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王都にて

 小高い丘を越えると、そこからは王都が見渡せた。


「これは……すごいな」


 馬車から顔を出し、丘の上から王都を眺めた鉄兵は、絶景ともいえるその光景に感嘆の溜め息を吐いた。


 オズワルド王国の王都は、鉄兵が思っていたよりもずっと壮大な都市だった。王都は三重に覆われた城壁に囲まれた城塞都市で、都市の端から端まで歩いて移動すればゆうに2~3時間はかかりそうなほどの規模を誇っている。とはいえそれは最初から想定されていた規模ではないようで、後から拡張して大きくなったようである。城を中心とした一重目の城壁の内側はやや変則的ながらしっかりと設計されたらしい碁盤目状の家々が立ち並んでいるが、二重目、三重目の城壁の内側にある家は雑多に並んでおり、計画性は感じられない。三重目の城壁の外にさえスラムのようなテント小屋に混じってしっかりとした家が建っているところを見ると、外から流れ込んできた人がそうやって城壁の外に家を建て、それが次第に町の態を為して拡張されていっているのだなと推測できる。このままで繁栄していくなら、四重目の城壁が建つのも時間の問題なのかもしれない。


 遠目から見ても城門から王城に通じる大通りは夥しい人の流れを確認する事が出来、遠く離れたこの場所でさえその喧騒が聞こえてきそうな錯覚がするくらいである。今まで通ってきた村や町が比較的小規模だっただけに、あれは早くも過疎化現象が起こってしまっていたのではないかと心配してしまうくらいの繁栄ぶりである。実際にはそれとは逆で、国が統一されたおかげで王都が繁栄し、そこから安全になった街道に新規の開拓村を作る人達が現れて小規模な村々が乱立されているのだろうが。


「どうだ。たいしたものだろう我が王都は」


 感動する鉄兵にアリスが誇らしげな表情を見せる。


「ああ、ほんとたいしたもんだ」


 誇るアリスに鉄兵は素直に賞賛の声を上げた。


 眼下に広がる王都の光景は高層ビルが乱立する元の世界に比べれば貧弱といってもいいものだろう。だが、ここは元の世界ではなく機械文明がほとんど発達していない世界なのである。つまり目の前の光景に移るもの全てが人力による製作物ということであり、国を覆う城壁の石一つ一つを取ってみても全て人力で積まれたのかと思うと、気が遠くなるような労力の果てに生まれたであろうこの光景には身が震えるような荘厳さすら感じられた。気分としては万里の長城かピラミッドを見ているような感覚だろうか。


 そしてなによりも鉄兵が素直に賞賛の声を上げた理由は、強化された視覚の先に見えた一般市民達の顔が一様に活き活きとしていた事にあった。


 正直なところ、三重の城壁は鉄兵の眼から見るとやりすぎに見える。リルのような魔物が跋扈する世界なので防壁は不可欠なものなのだろうが、町の規模から考えるにこの城壁を建てるにはかなりの資金が必要だったはずである。必要経費とはいえ、町が発展していくたびに城壁を建てているとすれば、それは相当国庫を圧迫しているはずだ。それこそ増税もやむなしと思われるほどに。


 にも拘らず大通りの商人からスラムの子供に至るまで王都は笑顔で溢れている。商人が活き活きしているという事は景気が良く、税率も低いのかもしれない。スラムの子供すら何者にも怯える事無く笑顔で過ごしているという事は、スラムを含めてそここそこに警備兵らしき姿が見える事からもわかるように治安が良いのだろう。


 国庫が潤沢なのか、はたまた政策が上手く回っているからかなのかはわからないが、そこに住んでいる人々の姿を見る限り、王都は非常に住みよい町なんだろうなと思い、鉄兵の顔は自然と綻んでいった。


 鉄兵はしばし興味深げに王都を眺めていたが、感動ばかりもしてられない事を思い出して我に返った。これからあの国を治める王様に拝謁をしてアルテナ達の件と自分の処遇について交渉をしなくてはならないのである。すでに昨晩のうちにアリスを通じて話を通してあるとはいえ、特に台本があるわけではない。自分の話術でしっかりと話を転がせられるかは中々に不安なところである。


