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魔王までの道のり。

作者: ジェル





異世界トリップ。


それはきっと、誰もが一度は夢見ることだろう。例に漏れず、私も。


チートを手に入れて!


美少女と出会って!

(幼女でも可)


ギルドに入って!


魔力ははかりしれず!


 二つ名とかついちゃって!


 助けた美女に懐かれて!


 ハーレム築いちゃって!




そう、それは異世界無双!!





なんて。

テンション上がってたのも、ついさっきまで。


だって!

私には!


チートがないから!!


待てよ。

最近は、魔力ないながらに現代の知識を生かし、頭を使って、努力で最強になってる主人公もいる。

そう。しかし。

私は、それなりに偏差値の高い進学校にはいたが。

それは、現代の環境があって、それの上に成り立つ知識なのだ。

例えば。

学校で酸化亜鉛やら炭酸ナトリウムを合成できたって、中世ヨーロッパな世界じゃ、何の役にもたちゃしないのだ。

まず、合成するための機器すらないしな。


つまりは、そういうことなのだ。



地球と重力が違うくて、身軽なんてこともない。

あれれ、魔力が見えちゃう!なんてこともない。








…………どうすんのこれ。




どうなんのこれええええ!!










異世界転生なら、まだ望みはあったように思う。

しかし、私はへこたれなかった。


現代日本において、特殊な環境にいたわけでもない私は、それでも諦めなかった。



森の中で、最弱の存在である私は、まず寝床の確保と水源の調査を行わなければならなかった。

キモイ生物しかいない森の中を気配を殺しながら、匍匐前進した。心身共に鍛えられた。今じゃ、並大抵のことじゃ驚きはしない。


夜は危険すぎたので、木の上で睡眠をとった。まともに睡眠がとれるわけもなく、だいぶ衰弱したけど。わらわら。


そうやって、なんとかかんとか暮らして、死にかけては助かって、戦って、殺して、生きて。




ここらへんには、キモイ生物しかいないことに気づいた。



いや、見渡すかぎり森しかないしさ。いっぱし高い木に登ってみても、見渡す限り森だしさ。

文明なんて、ない。

人間なんて、いない。


私は、いわゆる魔物的な生物と戦うだけの生活を送らざるを得なかった。

にょろにょろで、どろどろで。グロテスクで。



きっと、この異世界には、人間はいないんだと。

このキモイ生物だけが、存在しているのだと。

 私は覚悟を決めた。


北に進めば進むほど、倒せない魔物が多くなってきたので、私は南に拠点を構えることにした。


ちなみに、北とか南とかいうのは、適当。


火とか吐いたりするような生き物とさ、戦える!?

無理無理、いくら理系女子でも無理だよ!! 科学的に考えるとかいう問題じゃないの! 濃塩酸とかないと、無理だよ!?



うぉっほん。


とりあえず、真冬の日本で、学校帰りだった私の所持品は、かなり乏しいものだった。


まず、教科書。こればっかだよ。やっぱりね、学生だしね。重いよ。


筆記用具。


携帯。現時点では使いもんにならんので、早々に電源を切った。いつか入り用になった時に困るからな。充電器もあるけど、電気がないし。

 電子辞書も同じく、電池を抜いておいた。


 ハサミとカッターも入ってた。これはなかなか助かったね。


 あと、ひざかけ。寒いからな!ババアとか言うな!


 弁当と、水筒。これもなかなか役に立った。特に水筒は必須だな。


 あとは、タオルとかウォークマンとか雑誌とかメイク用品とか。ああ、寄り道してたから、お菓子とか染髪料とかカップめんとかあったのも助かったかな。



くそ! 実験の時に薬品でもちょろまかしとけば役に立ったかもしれないのに!


なんて思っても、カップめんもそこをついて。

しらん魔物の肉食って、腹は壊すし。

たまにおいしいのあるから、食べちゃうよね。


一度苦労して起こした火は、絶対絶やさんようにして。


来たときから、案外冷静に月日数えて、50日目。なかなかワイルドな女に成長した。



魔物を仕留める罠も、最近は手慣れたもので、絶妙な角度で穴掘って、躓いたところにどんぴしゃになるように鋭利に研いだ石を敷き詰めて、ぎゃあってなったところで、木から飛び降りて、mgを利用して、魔物の首に石巻きつけた木の棒を突き刺す。まるで、縄文やら弥生である。

気分は、マンモスしとめてる。


マンモスより、多分、キモイ。ので、その分遠慮とかないけど。


それが失敗したら、首に跨ったまま、ポケットからハサミを取り出して、両目を潰す。

これで、奴らはだいぶ弱る。

テンパって暴れるけど、そのうち弱る。だから次は、首から飛び降りて、足をしこたま殴る。関節をね、潰す。それが無理そうな奴なら、小指をなくしてやる。ほら、人間て、足の小指なかったら立てないじゃん。そんな感じで。

 それでも無理だったら、諦める。無理はしない。生死かかってるから。




ふう。



で、私は、やがて思った。

 始めはさ、ほら、生きるのに必死で、知的好奇心とか芽生えさせてる場合じゃなかったのよ。


火を吐くって?

どういうシステムだよ?



そのときの私は、魔法なんて信じてなかった。

てか、あるわけないって思ってた。


だから、火を吐く器官が魔物に備わっているに違いないと思ったわけだ。

となれば。




解剖だああああああ!!!





で、解剖してみました。

 火を吐く生物、強い。苦労したよ。ははは、川に追い込んでやったわ!



で。普通だ。



血だらけの内蔵を見て、地球と変わらんのだと思った。

喉にも、火を吐ける要素なんてない。



そこで。


まさか魔法? となって。

こんなキモイのにできて、肉体的にも大差ないなら、私にできないはずがないと思った。

てか、やってみせる!!





………そして、火を吐く生物とか、水吐く生物とか観察して、毎日練習してみた。



できたよね。

コツがいったらしい。



なんていうんだろ。

視界を切り替えるんだよね。

そしたら、体内と大気に取り巻く力の流れがわかる。

それを、吐き出す。どうにも、私には火や水にすることは出来なかった。

ただ、力の塊としてしか発現しなかったのだ。まあいいか。食料の確保が効率的になったし、死亡率も大幅に減少したし。どうせチートないし。わらわら。いや、笑えんか。




で、北の魔物も倒せるようになって。

ここらのボス的な存在になりはじめて。

なんだか、喋れるヤツとかでてきて、みんな食料にしにくくなって、みんな食料にされないように木の実とか捧げに来るようになって。




でっけえヘビが言った。



「ねえさん。もう人間界には戻らないですよね?」





…………。




………ん?






「……人間、界?」



「え、やっぱり、戻ってしまわれるんすか?」



「……ちょっと待てえええ!? 人間界?! どこにあんのよ!?帰る! てか、行く!! えええ?! なんで早く言わないのよおおおおお!!」



「ねえさん? アズサねえさん!? しっかりして下さい!!」









で、私は、人間に行きました。


そして、今まで居たところが、魔界だと知りました。

普通の人間なら行くことすらできないし、行けても即死するほどの魔界だと知りました。


そして。


魔界にはアズサってゆう、魔王がいるって知りました。




……ねえ。それってさ。


もしかしなくとも、私のことだよね?


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