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第9話 二人の軍人

 あの少年兵に出会った数日後、二人の軍人が事務所を訪れた。その軍人からもたらされた話は杏を、まなみを驚愕させた!


 お読み下さい。

 数日後、濃紺の軍服に身を包んだ軍人さん二人が事務所にやってきた。一人は若い士官のようで、もう一人は恰幅のいい、いかにも歴戦の猛将といった雰囲気の軍人さんだった。


 …………あれ? 片方はもしかして、このあいだの少年兵さんかな? とすると、もう一人は彼の上官ってところか……。まぁあの時、住所やら連絡先を教えたから事務所へ姿を現すのはいいんだけど。


「いらっしゃい」


 おっと、珍しくまなみさんが率先して接客している。何か思うところでもあったのかな……?

 

 件の少年兵とおそらく彼の上官であろう軍人さんは、珍しく真っ先に対応したまなみに単刀直入に何か話を切り出したようだ。

 そのせいか上官と思われる軍人さんに対しぞんざいな態度でまなみさんが接している。軍人さんも横柄な態度で彼女に何か説明する。


「で?」


 まなみさん、まなみさん…………。一応、お客さんなんだから……。


 少しまなみを呼んで、事情を聞いてみた。


 まなみの話によると、事務所へ入るなり『このテロ事件から手を引け! 市井の国家魔導術士の手に負える事案ではない』などという趣旨の発言があったそうな。彼女は訳が判らないので、理由を聞くと『現状では機密事項に抵触する恐れがあるので言えない』……ときたもんだ。


 藪から棒になにを言い出すのかと思った。こっちだって遊びであんな危なっかしいことをしてた訳じゃないし、何の説明もなく手を引けと言われてもできるはずがない。


 それで、まなみは機嫌が悪くなってあんな発言に……。


 ……なら、配慮もへったくれもないか。


 とにかく、例え機密事項であってもそれなりの段取りというものがあるでしょう、普通は!


「こちらとしては、何の前置きもなく『市井の国家魔導術士には手に負える事案ではない』と言われても、はいそうですかと返事できるはずもないのですが……」


 彼らの前にもどったまなみが軍人二人に食って掛かった。


 私も急いでその場に駆けつける。


「……残念ながらこちらに市井の国家魔導術士に配慮する義務はない。当然、詳細な説明をすることもない。君たちが選べる選択肢は『はい』か『いいえ』のどちらかだ」


「…………とすると、少なくとも拒否することは可能なんですね」


 まなみさん、悔しいからってそんな揚げ足を取らなくても……。あ、軍人さんがニヤリとした。


「……ちょっと言い方を間違えたようだな。この事件に完全に無関係の人間になるか、それとも……」


 上官が不敵な笑みを浮かべ、妙な間を作る。なんなのよこの思わせぶりな言い方は。


「それとも?」


 間が持てなくて、思わず上官に突っ込む。それでも、何かもったいぶって、不敵な笑みを浮かべ、次の言葉が来ない……。


 もぉ、さっさと要件を言ってよ!


 彼はさらに口元を上げ決定的な言葉を告げた。


「……われわれの指揮下に入るか」


「え? ちょっ、ちょっと、待ってください! 私達は内務省の管轄下にいる国家魔導術士。なんで国軍の指揮下にはることになるんですか!」

「その件に関しては、ちょっと根回ししてあってな。ほらこれを読め。ただし、読んだらもうこの件から手を引くことはできんぞ」


 そう言ってその軍人さんはとある書類を取り出した。まなみと二人で確認するとその書類には以下の様なことが書いてあった。


『……板梨 杏、桜庭 まなみ両名を国防省管理下国防軍軍属として臨時派遣する。 内務省 内務大臣 ……』


 なんじゃそら……。いつのまにか軍属させられていた。


 国家魔導術士は基本的に二つの政府組織のどちらかの管轄下になっている。ひとつは私達みたいな軍に所属しない国家魔導術士は内務省管轄下、それ以外は国防省管轄下に置かれ、大抵が国軍つまり国防軍の軍人として職務を果たすことになる。当然、私達みたいな内務省管轄下の国家魔導術士が基本的には国防軍の指揮下に入ることはないわけで、今回のことは異例中の異例ということになる。

 しかも、内務省と国防省はあんまり仲が良くないそうな。ことあるごとに権限やなんかが対立するらしく、新聞の紙面や週刊誌の格好のネタにされる二つの組織が協調した今回のようなことは異例中の異例。


 ……ということは、今回の事案はそんな諍いを傍に置かなければならないほど緊急事態ということになる……のかな?


 ……なるかもしれないけど、こっちは軍人さんになる気はないわっ! 勝手に軍属されても! この国の存亡がかかろうがどうだろうが、そんな責任ないはずよ、一介の魔導術士に!


 などと、一人憤っていると件の軍人さんは私をほったらかしにして話を進める。


「基本的な任務は今までのテロリスト捜索を行ってもらえばよい。彼の代わりにな」


 ……彼の代わり? どういうこと?