 正直なところ大勢の人々の前に晒されて問答をする謁見など勘弁して欲しいところなのだが、事が事だけに公の場で行わなくてはならないらしい。アリスの父親ならばさぞかし高貴で公正な人物であろうと想像が出来るので上手く話を合わせてくれるだろうが、よく知らない目上の人間に直訴するわけなのでどうしても緊張してしまう。


 不意に、鉄兵の手を何かが触った。


「鉄兵。あまり心配をするな」


 鉄兵の手を触ったのはアリスの手だった。


 鉄兵を安心させるためだろう。アリスがそっと微笑む。緊張が顔に出ていたのだろうか。なんとも情けない話である。


 だが、同時に自分の手に重ねられたアリスの手の温もりを感じて心が落ち着いてくる自分がいる事も自覚する。


「大丈夫。心配なんてしてないよ。相手はアリスの親父さんだもんな」


「そうか」


 アリスに言われて鉄兵は改めて意識を切り替えた。そう、相手はアリスの父親なのだ。いくら一国を治めるような人物であろうとも、友人の父親に少し話をあわせてもらうだけなのだ。何を緊張する事があろうか。


 それに、なにをするにしても緊張して声が出ないのが一番よろしくない。講義かディスカッションでもするつもりで気軽に臨むが吉だろう。そう思い込んで鉄兵は努めて気持ちを切り替える。


 王都はもう、すぐそこである。恐らく数時間後にはアリスの父親と対面しているであろう。


 鉄兵は深く息を吸い、改めて覚悟を決め直した。




 かくして鉄兵はようやく王都入りを果たしたのだが、それは素晴らしいまでに華々しい王都デビューとなった。


 鉄兵がどぎついまでに注目されて王都デビューを果たす事になった発端は、城門の外に並ぶスラムの最周縁部に住んでいるらしき少年が目敏く王都に近づく王家の馬車を発見した事である。


「姫様だ! 姫様が英雄を連れて帰って来たよ!」


 王家の馬車を発見した少年は、まるで宝物でも発見したかのようにキラキラとした目を見せ、大声で捲くし立てた。


「なに、姫様が?」


「あら、噂の英雄テツ様が?」


 道端でお喋りをしていた主婦も、忙しなく仕事をしていた男も、少年の言葉を聞いた者は誰も彼もが即座に反応して、少年のもとに集まり始めた。


「本当だ。あれは王家の馬車。姫様が帰って来たぞ!」


「おい、若き英雄テツ様も一緒なのか?」


「そりゃそうだ。そうにちげぇねぇ!」


 次第に集まり始めた民衆が、王家の馬車とその後ろに続く大規模な商団の姿を確認して騒ぎ始める。徐々に近づいてくる王家の馬車を見つめる民衆の熱気はかなり高い。


 それもそのはずである。この世界における大衆の一番身近な娯楽は歌なのだ。各地を流離う吟遊詩人が集めてきた物語は各地の酒場で歌われ、人気の詩は大人から子供まで口伝いに語られ、歌い広められる。時には酒盛りで合唱され、時には子供のゴッコ遊びの題材にもなるその歌の中に出てくる登場人物は、まさに物語の中に出てくるヒーロー・ヒロインそのものなのだ。


 若くして王宮を飛び出し世直しの旅をしていたアリスはもはや馴染まれている物語の中に出てくるヒロインであり、鉄兵はそのアリスの物語を遥かに上回る冒険活劇に出てくる最新のヒーローなのだ。その二人が王都に帰ってくるという噂は、シロが作詞作曲をした鉄兵の英雄譚とともに広められており、国民は全て二人の帰国を今か今かと待ち侘びていたのである。


 王家の馬車をいち早く見つけた少年は、自分の言葉に反応して熱気を帯びる群集を見て興奮の絶頂にあった。少年も無論アリスと鉄兵の大ファンなのだ。そしてその王女と若き英雄が帰って来たところを一番に発見した。その事実が誇らしいやら興奮するやらで居ても立ってもいられなくなり、少年は城門に向かって走り出した。


