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第10話 再捜査

 成り行きで軍属となったいたりんたち。仕方なく今後の方針を話し合う。結果、もう一度最初から洗い直すことになる。最初からたどり直した結果、怪しい倉庫にたどり着く。そこで何かが!

 結局、まなみと特務少尉さんと事務所下の喫茶店でミーティングを兼ねたお茶会になってしまった。


 全く、なんでこうなった……。


 私が軍属……ねぇ……。


 割りきれない思いを抱える私の横でまなみはほくほく顔だった。


 あんたは金づるができれば、とりあえずそれでいいんかい……。最近、まなみが守銭奴と化しているような気がする……。付き合いを考えないとイカンのかねぇ……。


 とりあえず、喫茶店の一番奥の席を陣取り、話し合うことにした。マスターの店の一番奥は特に会話内容を秘密にしないといけないときにいつも使っている席で、特別仕様になっている。


「いらっしゃい。今日は珍しいねぇ。そちらは軍人さんかい?」


 マスターがお冷を持ってきた。


「ええ。こちら最上特務少尉さんだそうです。色々あって一緒に仕事をすることになったんです。…………で、いつものようにお願い」


 私は簡単に特務少尉をマスターに紹介し、特に会話内容が外に漏れないように奥の席を防音化するようマスターにいつものように頼んだ。


「軍が絡んできたのか……。わかった、準備しよう……」


 はて? 何かしらマスターの視線に冷たいものを、ほんの一瞬感じた。


 何だろう?


「それで、ご注文を承りましょうか?」


 次の瞬間、いつものにこやかなマスターの戻り、注文をとり始める。…………私の思い過ごしかな?


……………………ま、いっか。


 席を取り囲む透明な合成樹脂のボードが不透明化し、防音化ができたようだ。


 準備ができたのでとりあえず、軍のつかんだ情報と私たちのつかんだ情報とを付き合わせ、現状の確認を行う。


 聞けば、軍のつかんだ情報も私たちと大差ないものだった。


 反魔導術人民解放戦線の連中が関係してるらしいこと、ただし、組織だった動きは示しておらず、単独犯の可能性があることなど、私たちの持っている情報以上の情報は無いようだった。


「……かなり手の込んだ偽装をしているか、それとも組織の跳ねっ返りが勝手にやっているかそんなこともわからないなんて……」


 まなみの言葉に全員が頭を抱える。


 イカン、このままでは行き詰まってしまう……。そういえば、特務少尉さんはどうやって追っかけていたのだろう?


「……特務少尉さんはどうやって、ヤツを追っかけていたの?」

「えっ……? ほとんど情報がなかったのであの辺で網を張ればなにか引っかかるだろうと思ってたんだけどね……」

「……テロリストじゃなく、私たちが引っかかっちゃったということね」

「そういうこと」


 やっぱり、いいアイデアに結びつかない……。


「……逆に、お姉さんたちはどうやってあそこへ?」


 特務少尉さんが質問してきた。

 

「それはうちの有能なイタコさんが頑張ったの。それにテロリストを感知する訓練も受けたから…………」


 まなみが妙に胸を張って説明しだした。

 ……まなみさんがそれほど胸を張ることないように思うんだけど。付き合い長いけど、まなみさんの価値基準が今一つ判らない……。


 あれ? 特務少尉さん? 

 彼は不思議そうにこちらを見ている。


「何か?」


 彼の反応に違和感を覚えたまなみが彼に不快感を多少表した。


「……いえ、この時代に“イタコ”が存在していることに少々驚きまして。それに……」

「それに?」

「イタコが軍務に貢献していたなんて驚きです」

「……イタコを何だと思っているの?」


 何だか特務少尉さんには特別講義が必要なようね、イタコについて。まなみじゃないけど、後でたっぷり“教育”してあげませう、うん。


 などと、仄かに黒いオーラを漂わせ、よからぬことを考えていたら、まなみと彼とが二人で話し始めた。


「……そんなことはさておき、これからどうするかよね。どう考える、特務少尉さん?」


 まなみは少々挑発的な口調で、見方によっては小馬鹿にしているような笑みを浮かべつつ、特務少尉に問いかける。


 特務少尉はまなみの対応に苦笑いし、考え出す。しばしの黙考の後、徐に口を開いた。


「……もう一度最初から追っかけてみるのはどうでしょう?」

「最初からって?」

「ええ。この事件の発端からです。人形を盗られたところから、もう一度追いかけなおしてはということです」


 ふむ…………。どのみち、あてがないのだからそれも一つの手か。でも……。


 更に彼は話を続ける。


「自分の理解が正しければ、“イタコ”の能力の出番ではないでしょうか? 今なら、まだわずかに奴の痕跡を追えるかもしれません。喩えが適切でなかったら申し訳ないですが、イタコの力とは警察犬がにおいで犯人を追う能力に喩えられると思います。警察犬が残された犯人の“残り香”を追うようにイタコは犯人の感情が込められた魔導素子を追える。ならば、もう一度始めから“残り香”を追えば犯人にたどり着く……ということは考えられませんか?」


