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第11話 奪回!

 テロリストを追いかけて古い倉庫に辿り着いたいたりんたち。倉庫内で図らずも戦闘となる。敵はかなりの手練のようだった。さぁ彼女たちはどう戦うのか? この戦いの結末やいかに!

「伏せてっ!」


 突然の相棒の叫びに訳もわからず、取り敢えず言うとおり伏せる。彼女は術を発動させ、暗がりの向こうの何かを攻撃する。


 まなみの雷撃が光の小龍となって倉庫奥の暗闇へ向かう。かすかに何かが光り、陰にいる何のものかは直ちに反撃してきた。暗闇から電光がほとばしり、私たちを襲う。


「何っ! 魔導障壁!」


 反撃の雷撃が私たちを襲った!  白銀の雷撃が私たちの周りを黒く焦がす。まなみの展開した障壁に当たった雷撃がストロボのように私たちを照す。


 雷撃の強さや反応の速さから見て、かなりの手練れとみた。こんなに素早く、正確に反撃出来るところから見ても明らかだわ。また、厄介なことに……。


「散って! 一つところにいると良い的になるっ!」


 私は皆に指示を出し、手近なところに身を隠した。他の二人も同じように物陰に身を隠したようだった。

 様子を見ながら、暗がりへ散発的な攻撃を加えてみたが手応えがない。

 だんだんイライラが募り、気だけが焦る。

 他の二人も同じようだった。


 とうとう、特尉さんがしびれを切らした。


「自分が囮になります! ヤツに攻撃を!」


 えっ! ちょっと先走らないで! あ……。仕方ないなぁ。


 特尉さんが敵の注意を引くよう、暗闇へ向けて、氷の散弾を放つ。さっきと同じように特尉さんに向けて、氷の散弾による反撃がくる。


 まるで、鏡に反射したみたいに正確に反撃してくる……。ん? 鏡みたいに反射……? 鏡みたい……? もしかして……。


「みんな、攻撃をやめてっ!」


 私はふと思いついたことを確かめたくて、全員の攻撃をやめさせた。すると、何事もなかったかのように辺りは静かになった。


 やっぱり……。


「杏、もしかして……」


 さすが相棒、察しが良い。


「どういうことです? こちらが攻撃しなくなったらとたんに攻撃が止むなんて……」


 実戦経験の乏しい特尉さんにはちょっと難しいかなぁ。


「鏡よ。か、が、み」

「鏡っ!?」


 どうやら、かなり予想外の答だったらしく、特尉さんは素頓狂すっとんきょうな声をあげる。


「詳しい説明は後、前に行くわよ。まなみ、先行して。特尉さんは彼女をフォローお願い」


 まなみは辺りを警戒しつつ、前にゆっくりと進む。その後を特尉さんがついて行く。

 私もその後をついていく。


 奥のほうは一段と暗く中にあるものが確認できない。恐らくあの仕掛けがあるはずなんだけどよく見えない。

 確信はあった。けど、実際この目で確認しないと安心できない。何せ相手は本物のテロリストだから……。


「明かりを点けてくれる? まなみ」


 私が言うとまなみはなにも言わず、光の玉を術で生成、明かりとした。

 そのお陰で、闇のベールが剥がされ、倉庫内部の詳細があらわになった。

 倉庫内部はガランとして、さして物は置いてなかった。ただ、真ん中らへんに奇妙な機械のようなものが置いてあり、その更に向こうに古びた事務机のようなものが見える。


 まなみは堂々と部屋の真ん中にある機械のようなものに近づく。特尉さん、私もその後に続く。


「あれね、反撃してきたのは!」

「なんですかあれは? 変な形の機械ですが……」

「……魔導術反射装置よ」

「反射装置……?」

「あの機械のすることはただひとつ、魔導術を正確に反射する……。それだけの機械よ。殆ど使われなかったから、もうどこかへ消えてしまったと思ってたのに」


 まなみは憤慨ふんがいやるかたなしといった感じでその機械を眺める。特尉さんは初めて見たのか、珍しげにそれを眺めていた。


 まなみは大股でその機械のようなものに近づく。彼女はその機械のようなものを蹴り倒そうと足をふりあげる。


 まなみの足に何かが引っかかる。

 

 ごく細いワイヤーが跳ねていくのが見えた。


 それを見た特尉さんは血相を変え、まなみに突進する。


「危ない!」


 突然、特尉さんが叫び、まなみに飛びついた。二人はバランスをくずし、絡み合いながら倉庫の床をころがっていった。


「なっ!? 何すんのよっ! えっ!?」


 まなみの抗議の声が上がると同時にその機械は大音響と共に爆発した。


「……ありがちなブービートラップです。間に合って良かった」

「……ブービートラップ……?」


 特尉さんの機転で危ないところを回避したまなみさん……。

 何かほうけてますが大丈夫ですか? どうも彼女はまだ事態を完全には把握できてないみたい……。


「よくあるんですよ。思わず手にとってしまいそうなもの、触ってしまいそうなもの、例えば人形とか死体とかに起爆装置を連動させて、触った途端に……。ボンッ! ……てね」


