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あなたは神を信じますか?

「誰もいないな」


 町に入ると、辺りは閑散としていた。どうやらまだ避難所に避難した人々は帰って来ていないらしくて、ひとっこ一人見当たらない。誰一人いない町並みは、ゴーストタウンのようでちょっと不気味だ。


「そのうち賑やかになるさ。この町は結構騒がしいところだからな」


「ふーん」


 シロの言葉を聞きながら、鉄兵はちらっと町の様子を見回した。建物はだいたいが木造のようだ。メインの通りである門から中央に続くこの通りは二階建てが多いが、横道をちらりと覗いてみたら平屋建ての建物が続いていた。多分、店舗は二階建てだが住宅は平屋が主なのだろう。通りの横には人がいなくて放り出されてはいるが、露天商なども見えるし、本来ならばなかなか繁盛しているのだろう。


「さて、とりあえずテツの身の回りのものを揃えなきゃな」


「お会計よろしくお願いします」


「あっはっは。まあそのうち返せよ」


 深々と頭を下げる鉄兵を見てシロは大声で笑う。鉄兵は現在無一文なので、無論支払いはシロになる。つまり鉄兵は現在シロのヒモなわけなのだが、正直男のヒモなどごめんである。さっさと稼ぎたいところだが、この町で稼げるような仕事は見つかるだろうか?


 何が必要か話し合いながら中央の広場まで歩いていくと、右手の方から人がぞろぞろ歩いてきた。その先には石造りのなかなか立派な教会らしきものが立っている。どうやら町の人たちはそこに避難していたようで、急ぎ足で自分の店に帰っていく店主達を皮切りに、徐々に町が人で溢れていった。やがて商いをする店主達の呼び込みの声が立ち始め、町が喧騒に包まれていく。


「なるほど、これは確かに騒がしい。てかみんな逞しいなぁ」


 鉄兵は盛況さを取り戻した町を見回して、シロの言葉の正確さを思い知った。町の喧騒は賑やかというか、もはやうるさいといっても良いレベルだった。さきほどまでは巨大ガルムに怯えていたはずなのに、わずかな時間の間に元の生活を取り戻すその逞しさには感心する思いだ。


「あっはっは。商業都市だからな。旅慣れたやつも多いだろうし、魔物に怯えてるようじゃ商売はできないってとこかね」


 シロが豪快に笑いながら言う。どこの世界も商魂逞しくなければ成功できないのだろう。


「そんじゃま、買い物としゃれ込みますか」


「あ、おいてくなって」


 ふらりと人込みに紛れて行くシロの後ろに、鉄兵は慌ててついてった。それにしてもシロは例の傘を差したままなのだが、器用にひょいひょいと人をかわして速度を下げずに歩いていく。むしろ鉄兵の方が人込みを捌けずに遅れがちになってしまうわけだが、その事実に鉄兵は肉体的能力は向上してても、体捌き等の技術は上がっていないらしい事に気が付いた。原因不明に肉体は強化されているが、技術に関してはそこまで便利に強化はされていないらしかった。


 鉄兵達は先程歩きながら決めていた指針の通りに買い物を始めた。リュックや水筒など旅に必要なこまごまとしたものを買っていく。ついでに必要なものを買うには関係のない店も覗いてみたのだが、生活用品や日常雑貨などを見ても、元の世界とそれほど差異はないようだった。ただし文化レベルは低いようで、まあ簡単に言えばファンタジーでありがちな中世ヨーロッパ的な文化レベルのようだ。


 ちなみに言い忘れていたが、リルとハルコさんは荷物と一緒にアリスに預かってもらっていた。リルは鉄兵と一緒に行きたがっていたが、それなりに大きな町の中で狼を連れて行くのもどうかと思ったので我慢してもらったのだ。


 結果から言えば色々動物を連れて歩いている人はちらほらみかけたので問題はなかったようだが、子狼のリルにはこの人込みの中はつらいだろうし、これは結果オーライだろう。


「さて、他には何か思い当たるか?」


 めぼしい物は買い終わり、今は町の中央の広場で休んでいた。昼飯は屋台で買った串焼きで済まし、広場でベンチに腰をかけてゆっくりとしている。シロは煙管をぷかぷかふかさせ、鉄兵は町の賑やかな様子を興味深げに観察しながら買い物の最中に買ったリンゴのような果物(味は少しすっぱいがリンゴの味)をかじっていた。