「姫様だ! 姫様が帰って来たぞー! 若き英雄テツ様も一緒だよー!」


 少年が走り声をあげるたびに人々はざわめき、熱狂の様相を表す。


 普段は真面目な働きぶりで良くも悪くも名高い検問の兵士達さえもその一報に顔を綻ばせ、思わず少年が検問を突破するのを見逃してしまう。


 かくして少年はアリス姫一行帰還の報を触れ回りながら王城の前まで走り抜け、その情報は瞬く間に王都全体へと広まっていった。




 とまあそんなわけで、鉄兵達の一行は王都に入るなり熱烈に歓迎されてしまった。


 それはもう、心底から恐ろしいと思うほどにである。


「あっはっは、びびってやがるのかい?」


 鉄兵を見て、シロがニヤニヤと笑みを浮かべている。


「そりゃびびるさ! ほどってものがあるだろ!」


 やや逆ギレ気味に鉄兵が叫ぶ。もっとも叫んでいるのはあまりの歓声の大きさに、それぐらいしないと自分の声すら聞こえないからでもあるが。


 状況は鉄兵にとって過酷なまでに緊張をともなうものであった。左右どころか前を見ても後ろを見ても人人人の騒ぎである。しっかり警備されてるおかげで一定距離から離れてくれてはいるが、ここからでも見える王城の入り口まではずらっと人が並んでいて、その全てが熱狂的に自分達に向かって声援を送っているのだ。びびらない方が無理というものだろう。仕事はどうしたと言いたい所である。


「リルやら山賊団やらを相手に立ち回ってきたってのに、だらしねぇなあ」


 カラカラと笑いながらシロは言うが、全く持って数とは恐ろしいものなのである。


 熱狂とは敵意と同じように一種の指向性がある感情の発散なわけで、悪意が無いとは分かっていても、こんなにも大勢による感情の荒波のただ中に置かれてしまっては、こんな状況に慣れていない鉄兵は本能的に警戒心が働いてしまい、腰が引けてしまうのだ。


 しかもさらに恐ろしいのはアリスを称える声と同じくらい自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくるところであろうか。なんというか、いきなり優勝パレードの主役にでも立たされてしまったかのような気分である。しかも規模はきっとこっちの方が遥かに大きい。


 アリスとイスマイルは慣れたもので民衆に向かって小さく手を振り笑顔で対応しているものの、リードとリルは鉄兵と同じように歓声に怯えてしまい、馬車の中央で一緒に丸くなっている。アルテナはといえば囚人のくせになぜか群集に向かって手を振っているし、馬車を護衛するかのように馬車の周囲に固まって馬に乗る山賊達も堂々としたものである。これではどちらが囚人か分かったものではない。


「ま、これから世話になる国だ。しっかり顔を売っときな」


 そう言って立てた親指でシロは窓の外を指差した。自分は矢表に立つ必要が無いから気楽なものである。


 とはいえ、シロが言うとおり顔を売るのは必要な事だろう。深く溜め息を吐き覚悟を決めた鉄兵は、仕方なくアルテナの横から顔を出した。


 すると、その途端に群集から爆発的な歓声があがり、その歓声をもろに浴びた鉄兵はちょっと腰が抜けそうになった。若き英雄と呼ばれる今最も注目度が高い人物がようやくしっかりと顔を出したわけだから一気に盛り上がって歓声がわっと集中したわけだが、それはちょっとばかし鉄兵には刺激が強かった。


「おー兄ちゃん大人気だな!」


 歓声を受けて興奮したアルテナが鉄兵の背中をバンバンと叩くが、鉄兵の頭は真っ白である。本能的に逃げてしまいそうになるが、ここでの鉄兵は文武両道の英雄という役どころなのでそこはぐっと我慢する。だが、情けないところは見せられないと思ってはいても、無意識のうちに腰が引け、窓から遠ざかってしまいそうな自分がいる。


 どうにも一人では及び腰になってしまうと考えた鉄兵は、ここでも仲間を頼る事にした。


「……アルテナ、一つ頼んで良いか?」


「ん? なに?」


「肩組んで身体を支えてくれ。ちょっと腰が砕けそうで……」


「あは、なんだよ情けないなぁ」


 そう言いつつもアルテナは笑いながらがっしり鉄兵と肩を組み、上機嫌で窓の外に手を振った。鉄兵も顔面蒼白になりながら弱々しく手を振る。


 そんな二人の仲が良い様を見て、群衆がざわっとどよめきを起こした。なにやら仕切りに興奮しながら周りと会話している様子が見えたので強化された聴覚で指向性を高めて聞いてみると、歓声に混じって


