明した書類があるとでも……。封筒を漁って読み返してみた。あまりはっきりかいてないなぁ。


「ま、しょうがないですね。実はテロ対策で軍と内務省が連携をとるために表向き実地研修ということにしてこの事務所に配属になったという感じです」

「……中央の指示ならしょうがないけど、ウチに法定の給料以上に払う余裕ないからなぁ……。だいぶ安くなるけどそれはいいの?」

「それもだいじょうぶですよ。書類の中になかったですか? 国防省と内務省から内々にこの事務所宛に必要経費負担ということでいろいろ支払われるはずですが……。当然、事務所の諸経費はもちろん、人件費も……」


 そのセリフが終わるやいなやいつの間にか私の傍らにまなみがいることに気付いた。


 えっ!? いつの間に……。こういう時の神出鬼没さはテロリスト並だな……。


「ということは、実質負担無しということ?」


 かなり前のめりでまなみが特尉さんに尋ねる。特尉さんは苦笑いして答える。


「そうなるはずです。いろいろ書類等作成の面倒は増えるでしょうが」


 特尉さんがそう言うと、まなみは改めて彼の方を向き直し、右手を差し出した。


「そういうことなら……。いたりん魔導術士事務所へようこそ」

「……はぁ。よろしくお願いします」


 苦笑いしながら後頭部を左手で掻きながらまなみと右手で握手する特尉さん。あまりのまなみの変節ぶりに特尉さん、ついていっていないみたい。


「さてそうと決まれば……。ちょっとついてきて」

「はい? どこへ」


 特尉さんはいろいろ疑問を持ったみたいだけれど、有無を言わさずまなみは彼を連れてビルの地下へ向かった。


 私もついていった。まさか、まなみ……。


 ビルの地下深くには私たち専用の術の練習場がある。中はソコソコの広さがあり、テニスコート一面ぐらいは余裕でとれる。高さも普通の建物なら二階分ぐらいはある。更に何重にも結界が張っていあるお陰でその中では結構ハードな術の訓練ができる。そんなところへ連れて行くとすればすることは限られている。


「さてそれじゃ、はじめましょうか」

「えっ? 何をです?」


 得物を前に炎のような赤い舌を出し入れしている大蛇のような怪しげな雰囲気で微笑むまなみさん。

 まなみの雰囲気にその意図を薄々感じ取りながら気づいていないような空々しいリアクションをする特尉さん。


 ……“キツネとタヌキの化かし合い”ってやつを初めこの目で見た気がする。


「難しいことなんてないわ。あなたの実力をちょっと見せて欲しいの。この中なら相当威力のある術でも大丈夫よ。おもいっきりやって」

「……そういうことですか。分かりました」


 まなみの言葉を合図に特尉さんは彼専用と思われる濃紺に染められたWADを起動する。かすかに駆動音を響かせ彼のWADが駆動する。


「とりあえず、標的を飛ばすので全部撃ち落として」

「Yes、Ma'am」


 なんだかやっすい戦争ものに出てきそうなセリフ回しだけど……。


 私が見守る中、まなみは標的の射出装置を操作する。特尉さんは……あれ、口元が微妙に上がっている? この表情はまなみにそっくり……もしかして同類? つまりは来るべくして来たってこと……?


 私がとりとめないことを考えているうちに特尉さんは次々標的を撃ち落としていた。

 まなみが連続して機関銃のように標的を打ち出すとそれを物ともせず、特尉さんは片っ端から撃ち落としていく。


 まなみさん、何だか意地になってませんかぁ……? まなみは尋常でない数の標的を打ち出していた。床には標的の破片が山となって積み重なってゆく。


 とうとう標的を打ち尽くし、カラカラと射出装置の空打ちする音だけが訓練場の響いた。


「いかがですか?」

「小手調べは終了。本番、いくわよ!」


 不敵に微笑み、なにげにまなみを挑発する特尉さん。まなみも負けてはいない。氷の微笑で答える。まなみもWADを起動、いきなり全開で術を行使した。


「この電撃鞭を凌げるっ!?」


 まなみの手先から稲妻がほとばしり、雷光のムチとなり特尉さんを襲う。


 特尉さんはなんとかそのムチを右に左にかわしていく。


「面白い芸ですね。こちらもそれなりにお答えしなければ」

「へー、この後に及んでそんな口がきけるなんてね!」


 まなみの電光ムチが激しく特尉さんの周りを打ち据える。徐々に彼を追い詰め、ついに壁際まで追い詰める。


「……後がないわよ」

「さて、ご期待に応えて……」


 まなみは勝ち誇ったように妖しい笑みを浮かべ特尉さんを更に追い詰めようとする。

 しかし、特尉さんは負けてなかった。戦闘用の圧縮詠唱で何やら術を発動させる。彼の眼前に強烈な光の球が生成される。


「反撃と参りますか! 『極大核撃』!」


 まなみを強烈な光とともに灼熱の火球が襲う!


「何っ!?」


 まなみは突然現れた火球に驚き、慌てて防御壁を形成し、閃光と高熱を遮断する。


 ちょ、ちょっと待ってよ! いくら結界の中だからって、そんな術を使ったら大変なことになるじゃない!


 あちっ! 


 特尉さんの術の衝撃波と熱風が私を壁に押しつける。押しつけられながらもやっとのことで防壁を生成、何とかその暴力的な術に抵抗する。

 そんな混乱した状況でも、バカ二人が術合戦を続けていた。その余波で翻弄される私……。まるで荒波にもみくちゃにされる木の葉みたいに……。


 ………………。


 あったまきた! なんで、私がこんな目に!


「ふぅーたぉーりぃーとぉーもぉー! イイカゲンニィーシロォオォッ!」


 私は切れた。盛大に切れた。今までになく、激しく。

 

「全てを凍てつかせよ! 『霧氷乱舞』!」


 私は強烈な氷の嵐を発生させた。

 氷の嵐は練習場内くまなく駆け巡り、場内の気温を一気に下げる。場内にあるもの全てが凍てつき、瞬く間に氷に覆われる。


 氷の嵐をおさめ、気がつくと練習場には蔵王の樹氷のようなオブジェが二つそそりたっていた。


 …………


 ……やり過ぎたかしら?


 えーえー何とでも言ってください。たぶんあの場にいた誰よりも強烈な術を発動しましたわよ。どす黒いオーラをまといましたよ。

 えーえー、やっちゃいましたよ。


 でも、そうでもしないと、あのバトルジャンキー二人を止めることなんてできなかったんだもん……。


 自分のやってしまったことに恐れおののいていると、オブジェが微かに揺れ動き出した。やがて氷が崩れ出す。


「全く……ここまでやることないじゃない」

「ひどいなぁ、こんなになったのは初めてだ」


 まなみと特尉さんが体にまとわりついた氷を払いのけつつぼやく。


 良かった生きてた……。


 って、二人ともなんか意気投合しているし……。なんかムカつく。スネてやる。


 こうして、特尉さんのウチの事務所での実地研修が始まった。


 実に過激な始まりだった。そして、うちの事務所は……。

 いかがだったでしょうか?

 まなみさんと特尉さん、同類のようですw 

 さて、お話はこれから事務所のメンバーに最上特尉が加わり騒動が巻き起こりそうな予感……


 ヾ(*ΦωΦ)ノ ヒャッホゥ


 次回お楽しみ。

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