 シロの言葉に鉄兵はちょっと考え込む。


 町の中には武装した人達を結構見かける。多分リルのような大物は例外としても町の外には危険な生物がいるのだろう。なのでRPGならここで武器やら防具やらを買い込むのだろうが、武器は木刀があるから十分だろう。というよりなまじ刃物を持ったところで生物を切るような根性が自分にあるとは思えない。防具はといえば、やはりなまじそれらを身に着けたとしても、防御力が強化されるというメリットよりも、慣れない物を身に付けた事による動きにくさというデメリットの方が先にたつ気がする。それならばはせっかく肉体能力が強化されているのだから、危険に見舞われたら全力で逃げ回った方が良いだろう。残念ながら鉄兵は戦士ではなく技術者なので、回避できる危険は回避するのが主義だ。


 とすると身の回りの旅に必要なものは全て揃ったし、他に欲しい物はといえば……


「そうだな……強いて言えば風呂に入りたいかな」


 昨日は森の中を走り回ったので、汗や汚れで気持ちが悪かった。服も買ったし作業着は目立つからさっさと着替えたかったのだが、その前に汚れを落としておきたいところだ。


「風呂か……確かこの町には公衆浴場があったな。お嬢ちゃんとこに行く前にひとっ風呂浴びてくとするかねぇ」


 というわけでシロに連れられて公衆浴場に移動した。


 公衆浴場は石造りの大きな建物だった。まだ日も結構高いのだが、ちらほらと公衆浴場に入っていく人がいる。中に入ってシロが番台さんに支払いを済ませると、大き目のカゴを渡された。中には木製の、数字が書かれた手のひらサイズのプレートが入っている。多分、これに荷物を入れろという事だろう。


 脱衣所に入ると、客ではない従業員と思しき子供が脱衣所の入り口付近に三人ばかし座っていた。なんの仕事をしているのだろうと思ったのだが、その仕事内容はすぐに分かった。


「おーい。こいつを頼む」


「へい」


 さっさと服を脱いでカゴに荷物を入れ、木製のプレートを取り出したシロが、例の子供に声をかける。すると子供はさっと近寄ってきて、カゴを奥に持っていった。どうやら荷物の出し入れをするボーイみたいな仕事のようだ。


 シロに習って鉄兵もさっさと服を脱いで荷物を預かってもらった。ちなみに惜しげもなく晒されているシロの男の象徴を見て、鉄兵が自分のものをさっと布で隠したのはここだけの話である。鉄兵も人様よりは立派だと自信があったのだが、人種の差には勝てないようだ。


 浴場に入ると鉄兵の予想とは違い、日本のような銭湯ではなくサウナだった。壁の方を見ると金属製のパイプが壁から突き出ていて、壁の周囲をぐるりと回っている。そのぽつぽつと開いているパイプの穴から湯気が噴出しているようで、ふしゅーという音を立てていた。多分この壁の向こうではお湯を沸騰させていて、その蒸気をこのパイプで均等に送り込んでいるのだろう。


 ついでに昼なのに人が多い理由もわかった。サウナの中はずいぶんと薄暗いのだ。多分夜になったら何も見えなくなるので、サウナは昼しか開いてないのだろう。


 天井に疎らに開いている通風孔が採光口の役割も果たしているので、周りや足元が見えないということはないが、うっそうとした薄暗い洞窟の中に裸で立っているようで、どうにも不安になる。


「随分暗いな。光玉とか使わないのか?」


 風呂といえば明るい場所のイメージがある鉄兵は、思わず不満を漏らしてしまう。


「光玉は高いからねぇ。闇玉なら安いが、光玉にするにゃあちと手間がかかるからな」


 ふむ。と鉄兵は首を傾げた。いったいどういうことだろう?