「あれは山賊姫なんじゃないのか? なんでテツ様と肩を組んでいるんだ?」


とか


「囚人がテツ様と肩を組むとはなんと馴れ馴れしい!」


とか


「いやテツ様は心優しい気さくな方だという話じゃないか。囚人といえど対等に扱う、まさに詩通りの素晴らしいお方なんのだろう」


とか、そんな話をしているのが聞こえた。自分が後退してしまわないようにアルテナに押さえつけてもらっただけだったのだが、どうやらそれは意外な効果を生んでいるようである。


 丁度良いので鉄兵はここでも少し工作する事にした。簡単に言えば世論を味方に付けておきたいのでアルテナと仲の良いところをこのまま世間に印象付けたいわけだが、元気良く手を振るアルテナと弱々しい鉄兵という今の姿では、アルテナの方が上位に見えて変に勘繰られてしまうかもしれない。


「うわっ!」


 というわけで鉄兵は無造作に左手をアルテナの頭に乗せ、少しばかり頭を下げさせた。いきなり押さえ込まれたアルテナは「なんだよぅ」と少し不機嫌そうに口元を歪めたが、鉄兵が「これも作戦のうち。いいから笑顔で手を振っとけ。少しだけ控えめにな」と言うと、心得たといわんばかりに大人しく控えめに人が良さそうな笑顔を振りまき手を振り始めた。勘が良いというか機転が効くというか、アルテナは馬鹿っぽく見えるが基本聡明なのでこういう時は非常に聞き訳が良くて助かる。


 ともあれ、これで傍目には退治した山賊とさえ親しく接する英雄と、その英雄に心底から服従する山賊の親分の像に見えるだろう。いや見えたら良いなという鉄兵の個人的考えではあるが。


 そんな感じで王都入りしてから一時間後。歓声の中にいるだけで満身創痍になりながらも鉄兵達はようやく王城へとたどり着いた。


「疲れた……」


 ようやく群集から開放された鉄兵は心の底から呟いた。まさかここまで歓迎されるとは思ってなかったので不意打ちを食らって根こそぎ体力を持っていかれた感じである。まあ、あの群集に囲まれたおかげでこれから王様に会おうともそれほど緊張しないだろう。


「しっかりするのだ鉄兵。本番はこれからだぞ」


「うぇーい。分かってます。でもちょっとだけ休ませて……」


 仕方ないなと言わんばかりにアリスがちょいとばかし活を入れるように激励の言葉を吐いたが、それですら立ち上がれない程に鉄兵は疲れ果てていた。


 何度も言うようであるが精神的疲労だけはいくら魔力があろうとも癒せるものではないのである。というわけで鉄兵はだらしなくばてていたのだが、すぐに馬車は停車してしまい、外側から馬車の扉が開かれた。


「では行きましょう」


 イスマイルに呼びかけられ、鉄兵は疲労感に苛まれながらもしぶしぶと馬車を降りた。ここで弱みを見せるわけにも行かないのである。


「姫様、お帰りなさいませ! 皆様もようこそお越しくださいました!」


 馬車を降りると両手を広げて全身で歓迎の姿勢を露わにする少年がいた。


「ホーリィか。久しいな」


「姫様。お元気そうでなによりです」


 なにやら親密な感じにアリスとホーリィと呼ばれた少年は言葉を交し合った。


 ホーリィと呼んだ少年は、さらさらとした金髪のものすごい美少年であった。年のころは14-15歳位であろうか。一見少女と見間違いそうになるくらいの華奢で女顔の少年で、唯一その少年が少女ではないとわかるのは、変声期が過ぎているらしく、少女と言うには少しばかりだけダミ声が混ざっていたからである。


 少年と言いはしたが、よく見ればホーリィの耳は非常に長かった。目に特徴が無いところを見ると、彼は多分半精霊族なのだろう。とすると見た目よりもっと年を取っているのだろう。それにしても、どこかで見たような顔である。というかここ最近良く見ている気がする。


「あ、お兄ちゃん」


 群衆のせいで人酔いして馬車の中でうなだれていたリードが不意に馬車の入り口からひょいと顔をだした。と同時にさらっとそんな言葉を口にした。


「リード? どうして君が姫様と一緒にいるんだい?」


 ホーリィがリードの姿を見て驚いている。が、びっくりしたのはむしろこっちである。


 人酔いも忘れたようにリルを抱きしめたリードが軽やかに馬車を駆け下りてきた。リードとホーリィが対面する。こうしてみてみればなるほどと思えるくらい一目瞭然なのだが、リードとホーリィはまるで双子かと思えるほどに顔立ちが瓜二つであった。