 起き上がりながら、ずいぶん物騒な話を特尉さんは少しおどけて、手振りを交え説明する。

 特尉さんの説明だと、無警戒に手にとってしまいそうなものに爆発物や木の杭や落とし穴などを仕掛け、不注意に触ると爆発したり、木の杭が飛び出してきて串刺しになるとか、落とし穴に落とされるとかするいやらしい罠だとか。ゲリラ戦などでは今でもよく使われるらしい。破壊力と言う点ではそれほど脅威になるものではないけれど、心理的なプレッシャーは半端な兵器の比じゃないそうな。


 本当に面倒だな、テロリストってやつは。やり方 がいやらしいったらありゃしない。


 しかし、まなみさんはまだ惚けてる。そんなにブービートラップの影響が? ……どうしたの? そんな恍惚こうこつとした表情をして。何か違うみたい……。

 まあ、しばらくそっとしておこうか。それより、テロリストは? お内裏さまは?


 私は倉庫の中を見回した。人影は私たち三人の他にはなく、ただ古びた事務机が見えるだけだった。


 あれ? 机の上に何かが……。


 人形……?


 私はゆっくりと足元を確かめるように机に近づいた。机の上に盗られたお内裏さまが思わせ振りに鎮座ちんざしていた。


 なんとも、わざとらしい……。あれもトラップなのかな?


「気をつけて下さい。トラップ相手には気を抜いたら負けですよ」


 特尉さんが深刻な顔で励ましてくれた……らしい。とにかく、お内裏さまを取り返さないことには。


 慎重に歩を進め、机の周りを歩き机とお内裏さまを観察する。


 別段変わったところは無さそう。


 まなみは床の上でまだ惚けている。特尉さんは机から距離を取り、一人障壁を展開不測の事態に備えている……らしい。


 ……普通、逆じゃないのかな? なんで、素人の私がトラップと相対あいたいしないといけないの? ……スネてやる。いや、何かあったらバケてやる、絶対。


 チラッと特尉さんを見ると、胸の前で拳をにぎっている。


 ガンバレってことですか?

 体張れってことですか?

 ……


 仕方がない。


 覚悟を決めるか……。


 思いつく限りの悪態を心の中でつけるだけつき、お内裏に手を伸ばし、ゆっくりとお内裏様を持ち上げる。何事も無くお内裏さまは持ち上がり、取り戻すことができた。


 よかった。何もない。これで任務完了ね。


 ほっとした刹那、お内裏さまがあったところから強烈な閃光が射す!

 あまりの強烈な閃光に視界にあるもの全てが真っ白になりあらゆる存在が視界から消え去った!



 やってしまったぁぁー!


 あぁ、天国のおとーさま、おかーさま、あなたたちの娘がもうすぐそちらへ参ります……。


 …………


 …………


 …………あら?


 なんともない。何、今の? 光っただけ……?


 現状を把握できず戸惑っていると、どこからともなく怪しげな声が聞こえ始めた。


 惚けていたまなみもさすがにこの声に正気を取り戻し、警戒している。特尉さんも辺りを見回し声の主を探している。


――この声を聞いているならば、我々の余興よきょうを楽しんでいただけたと思う。おそらくは公安か軍の魔導術士どもであろう。ほんの挨拶代わりの余興だ。我々『反魔導術人民解放戦線』はこれより長き眠りから目覚め、反魔導術闘争を再開し、魔導術及び魔導術士によって虐げられ、踏みにじられた人民の開放に全力を尽くす所存である。我々は崇高なるこの闘争を全力で完遂し、愚劣な魔導術で汚染された地球を浄化する。公安及び、軍の魔導術士どもに告げる。我々の活動を妨げるならばあらゆる手段を講じ、全力でその妨害を排除する。その他魔導術士及びこれに関係する者どもも排除の対象である。願わくばこの警告に従い、無益な抵抗を放棄することを願う――


 その声は一方的な主張だけを垂れ流し、聞こえなくなった。


 しかし腹が立つ。単に物騒な活動再開宣言に付き合わされただけじゃない!


「……全く、厄介な連中が動き出したわ。当面静かな生活からはおさらばしないといけいないわね」


 まなみが独り言とも私と特尉さんへの語りかけともつかない口調で独白する。


 確かにまなみの言うとおり、こうどっぷりテロリスト撲滅に関わった以上、以前のような安楽な生活はできない。


 ……さらば愛しき平穏な日々よ。


 私が感慨にふけっていると、特尉さんが冷静に突っ込む。


「あのー、そのお内裏さまって本物なんですか?」


 あ、忘れていた。大丈夫かな? 


 私はお内裏さまの隅から隅まで調べてみた。ひっくり返したり、降ってみたり、色々してみたが何の変哲もないお内裏さまだった。


「大丈夫みたいよ。とりあえず、目的の一つは達成したわ。帰りましょう」


 なんとも言えない徒労感とともに倉庫を後にした。


 後始末は警察に任せて、私たちは私たちのするべきことをしましょう。

 新たな脅威と戦うために……。

 やっとお内裏さまを取り戻した彼女たちであったが、本格的にテロリスト『反魔導術人民解放戦線』と戦うことになった。

 まさに一難さってまた一難。

 彼女たちの前途に何があるのか?

 次回、お楽しみに

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