 というわけでサウナで汗を掻きながら説明してもらったのだが、簡単にまとめると以下のような事らしい。


 光玉や闇玉は魔石と呼ばれるもので、どうも水晶がそれにあたるらしい。環境に沿った属性の魔力を取り込む特性があるようで、暗闇の中に置いておけば闇玉が、光に照らしておけば光玉ができるようだ。鉱脈が地上に出ている天然の光玉もあるらしいが、大抵は土の中に埋まっているものなので、光玉より圧倒的に闇玉の数が多いらしい。光を浴びさせておけば闇玉から光玉に作り変える事もできるようだが、その方法では何年もかかってしまうため、通常は闇玉から光玉にするには昼間は外で太陽の光を、夜になったら炎で照らし続けるという作業を延々一ヶ月近くも行ってつくっているらしい。そりゃあ高くもなるのだろう。


 吹き出た汗を水瓶の水で洗い落とし、ついで布で身体の汚れを落としながら、鉄兵は今聞いたシロの話からちょっと思うところがあって思考にふけっていった。気持ち良さそうに汗を掻くシロの横に座り、さらに没頭していく。


「シロ」


「ん?」


「光玉を作る時、光の強弱は関係ないのか」


「いや、関係あるぜ。砂漠とか日照りが激しいところの方が早く出来上がるからな。大抵光玉はそっちの方の産業になってるぜ」


 シロは目をつぶってうっとりとしている。鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気だ。


「なら、レンズでも使えば簡単に光玉が作れるようになるかもしれないな」


「レンズってぇと、あの眼鏡のあれかい。あれにどんな関係があるんだ?」


「レンズは調整すれば光を収束できるだろ。だから収束した光を当てれば光玉を作る効率も上がると思ってね」


「ほう、あれにゃそんな特性もあったのかい。それなら確かに効率は上がるが……しかし、ガラス製品は高いんだぜ? 多少効率が上がった程度じゃ足が出ちまうだろ」


「ガラスは一般的じゃないのか。なら精度の高いレンズも作るのは無理そうだな……なら水かな」


「ほう?」


 そこでシロの目が開いて、その目が鉄兵の方を向いた。どうやら興味が出てきたらしい。


「水もレンズみたいに光を収束する事が出来るから、屈折率をうまく調整してそういう装置を一度作っちゃえばあとは安上がりにできるんじゃないか?」


「そいつは知らなかったな……おまえさん、本当に頭が良かったんだな」


 シロがニッと笑う。微妙に馬鹿にされた気もするが、本気で感心しているようだ。


「そいつは下手すると産業が興せるんじゃないか?」


「そう? なら夕飯の時にでも話のネタにしてアリスに言ってみようかな」


 王女様であるアリスならそのアイデアを活かすツテもあるかなと、そんな考えからの発言だった。儲けになりそうな話であったが、鉄兵は残念ながらそこに関心を持てなかった。工業に身を捧げる人生を送るにはそういう金の匂いを敏感に察知して利益と研究資金を確保する能力も必要なのだが、学生である鉄兵はまだそのセンスを身に付けてなかった。


 けどちょっと実験はしてみたかったので、具体的な装置の案を考えながらサウナを楽しみ、限界になったところで水で汗を流してサウナを出た。コーヒー牛乳でも欲しいところだったが残念ながら無かったので水で我慢する。先程店を一通り覗いたところ、コーヒーと牛乳と砂糖はあるようだったので、今度来る時は自作してこようかなとか考える。


「ぷはーっ!」


 新しい服を着て水を喉に流し込むと、気持ち良いほどさっぱりして、鉄兵は親父臭く息をもらした。


 ちなみに新しい服はごわごわした無地の白シャツと、なぜか普通に売っていたジーンズとよく似たズボンである。シャツはあまり着心地が良くないが、ジーンズは穿いた感触もジーンズと同じでまさにジャストフィットだった。


 そういえばこの世界に来てからシロにアリスにと美形ばかり続いたので『まさか美形だらけの世界なのか?』と密かに考えてもいたのだが、残念ながらそんな事は無かった。綺麗な人も残念な人も個性豊かにいっぱいいる。どうやらあの二人が特別だったようだ。獣人や精霊族などもいないかなと町を歩いてる時にきょろきょろしていたのだが、残念ながら今のところ見当たらなかった。ここら辺にはいないのだろうか?