 兄と再会したことが嬉しいのだろう。甘えるような表情でリードが兄に話しかける。


「路銀が無くなっちゃって困ってたところを鉄兵に助けてもらったの。あ、この人が鉄兵。お兄ちゃんも噂は聞いてる?」


「そうだったのか。もちろん噂は聞いてるよ」


 ホーリィは優しくリードに微笑みかけると不意に鉄兵の方に身体を向けた。そのまま右腕を曲げて突き出し、きっかし、ホーリィは30度の角度で腰を曲げて礼をした。


「妹を助けていただきありがとうございました。リードの兄のホーリィ・ウィードと申します」


「これはご丁寧に。香坂鉄兵と申します。リードにはいつもお世話になっております」


 急に話を向けられて、鉄兵は慌ててぺこぺことお辞儀を返した。なんというか、不意を突かれて日本人としての気質が出てしまっている感じである。


「実はわたくし、これより当分の間テツ様のお傍に仕えさせていただく事になっております。妹の恩人に仕えさせて頂けるとは、どうやら私は相当に運が良いようですね」


 その鉄兵の様子を見てなんとなく鉄兵の人柄を理解したのか、ホーリィは少しばかり気を緩めて鉄兵に当たる事にしたようで、少し悪戯っぽく微笑んだ。


「そうなんですか。これからよろしくお願いします」


 ホーリィが気を緩めた事を察知して、鉄兵も肩の力を抜いた。地の笑顔でホーリィの言葉に返す。


 何があったわけでもなく、お互いに微笑みあう。なんだろう、リードの兄という事で親近感もあるのだろうが、鉄兵はホーリィととても波長が合いそうな気がした。この人が傍にいてくれるなら、王都での生活も悪くないものになりそうだなと思える。


「それではそろそろ行きましょう。鉄兵様とシロ様は私に着いてきて下さいませ。リードは……姫様にお願いしてもよろしいでしょうか? 囚人の皆様は私の部下について行ってください」


 鉄兵とのファーストコンタクトを終えたところでホーリィが仕事モードに復帰した。予想していた事ではあるが、ここで一時みんなとは別れ別れになるようである。ちなみにイスマイルは神職なので完全に別行動であり、リルは鉄兵と一緒である。


「兄ちゃん!」


 ホーリィの部下に山賊達が集まる中、アルテナがこっちに寄ってきた。


「ガツーンとかましてくれよ!」


「おう、任せとけって」


 アルテナが思いっきり殴るようなポーズをとったので、鉄兵は顔の前に力瘤を作って応えてみた。イスマイルとかと比べればまだまだだが、鉄兵もそれなりにムキムキなので様にはなる。


 軽い言葉に聞こえるかもしれないが、鉄兵にしてみればそれこそ言われるまでも無い事である。今の鉄兵は、ただそれだけを考えて動いているのだ。


「そんじゃまた後でな」


「信頼して待ってるぜ」


 そのままハイタッチしてそのまま分かれる。


「では私の後にお進み下さいませ」


 ホーリィに導かれ、城の中へと入っていく。


 さてここからが本番である。


 鬼が出るか蛇が出るか。


 どちらが出ても関係が無い。


 鉄兵はただアルテナ達を助ける事だけを考えて入城を果たした。

2011/1/14:指摘いただいた誤字修正

「感が良いというか」

→「勘が良いというか」

2011/2/14:指摘いただいた誤字修正

スラムを含めてそこここに

→スラムを含めてそこそこに

よく見ればしホーリィの

→よく見ればホーリィの

ホーリィとても

→ホーリィととても


2011/10/18:指摘いただいた誤字修正

日本人としての気質が出てし[待]っている

→日本人としての気質が出てしまっている


2011/11/30:指摘いただいたいらん言葉修正

よく見ればホーリィの耳は非常に[耳が]長かった

→よく見ればホーリィの耳は非常に[]長かった


2012/7/17:指摘いただいた表現修正

囚人の[方々]は私の部下について行ってください

→囚人の[皆様]は私の部下について行ってください

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