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第12話 まなみさん…………?

事件が一段落したのはよかったがまなみの様子がおかしい。心配した杏は温泉にまなみを誘うがその温泉で……!

 もう……。まなみどうしたんだろう、最近。

 何か物思いにふけっていたと思ったら、何やら急に異常な迫力で事務仕事を片付け始めたり、ため息をついてぼーっとしているかと思うと事務所の掃除を異常な勢いではじめたり……。


 やることなす事、両極端。


 とりあえず、“お内裏様テロ事件”が一段落したのは良かったんだけど、それからまなみの行動がおかしくなった。


 まなみに「どうしたの?」って聞いても「……大丈夫」というだけで詳しく話をしてくれない。


 ……困ったな。まなみとはゆっくり話をしている暇もなかったしなぁ。当座の運営資金もあることだし、思い切って休みを取るか。うん、そうしよう。


 ということで、自分なりに結論づけた私はまなみに話をすることにした。


「まなみ、ちょっといいかなぁ~?」


 鬼のように掃除機をかけていたまなみに話しかけてみた。


「何? 今ちょっと忙しいんだけど……」

「お内裏様の件も一段落したことだし、ちょっと長期のお休みを取らない?」

「え…………?」


 何でしょう、まなみさん。ありえないような不思議そうな顔は……。

 私、何かおかしな事言いましたでしょうか?


「今、長期の休みを取るの? なんで?」

「だって、あの事案にとりかかってほとんど休みなしだったし、いい仕事をするためには休みも必要よ。それに最近のまなみなにか変よ……」

「変? 私はいつもどおりで別段異常はないわよ」

「まぁ、いいから、いいから。当座の運営資金もまなみのお陰で潤沢になったし慰労会を兼ねて温泉ってどう?」

「別段、おかしなところはないんだけど……」

「温泉どこがいい? 山陰? 四国なんてどう? 割とすぐいけるし……、あ、道後温泉なんていいかも。それとも私の取って置きの温泉にする? うん、そうしよう!」

「……いや、あの話を聞いてよ。……」

「さぁ、オンセンヘれっつごぉー!」

「あ……あの……杏、話を……」

「休み、休み♪」

「杏……」


 私は意識的にまなみの反論を無視して勝手にどんどん話を進めていった。


 ……あんまりいいやり方じゃないのはわかってるわよ。でもこうでもしない限り、まなみを強制的に休みにできないし。突然軍属にされるし、変なテロ組織と関わりができるし、これからのことをゆっくり話したかった。のんびりと仕事してのんべんだらりとできなくなったし。


 ……実際のところお仕事ばっかりで私が休みたかったという理由もあるんだけどね。また住職からサボり魔って言われそうだな……。ま、いいや。今回は大義名分があるんだし、うん、そうそう。


 ということで、まなみをなか拉致らちるように温泉へ行くことにした。


――――☆――――☆――――


 ということで、事務所の最寄り駅から温泉の最寄り駅へ移動することになった私たち。ふとまなみの様子が気になってちらっと見てみた。


 ……まだ、ふて腐れている。


「……納得いかない」

「もう、そんな顔しないで……。楽しくいこうよ、ね?」

「強引に連れてこられた……。まだ整理してない書類もあったし、事務所の掃除も終わってないし、常日頃どこかの誰かさんが雑務をきっちり片付けていれば……」

「とりあえずいいの! 温泉旅行が終わるまではそういう話はなし!」


 ほおっておいたら、まなみは何時までも愚痴りそうだったので強引に止めさせた。折角の温泉旅行を台無しにしたくなかった。


 …………えぇ、えぇ、確かに帳簿は任せっきりだったわよ。事務所の掃除も適当だったわよ。私が悪うござんした! はい、終わり! とりあえず、日頃のウサを晴らしにいくんだから止めて欲しかったなぁ……。ウサを晴らしに行こうとしているのに、ウサを増やしてどうする。


 かなり険悪な二人の雰囲気を祓うように、目的地行きの列車がホームに滑り込んできた。二両編成の古い車両だった。やってきた列車に乗ったものの、私とまなみはクロスシートに斜向かいにすわりしばらく無言のまま、顔を合わすことなく流れ行く車窓を眺めていた。


 列車は駅を出ると古い家並みを縫うように走り抜けていく。車窓にはどんよりと曇った空の下、古い家々が流れていく。あばら家のような家、ゴミ屋敷のような家、そんな古ぼけ、雑然とした家々の間を列車は車体をきしませ右に左に揺れながら抜けていく。


 まなみは相変わらずふて腐れ、流れていく車窓を何も言わず眺めていた。私も何も言わず、流れていく外の街並みを見つめていた。


 もぉ! いつまでふて腐れているのかしら? 強引に連れてきたから? いつまでもふて腐れているなら、こっちはスネてやるぞ!