「あ~くつろぐなぁ」


「生き返る……」


 どこの世界も発想は同じなようで、公衆浴場には座敷のような施設が併設されていた。酒とつまみ(ビールとナッツだった。ただしビールはぬるかった)を頼み、座敷に寝転んでごろごろとすごす。シロに至っては按摩まで頼んでのくつろぎようだった。


 そんな風に昼間から一杯ひっかけて駄目人間的な時間を過ごしていると、やがて日も暮れてきた。


「そろそろお嬢ちゃんとこに行くかね」


「そうだな……」


 このまま寝てしまいたがったがそういうわけにもいかないだろう。名残惜しかったが立ち上がると急にリルの事が心配になって、鉄兵は足早に詰所に赴く事にした。


『あるじ! あるじ! おかえりあるじ!』


 詰所は厩舎などもある関係で町の外れの方にあった。鉄兵達が詰所に着くと、厩舎でハルコさんと一緒に寝ていたリルが鉄兵達に気がついて、ものすごい勢いで鉄兵の胸に飛び込んできた。あまりの勢いに受け損ない、リルに押し倒されるように地面に横たわる。そんな鉄兵にも構わず、リルは尻尾を勢いよく振りながら鉄兵の顔をぺろぺろと舐め始めた。


「ただいまリル。良い子にしてたか?」


『リル、いいこにしてたよ』


「そっかそっか。えらいぞ~」


 鉄兵はリルの頭を力いっぱい撫でてやった。気分はもはやお父さんである。


「ふむ。鉄兵は良い親になりそうだな」


「後ろに馬鹿が付きそうだけどな」


 鉄兵達に気が付いて詰所から出てきたのだろう。いつのまにか現れていたアリスとシロが失礼な会話をしている。だが、親馬鹿呼ばわりされてしまったが、自分の行動を省みる限り、否定は出来そうに無い。


「まあ子供は好きだな。三人くらいは欲しいよな」


「な……!!」


 特に考えもなくそんな事をアリスに言ったのだが、アリスは敏感に反応して顔を真っ赤にした。別に冗談でもないただの個人的な考えだったのだが、なにやら変な風に取られてしまったようだ。


「お嬢ちゃん。深い意味はないと思うぜ」


 やや呆れ気味にシロが言う。


「そ、そんな事はわかっている!」


 シロの言葉にはっと事実に気が付いたようで、アリスはさらに顔を赤くしながら叫んだ。どんだけ耐性がないんだとちょっと心配になる。


「ほーう……まんざらでもないようだな」


「くどいぞ!」


 アリスを良い様にからかってシロは楽しそうだが、鉄兵は後ろに見える兵隊さん達の殺気が怖くて生きた心地がしなかった。悪いように思われてないのは非常に嬉しい事なのだが、この状況は勘弁である。


「こほんっ。それよりじきに食事の準備が整う」


 ようやく落ち着きを取り戻したアリスが咳払いをして場をごまかす。


「まずは部屋の確認をして荷物を置いて来い。ハンス!」


「ハッ!」


 殺気を放っていた兵士の一人が走ってきた。


「客人の案内を頼むぞ」


「ハッ! お任せください!」


 というわけで鉄兵達は客室に通された。道中ハンスと呼ばれた兵士は殺気を隠そうともしなかったのでかなり怖かったのだが、彼の殺気がここまで成長した原因であるシロは飄々としたものである。見習いたいほどの図太さであるが、見習ったら人間的に駄目になりそうだからやめておいた。


 客室は棚が一つにその上にランプ。それに窓の両脇にベットが二つほど並んでいるだけの簡素な部屋だった。アリスに託したシロの荷物もその部屋に置いてあった。窓は無論窓ガラスではなく、木製のブラインドのようなもので、光の入り具合を調整できるだけの代物である。夜は閉めておかないとランプを点けたら虫が入ってくるだろう。ベッドも木の上に薄い布団のようなものを敷いてシーツをかぶせただけのもののようだ。結構硬いベットだが、多分これが普通なのだろう。


「失礼します!」


 荷物を置いてしばらくくつろいでいると、ドアがノックされて兵士が一人入ってきた。


「食事の用意が整いました。こちらへ」


 とまあそんな感じで案内されて部屋を出る。案内の後を付いていくと、広めの個室に通された。中には4人分の食器が用意されている。さてどこに座ったものかと考えていたらシロがさっさと一番奥の上座に着いたので、鉄兵も深く考えずにシロの横に座った。


(一体なにがあったのだ?)