 ……確かに。

 現状ではダメで元々、やってみる価値はありそうね。どのみち、手掛かりは無いんだし……。

 彼って、わりと頭が切れるほうなのかも。ちょっと見直した。単なるどら息子じゃなかったみたいね。


「……それじゃ、当面の方針は決まったわね。早速、現場へ向かいましょう!」


 私がかけ声をかけるとほぼ同時に彼が水を差した。


「あのぉ……、現場へ行く前にちょっとご相談が……」


 この場において何の相談なんだろう……? タイミング悪いわね。


「何の相談かしら?」


 私は職業的微笑をたたえつつ、特務少尉さんを見た。

 彼はちょっとためらいつつ、私が想像し得ないほど、斜め上の言葉を発した。


「よくよく考えると、お姉さんたちをなんと呼べば良いのかなぁー、なんて思って……」


 あ、まなみさんが見事にずっこけた……。

 私も突然の緊張感の無い唐突な発言に魂が口から抜けかけた……。


 …………なんと緊張感の無い。改めていわれるとそのとおりだけど、これから死地に赴こうとするときにすることかな……? まぁ、一応共同作戦を遂行する仲間ということだから必要と言えば必要だけど。


 仕方ない……。


 私は腰に手をあて少し投げやりな口調で言い放つ。


「……“イタコのいたりん”こと、板梨 杏。杏でいいわ。こっちは桜庭 まなみ」


 まなみは自慢の漆黒の長い髪をかきあげ、彼に自分の名を告げる


「まなみでいいわ」


 彼は私達に軽く敬礼する。ただ、もう一言追加してきた。


「ご存知のとおり、最上特務少尉です。特尉でかまいません。後、ちょっとお願いがあります」


 もう、何よ。何だか怒る気力も失せてきた……。注文の多い特尉さんだな。


「一応、自分が特高生生なのは対外的にいろいろあるので、極秘事項ということでお願いします。ここにいるのはただの『最上特務少尉』ということで心に留めていただきたい」


 事情はよくわからないけど、極秘事項をばらして揉め事になるはゴメンだったからとりあえず了承した。


 そんなことより、早いところヤツを追っかけなきゃ!


「それじゃ行きましょう、特尉さん」


 私とまなみと特尉さんの三人で店を出て行った。


――――☆――――☆――――


 爆発事件が発生して、大分手間取ったせいか、季節はいつの間にか早春から初夏へと変わっていた。庭先に咲き誇っていた黄色いマンサクやロウバイの黄色い花はすでになく、庭木の若芽の若々しい黄緑色が街を覆っていた。


 私達三人は爆発のあった現場の家――依頼人の家――についた。


「ここが現場ですか。……ずいぶん大きな旧家なんですね」


 特尉さんが依頼人の家をみて感嘆の声を上げる。


 この辺りは旧家が多いから、意外と大きな家が多い。しっかりとした入り母屋造りの屋根には立派な破風があり、その上には鯱がそそり立っていた。一見すると大昔の武家屋敷群のようにも見えた。


「さて、それではやりますか」


 そういうと私は意識を集中し、周囲の魔導素子を探った。まなみはWADに魔力を込め、不測の事態に備える。


 ……さすがにここは街中とは違って、雑音が少ないわね。とは言うのものの、少し時間が経ちすぎたせいか、“悪意の残り香”が残ってないみたい。


 私は周囲に漂う魔導素子だけでなく建物や庭石や道端の標識にこびりついている僅かな魔導素子にも注意を払い、慎重に周囲の様子を探った。


 ……ん? あれは……。


 星少年がお内裏様を渡されたという地点からうっすらとではあるが、黒い影がストロボ写真のようにある方向に続いているのを見た。薄墨のような黒い影は海岸沿いの道路を港の方へ向かっていた。


「まなみ、行くよ!」

「ヤツのしっぽを捕まえた?!」

「ええ、そうみたい。行きましょう!」

「特尉さんもっ」


 突然、声をかけられた特尉さんは状況を理解しないまま、私達についてきた。私達は薄墨の影を追って、港へ向かった。


 港には古い倉庫や大昔、商家だった家並みが続く。影は路地を蛇のようにのたうち奥へ奥へと移動していたようだった。


「ずいぶん、奥のほうまで来たけど……。こんな奥にいるんですか?」


 特尉さんが多少不安そうに私に聞いてきた。


「イタコの力を信じなさいって」


 まあ、彼には見えていないのだから仕方ないけど、もうちょっと信じてくれるといいんだけどな。


 入り組んだ路地のそのまた奥の奥、ほとんど人が来ない打ち捨てられたような倉庫の前に辿り着いた。薄墨の影はその中へ入り込んでいた。


「ここのようね……」


 私たち三人は慎重にその倉庫へ近づく。入り口は錆びた扉でいつ崩れるかわからないほどぼろぼろだった。その扉越しに内部を慎重にうかがう。


「……誰もいない……のかな?」


 扉の隙間から見える倉庫内部はほの暗く、様々なものが散乱し雑然としている。


人気はない……かな? 怪しい人のいた“残り香”はうっすら見えるんだけど。


「入ってみましょう」


 まなみはそう言うと錆び付いた扉に手をかけた。


 扉は甲高い摩擦音をたてながら、ゆっくりと開かれていく。


 倉庫の中は、薄暗く、屋根や壁の隙間からもれる光の筋が数本、不規則な幾何学模様を成しているだけだった。


 ……ほんとに誰もいないのかな? 何かがいるような微かな気配はあるんだけど今一つハッキリしない。ヒトのようでもあり、そうでもないようでもあり……。ハッキリしてよ、腹立つ!


 抜き足差し足で奥へ進む私たち。


 何もないなぁ……。これは空振りかな?


「伏せて!」


 まなみ、どうしたの?!

いかがだったでしょうか?

いたりんたちが遭遇したものとは一体? 

次回お楽しみください。

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