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第2回 通学ランナー

「ばかっ! ばかばかばかばかばかっ! ばかまこっ! なんでもっと早く起こしてくれなかったのさ!?」


「起こしたよ! 何やっても起きねえお前が悪いんじゃねえかよ! おい、ネクタイ!」


「後でする! 家でしてたら遅れるし! てか、どういう起こし方したのさ!? 本当にちゃんと起こしたの!?(しゃこしゃこしゃこ……)」


「だから起こしたっつってんだろ! 何回も揺すったし、大声で怒鳴ったし、終いにゃお前のほっぺたまでつねって体まで引っ叩いたんだぞ! それで起きないお前が鈍感過ぎんだよ! 母ちゃん、パン!」


「はいはい。愛君はいちごジャムでよかったっけ~?」


「(ぐしゅぐしゅぐしゅ、ぺっ!)あっ、はい、それで! あと、もう焼かなくて良いです! そのまま、くわえてくんで!」


「あいよ~」


「おい! 聞いてんのか!?」


「ちゃんと聞いてるよ! あぁ~っ、もう最悪! なんでこんな日に限って目覚ましセットするの失敗してるのさ~!? っとっとっと!」


「それもお前のせいだろ! 目覚ましくらいちゃんと確認してから寝ろよな! ほれ、ブレザー!」


「ありがと。むぅっ、そうは言ってもさぁ~、そもそも昨日のモンハン(※人気MMORPGゲーム『モンキー反省しろ!』の略)でまこっちゃんがあのボス深追いしてなきゃもっと早く寝れたじゃんよ~? あっ、生徒手帳!」


「落ち着け! 今日、新しいの貰うだろ!? そういうお前だって今日中にレベルひとつ上げときたいからっつって経験値稼ぎ、俺に手伝わせたじゃねえかよ! お互い様だ、んなもん!」


「うっさい、ばかまこ! って、あれぇ~? カバンどこ行ったぁ~?」


「あっ、わりぃ! そういやお前のカバン、玄関に置いといたぞ! ネクタイもカバンに入れてある! てか、ばかまこ言うんじゃねえ、ばか沢!」


「もう! ありがたいけどそういうことは先に言ってよ! それと、ばか沢やめて! なんか脳みそくるくるパーの人みたいで嫌じゃん! そういやそっちはちゃんと準備出来てるの、ばかまこっ!?」


「うっせぇ、お前待ちだ! 俺はもういつでも行けるぜ、ばか沢!」


「はいよ、愛君。パン」


「ありがとうございます。って、だからばか沢はやめろって言ってんじゃん、ばかまこ!」


「お前こそばかまこ言うんじゃねえっつってんだろ、ばか沢!」


「何さ、ばーか!」


「うっせぇ、ばーか!」


「ばーか!」


「ばーかばーか!」


「「ばーかばーかばーかばーか、ばーーーーーーか!! ……ふんっ!!」」













「しゃあっ! 行くぞ、愛!」


「ひっへひまーふ(行ってきまーす)!!」


 速攻で準備を済ませた俺たちは鞄を背負いながら、勢いよく家を飛び出した。


 現在8時1分……ダッシュで行くぜっ!


「はいはい、いってらっしゃ~い……ふぅ。しっかしまぁ、なんだかんだで息ぴったりだねぇ~、あの子たち……。……おっと、いけない! もう朝ドラ始まってるよ!」












 第2回 通学ランナー















 春休みもあっけなく終わっちまった4月の頭。


 短い休みだったけど、それでも俺こと田中たなかまことは、この世の春を謳歌するかのごとく春休みを満喫させてもらった(宿題もなかったしな)。


 まだまだ家でだらけていたい欲求に後ろ髪を惹かれながら、俺と愛は今日から私立しりつ紅華山こうかやま学園高校がくえんこうこうの2年生へと進級する。


 まだ若干肌寒いものの、澄み切った青空に浮かぶお日様のポカポカした陽気は、そんな肌寒さを幾分か和らげてくれる、最高に気持ちのいいものだった。


 冬の眠りから目覚め、少しずつ淡い桃色の花びらを咲かせ始める桜の木々たち。


 その枝に止まり、チュンチュンとさえずる可愛い鳴き声で爽やかな春の朝をより爽やかに演出してくれる、一羽の小さなスズメ。


 目の前にはまだ着慣れていないであろう学ランをかっちり着こなした中学生の少年たちが、和気あいあいと談笑しながら歩いている……。




「……うわっ!」




 そしてそいつらの横を、あずき色のブレザータイプの学生服を着た女子……じゃねぇ。男子生徒が、苺ジャムの塗られた食パンをくわえたまま、風のように駆け抜けていった。もう一度言うぞ。男子生徒だ。一応な。


 にしても……愛。いくら急いでるからって、わざわざ三角跳びでそいつらの頭上を跳び越していくってのは、さすがにちょっとやり過ぎじゃねえか?