(いやーはっは。無様なところをお見せしました。なにかとんでもない物を見た気がするのですが、良く覚えていなくて)


 席について特にやることも無かったのでぼけーっと座っていたら、外からそんな会話が聞こえてきた。一つはアリスの声のようだが、もう一つは誰だろう。


「まあいい。食事でもしながら報告してくれ」


「はい。わかりました」


 ドアノブが回され、ドアが開いてアリスが姿を現した。その後ろには見覚えのある青と白を基調とした服装をした人物が立っている。なぜ服のことしか言わないのかと言えば、身体が大きすぎてドアからは顔が見えないのだ。見えないことで逆にわかったが、服装にも見覚えがあるし、多分イスマイルとか言う神官の人だろう。


「二人ともまたせたな。イスマイルを紹介しよう」


 そう言いながらアリスは部屋に入ってきた。


「失礼いたします。やああなた方が……」


 続いて喋りながらドアを潜り抜けるように背を屈めてイスマイルが入ってきたわけだが、部屋に入って顔を上げたイスマイルは、鉄兵と視線が合った途端にピシリという音が聞こえそうなほど驚愕の表情を露にして石像のように固まってしまった


「はうぁっ!!」


 ゴンッ!


 訳の分からない奇声をあげて動き出したかと思うと、思いっきり背筋を伸ばしたためにドアの中間にいたイスマイルは後頭部をもろに壁にぶつけ、直立不動のままゆらりと前のめりに突っ伏した。


「…………」


 沈黙が場に流れる。一体何があったのだろう。アリスやシロでさえ、事の成り行きについて行けずに無言である。


 彼の身に何があったのだろう。なにか自分を見て取り乱し始めた気もするが身に覚えは無い。しかしともかく一国の城付き大神官であるはずの彼がここまで取り乱しているのだ。素で心配である。


「はっ!」


 ガンッ! ガンッ! ガンッ!


 やがて気を取り戻したイスマイルは、手で上半身だけ起こして鉄兵の方に顔を向け、その糸目で鉄兵の事をガン見すると、即座に土下座のようなポーズを取って這い蹲り、器用にそのポーズのまま後ろに下がった。ちなみに後の効果音は下がる際に顔を下げ続けていたために額が床を打った音だ。かなり痛そうだが大丈夫だろうか。


 誰も動けず喋れずに、大神官の乱心にどうしようかと身を凍らせていたのだが、やがてイスマイルは決意したように顔を上げ、すさまじい眼力を鉄兵に向けた。


「あ……」


「「「あ?」」」


 イスマイルが口を開いた。奇妙な緊張感が思わず皆にイスマイルの口から零れ出た言葉を復唱させる。


「あなた様は神様ですか?」


「か?」


 神様?


 一瞬何を言ってるのか分からなくて首を傾げたのだが、ようやく頭に浸透してその意味を思い出す。


 渾身の冗談じゃないかとイスマイルの態度を疑ってみたのだが、イスマイルを見るに100%の純度で目がマジだ。


 幽鬼族、化け物、英雄と来て次は神様扱いらしい。


 一体何がどうなっているのやら。シロ辺りに聞いてみたかったのだが、シロもアリスもあまりの展開に口が大きく開いていた。


8/28:誤字脱字修正

8/29:神官の名前をイスマイルに変更

2011/2/14:指摘いただいた誤字修正

避難所に非難

→避難所に避難


2012/7/21:指摘いただいた脱字修正

なかなか繁盛しているのだろう[]

→なかなか繁盛しているのだろう[。]



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