 ……………………。



 ……やめておこう、不毛だわ。



 私たちが不毛な精神戦を無言で繰り広げる間に列車は進む。次第に古ぼけた家並はまばらになり、若草色の波が続く田園風景へと移り変わっていった。車内に流れ込む風は僅かに草いきれの青臭い香りが混じってきた。空は僅かに雲の切れ目から光が差し、光の帯が若草色の波間に消えていた。


 ふと、まなみをみると何か物思いに耽り、風に揺れる若草色の波を見つめていた。ふて腐れた雰囲気はなく、ただ景色に見入っていた。私は不思議な感じで外からの光に照らされるまなみを見ていた。


 列車は若草色の波間を抜け、きらめく川の水面みなもを横目に堤防の上を車体を軋ませながら海へ向けて走っていく。


――――☆――――☆――――


 目的の温泉の最寄駅につく頃には、空はすっかり晴れ上がった。その駅は海に近く、磯の匂いがそこかしこからした。それに加えて、温泉街特有の硫黄の匂いが混ざりこの街の独特の匂いを醸し出していた。


「ついたぁ~。ん~、温泉の匂い。この匂いを嗅ぐと温泉地に来たって感じするわね」


 私は大きく伸びをして、温泉地の空気を胸一杯吸い込んだ。やっぱ、良いわぁこの雰囲気。この匂いがすると温泉地へ来たって実感するわぁ。

 

「……硫黄臭い」


 まなみさん……。温泉地とはそういうものですよ……。


 温泉地の雰囲気を今一楽しんでいないまなみと一緒にホテルへ向かった。


「晩御飯まで時間があるし、大露天風呂いかない?」

「露天風呂……?」


 もしかすると、まなみさん露天風呂入ったことないとか……? 


「ここのお風呂はちょっと変わっていて、大きな露天風呂と石風呂があるの」

「石風呂? ……石のお風呂? 石の中に入るの……?」

「石の中に入るといえば入るわね。実際のモノは見てのお楽しみ。ふふっ」


 まなみ、不思議そうな顔をしている。学生時代にも見たこともないような不思議そうな顔をしている。んでも、ちょっとだけ温泉に興味をもったみたい。


「それから、ここには普通の露天風呂だけじゃなくて、世界最大の“露天風呂”もあるし。期待しててね」

「世界最大……? どんな露天風呂なんだろう?」


 世界最大に反応するまなみ。とりあえずまなみの機嫌も治ったみたいだし、お風呂へGO! 


 ここのお風呂は温泉内専用のローブのような服を着て入浴するところも変わっているんだけど、幾つもある石風呂や“世界最大の露天風呂”が非常に面白い。他にはないユニークなお風呂なの。石風呂はサウナみたいな蒸し風呂で、石室を温めてその中にこもる。すると全身から大量の汗が出てくる。一体どこから出てくるのかと思うぐらい大量の汗をかいた後、水を浴びたりするとサッパリ! また普通の露天風呂だけじゃなくて、ここしか言わない“世界最大の露天風呂”てのもなかなか。


「これが露天風呂なんだ。はじめて入る。お祖父様のところのお風呂ぐらいねぇ」


 と、まなみがここにある普通の露天風呂を見て一言。


 ……うーむ。サラッと一般大衆では言えないようなとんでもないことを言ってしまう辺りまなみさんの日常が垣間見えるような……。


 水平線に傾いた太陽を見ながら、二人並んでゆったりと湯に浸かる。


「……いい湯ねぇ」

「本当、市井の公衆浴場でこんなにゆったりできるのねぇ……」


 まなみさん、貴女はどこぞの貴族ですか……。まぁいいか、まなみだし。


 暫し、無言で二人並んで海を見ていた。こんなに二人でゆっくりしたのって、事務所を立ち上げてから初めてじゃないかなぁ。


「そろそろ、石風呂いかない?」


 珍しい。まなみから言い出すなんて。あまり彼女のほうから誘われることなんてなかったしな。これも、温泉の効果?


 とりあえず、露天風呂を上がり、石風呂へ向かった。石風呂正面にはには五十センチ角ほどの木戸があった。案内看板によるとその木戸をはいつくばるようにくぐり、中へはいると書いてあった。


 ここの石風呂はいわゆる蒸し風呂で、早朝に部屋の中で火を炊き、その余熱を利用している。床にはムシロがひかれ、四畳半ほどの部屋の真ん中には海藻などが入った木箱が置いてある。部屋の熱によって、海藻などから湿気だけでなく、様々な薬効成分が揮発するらしい。それが体に良いらしい。……詳しい理屈は分からないけど。


 私はまなみに木戸を先にくぐらせ、その後に続いた。その先の灯りは裸電球一個だけで薄暗かった。


「狭いなぁ……。あ、中はわりと広いのね。入るときがちょっと屈辱的ね。私が跪くなんて……」


 まなみさん……。本当に何者なんですか、貴女は……。


「海藻の匂いがすごい。二人きりで石風呂独占しちゃったね」

「……二人きり」


 偶々、石風呂の利用客は私たち二人きりだった。彼女は“二人きり”というセリフに妙な反応した。その後特に大した会話もなく、石風呂の中で時が過ぎる。まなみを見ると、すでに汗だくになっている。それだけでなく中の裸電球の光のせいか、まなみが上気しているように見えた。まなみが妙に艶っぽい上目遣いで私を見つめている。


 まなみさん何だか変ですよ……。


「……聞いてみてもいいかな?」


 ナンデショウカ、マナミサン? 


 何やらただならぬ気配を感じ、私は必要以上に身構える。ただならぬ気配を漂わせ、まなみは私のほうへにじりよる。


「抱きしめられるってどう?」


 ……えっ!? ちょっとどういうことか分からない。もしかして、貞操の危機ですか…………?


 私は想像を絶するまなみの問いかけによって、完全にパニックに陥った。


さて、怪しい展開になってまりました。さてこれからどうなることやら。ご期待ください。

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