「ほいほいほいごめんよちょっとそこ通るぜ~い!」


 ま、そのおかげで俺が通れる道も出来たんだけどな。

 愛が通り過ぎていった道を、俺は何の躊躇もなく全速力で駆け抜けていった。


 その際、尻もちをつきながら腰を抜かしてた坊主頭の中坊がなんかごちゃごちゃ言ってた気がするけど、まぁ、気にしなくていいだろう。


 だってあいつら、おしゃべりに夢中なあまり、横一線に並んで完全に道を塞ぎながら歩いてたからな。そら、あいつらが悪い。はっきり言って超邪魔だったし。


 けどまぁ……だからって何の前触れもなく、いきなり真横で三角跳びなんてされて避けられた日にゃあ、そりゃ文句のひとつも言いたくはなるわなぁ~……。その気持ちだけは、よ~く分かるぜ……。


 そんな文句を言われてもしょうがない荒業で中坊の集団を文字通り"跳び越えていった"愛の状況判断能力には、さすがに俺も首を傾げたしなぁ……。


 ……まぁ、今はそんなこと言ってられる余裕もないんだけどな。

 始業式早々に遅刻なんてしたら、新しいクラスでの注目をいきなり悪い意味で集めることになる。そんなの、まっぴらごめんだ。それだけは絶対に避けないと。


 だから俺たちは通学路に春の彩りを添えている、七分咲き状態の桜になんて見向きもしない。

 そもそも近道するためにまともな通学路なんて選んでいねえから、桜なんてゆっくり楽しんでる余裕もない。


 そうなんだ……。普通に通学路を突っ走っただけじゃ、確実に遅刻するのは目に見えている。

 だからこそ、俺たちは不便なのを承知の上で、くせのある近道を敢えて選んで突き進んでいった……。




 大型スーパーのだだっ広い駐車場。


「遅いよ、まこっちゃん! 急がないと遅刻だよ!」


「わあっとるわい!」




 ところどころアスファルトが剥げてる、ボッコボコの古い道路。


「遅いよ、まこっちゃん! もっと速く走ってよ!」


「んなこと言ったってよぉっ、ととっ! ったくぅ、ほぼ穴になってんじゃねえかよ、ここ……」




 レストランやらボロアパートやらの間に挟まれた、狭くて影に覆われている路地裏。


「遅いよ、まこっちゃん! ゴミ箱くらい跳び越えなって!(ぴょん! ぴょん!)」


「無茶言うんじゃねえ! つうか忍者か、てめえは!」




 そして、どっかの民家。


「遅いよ、まこっ! あ、おじゃましま~す」


「こらぁーっ!」


 この家に住んでるおばちゃんへの挨拶もそこそこに、愛はさっさと黒い柵をよじ登る。


 そして速攻で跳び下りると、愛は着地と同時にダッシュでその場を離れていった……って、お~いっ! 置いてくな~っ!


「いきなり何なんだい、あんた達は!? 警察呼ぶよ!」


「すっ……す、すんません! ひったくりっす! うおおおっ!! 待ちやがれこのくそばかみそっかすやろおおお!! クリーミュウ変身すっぞてめえこらあああ!!」


「へ? きゃああああっ!! バケモノォーーー!!」


 外に向かって叫びながら、俺はネズミ型の怪人"ラット・クリーミュウ"に変身した。おばちゃんの目の前で。


『待ておらあーっ!! 俺の財布返せガブっと噛むぞこんのおおおぉっ!! …………あ、自分で捕まえるんで警察は大丈夫っすよ! ほんじゃ、失敬!』


 もちろん、そんな奴いるわけない。

 ショックで口をパクパクさせてるおばちゃんに軽く会釈をしてから、俺は持ち前のジャンプ力でおばちゃんの庭と道を隔てている黒い柵を軽々と飛び越えてやった。


 そしてクリーミュウの姿のまま、俺は先を行く愛の背中を追いかけるために再び走り始めるのだった……。







「はぁっ、はぁっ、はぁあ~っ……あぁ~~~びっくりした……もうっ。朝っぱらから心臓に悪いわ……」


 すんません…………おばちゃん。


(※ちなみに民家への無断侵入は犯罪だぞ! よいこのみんなは絶対マネすんなよ!)


捕まれ。

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