「どういうことでしょう? 詳細な説明を求めます」


 まなみが多少苛立った様子でその軍人さんに尋ねる。


「ここにいる特務少尉の代わりにテロリスト探索をやっていほしいということだ。簡単に言えばな」

「なんで、そこの特務少尉さん代わりなんでしょう? 特務少尉さんがやればいいことじゃないですか」

「実は機密扱いにしてもらいたいのだが彼は国軍の所属であると同時に特高生でもあるのだよ。特高生にはやはり勉学もしっかりやってもらわんとな」


 特高生!


 特高生とは帝国立特別高等学校の生徒のことで、帝国立特別高等学校(通称:特高)とは国のエリートになるべき人材を育成する教育機関。ここを卒業できれば、それだけで将来が保証されるとまで言われている。

 しかも、彼が国軍とどっぷりの関係ということは将来的には統合作戦本部付参謀かなんかのエリートコースを歩む軍人さんの卵ということになるわな……。


 …………しかし、そんなこと関係ないでしょ! 市井で地道に働く魔導術士を無理やり軍属にして、エリートの卵の下働きなんて、理不尽にも程がある! しかも、なんで魔導術士専門学校あがりの私達がバトルジャンキーの特高生の下働きを……。


 魔導術士専門学校(通称:魔専)は基本的に非軍事分野での魔導術訓練、知識に特化して勉強する。だから戦闘系の魔導術の訓練はどうしてもおざなりになる。

 一方、特高では国のエリートを目指す関係からか軍事関連の魔導術訓練、勉強に力を入れている。

 だから、魔専の出身の国家魔導術士は魔導術を戦闘に使うことを避ける傾向があり、逆に特高出身の国家魔導術士は何かと魔導術戦に持ち込みたがる。そのせいで魔専の学生は蔭で、特高生を『バトルジャンキー』などと罵っていた。最も、特高生も魔専の学生を『魔導術の本当の使い方を知らない愚か者』と言っているみたいだけど……。


「学業の合間に軍務につく“時給兵士パートタイムソルジャー”の代わりってわけね、全く! 国家魔導術士も安くなったもんね!」


 まなみの嘆きにうなずくしかない私……。“時給兵士パートタイムソルジャー”とは言い得て妙だわ。

 しかし、理不尽な話よねぇ。単純に言えば、いいところのお坊っちゃんが勉強に専念するためにバイトを代わりにやらされるようなものだしねぇ……。


 特務少尉さんは多少まなみの発言に異議があるのか、顔を少し紅潮させてこちらに食って掛かろうとしたが、上官に静止された。


「……まぁ、そう言うな。いみじくも、帝国軍人となるからには黙々と任務の遂行に邁進すればよい。それに今回の措置はこの任務に限定したものだ。任務が終われば君たちは現状復帰できる。さっさとテロリストどもを見つければ良いだけの話だ。簡単だろう? 無論、拒否もできなくはないが、その後どうなるかよく考えることだな。ことは緊急を要する。回答は一両日中にだしてくれ。私はこれで失礼する。後は特務少尉に任せる」


 言いたいことを言いたいように言いたいだけ言って、その軍人さんはさっさと事務所を出ていった。


 後には、“時給兵士パートタイムソルジャー”の特務少尉さんと途方にくれる私たち二人が残された。


「…………それでどうしますかな、お姉さんたち」

「どうするって言われても…………ねぇ」


 私たちは彼の問いかけに顔を見合わせるばかりだった。


「今回の措置は相手があのテロリストなんでやむを得ない措置ということ、ご理解下さい」

「そう言われても、いきなりやる気のない軍属に知らない間にさせられて、任務遂行せよといわれてもねぇ…………」


 私がぐずぐずごねていると、特務少尉さんはアゴに手をあて、何か思い出そうとしている。


 少し間があって、何かを思い出した彼はにこやかに宣う。


「確か、任務に着いている間は給料も出るし、それなりの危険手当ても支給されると聞いておりますが……」


 それまで、唐突に降ってわいた出来事に茫然としていたまなみの目がその言葉を聞いた瞬間、獲物を狙う鷲のように鋭く輝く。彼女は、間髪を入れず質問する。


「経費は落ちるの?」

「もちろん。それなりの経費は軍で持つと聞いてます」


 いきなり、まなみが彼を見つめ、彼の手を強く握りしめた! なっ、なんなのまなみさん……?


 あまりのまなみの勢いに軍人さんである特務少尉さんが気圧されて、仰け反り気味になってる!


「早速、作戦会議といきましょう。ことは急を要するわ!」

「えっ? ちょっちょっとまっ……」


 まなみは特務少尉さんと事務所を出ようとする。


「まなみ、ちょっとまってよ! 私は……。そんなこと同意してないよぉ~。まなみったらぁ……」

「いいから、いいから。いくよ、杏!」


 妙に浮かれて、まなみは事務所を出て下の階へ降りていった。

 彼と何やら話をしているようだ。


 あ……。握手した。


 …………結局、私を置いて、まなみが話をまとめてしまったようね。


 お給金と経費負担に釣られたまなみさんによって、結局軍属にならざるを得ないのね…………………………。


 もぉ! スネてやる……!

 いかがだったでしょうか? 事件に巻き込まれたせいで臨時とはいえ軍属になってしまった杏とまなみ。さて二人の行く先にはどんなこんな困難が待ち受けていることやら……。


 ご期待ください。

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