戦の始末
不意に目が覚めてむくっと身体を起こし、寝ぼけ眼で横を見ると、そこにはテーブルに向かって座るシロの後姿が見えた。
「おう、起きたか」
「あれ、シロ? おはよう……」
振り返るシロを鉄兵はやや寝ぼけながら首を傾げた。確か山賊のアジトに乗り込みに行ったはずだがいつの間に帰って来たのだろう?
そんな事を考えながらぼけーっと見ていたら、シロはなぜか苦笑気味に笑ってなにやら作業をし始めた。気になったのでベッドから降りてテーブル越しにシロの正面に回りこむと、シロはいつぞやのように茶を立てていた。
しばし茶筅を回して満足がいったのか、できあがったそれをシロが無言で差し出す。とりあえず椅子に座って受け取って飲んでみると、それはいつぞやのような紅茶ではなく、ちゃんとした緑茶だった。少し苦かったが、懐かしい味に心が和む。
「……なに?」
仄かに幸せな気分になりながらうっとりと緑茶を飲んでいたら、なにやら茶を飲む自分を見て、シロがニヤニヤと意地の悪そうな顔で笑っている。
「随分と柄に無い事をやらかしたようだな」
……思い出してしまった。途端にお茶がまずくなった気がする。
「お前さんはそういうタイプじゃないと思ってたんだがなぁ」
少し真面目な声がした。気分が沈んでしまって顔をうつむけたためシロの表情は分からないが、なんだろう、心配されているというか、いたわるような声だった。
「もう懲りた。もう絶対にやらない……」
うつむきながら鉄兵は声を振り絞って答えた。あれはもう、なんというか鉄兵的には自分の人生に残るような汚点だったのだ。
さて鉄兵を弁護するようだが、少し彼の心情を考えて欲しい。突然異世界に飛ばされて心細いと思った時には近くにシロという心強い旅慣れた仲間がいた。直後には王女様という元の世界ではお目にかかれないような高貴な人物と交友を深め、さらにはリルという可愛らしくも最強のペットを従えた。なぜか原因不明に肉体能力は強化されていたし、むさいイスマイルには神に等しい魔力があると言われ、リードによってチートといえるような魔法の才能を開花させ、鉄兵は自分ではそんなつもりは無かったのに、調子に乗ってしまっていたのだ。
鉄兵の魔法使いとしての能力も肉体能力も間違いなくこの世界では最強クラスのものだろう。でも、それは自分が努力して手に入れた技術ではなく、いわば借り物の力なのだ。それなのにそれを自分の力と勘違いし、自分は何でも出来ると思ってしまった。
いくら小中学校と剣道少年で初段の段位があったところで、文字通りその道で何十年と生きてきた人間に技術で勝てるはずが無い。なのに誰もが納得できる最高の形で解決したいという傲慢な考えをして自分に制限を置いて考えた結果が例の決闘騒ぎだ。蓋を開けてみればあの悪夢のような17連戦。おまけにそんな酷い目にあったのに傷どころか疲労も筋肉痛もないのだから、鉄兵的にはまさに悪い夢でも見た気分であった。いや、多分今後、時々ほんとうに夢に出てきてうなされるだろう。
大学も三回生だというのにまさに厨二的な行動に、思い返すだけで嫌気が差す。けど次に同じ事があったらどうするだろうと考えた結果、多分同じ事をするんだろうなと思うと我が事ながらなかなか救いがたかった。けど、無論の事ながら冷静に振り返ると肉体強化やアホみたいな魔力が無ければ違う作戦を考えたはずである。自分は戦闘職ではなく技術者なのだ。ならばもうちょっとこんな脳筋っぽい作戦よりましな作戦を考えるべきだったろう。
うな垂れて、自責の念に駆られつつ次回の対策に没頭して、ついにはテーブルに突っ伏した鉄兵の姿を見て、シロはのんびりと煙管を取り出すと一服つけ始めた。
「ま、その甲斐はあったようだけどな」
煙で輪っかを作りつつ、そんな事をシロはぼそっと呟いたのだが、羞恥心に身を焦がす鉄兵の耳には届いていなかった。
「あれだ。とりあえずリル公をどうにかした方が良いと思うぜ? 」
ひとしきり鉄兵の狂態を楽しんだシロはひょいと窓の外を指差した。なにか嫌な予感を感じた鉄兵がぴくっとその言葉に反応し、恐る恐る立ち上がって窓から外を見る。残念ながら(?)この世界に来てから鉄兵の嫌な予感が外れた事は無い。今回も御多分に漏れずなかなか壮大な光景がそこには広がっていた。簡単に言えばフェンリル形態のリルが盛大にあくびしながら耳を掻いていたのだ。
「…………」
思わず鉄兵は絶句した。真昼の太陽の下で見るフェンリル形態のリルは中々迫力があった。全長100mと言われて100m走の距離を思い浮かべると大した事がなさそうに思えるだろうが、建物で言えば33階建てのビル。スポーツが好きな人なら野球場やサッカー場、学生ならば200mトラックの校庭をまるまる占拠している狼の姿を想像して頂ければなんとなくその大きさを想像していただけると思える。そんな大きさの狼があくびしながら耳を掻いているのだ。正直なところの鉄兵の感覚としては最初に思ったのが『可愛い』だったのだが、一般の人にとってはそんなわけにも行かないだろう。
「……リル!」
我に返った鉄兵が思わず叫ぶと、リルは敏感に反応してシュルシュルと小さくなり始めた。その姿を見てほっとしつつ、鉄兵は慌てて部屋を出て行った。
一人部屋に残ったシロはやれやれといわんばかりに苦笑しつつ、鉄兵が飲み残した緑茶を一口飲んでうんと頷くと、ぷかぷかと煙管をふかし続けた。
「リル!」
『あるじ! あるじ!』
家から出ると、早くも駆け寄ってきていた子狼姿のリルが鉄兵の胸の中に飛び込んだ。リルは甘えるように鉄兵の胸に擦り寄って匂いを嗅いでいたが、やがて鉄兵の胸の中ですやすやと穏やかな寝息を立て始めてしまった。
考えてみればあの決闘騒ぎの後で鉄兵は気を失ってしまったが、いくら勝負に負けたとはいえ、山賊が素直に大人しくしているとは限らなかったのだ。あの場には山賊と鉄兵。それにリルしかおらず、リルがいなかったとすれば気を失った自分がどうなったか分からない。だからきっとリルは一晩中フェンリル形態のままにらみをきかしていたのだろう。まだ子供だというのにそんな健気で忠実なリルの行動に、鉄兵は無茶なお願いをしてしまったなと多少罪悪感を感じつつも誇らしくて、胸の中で眠るリルの毛をそっと優しく撫でた。
「鉄兵!」
その場に座ってしばしリルを撫でつつ和んでいたら、恐らくリルが小さくなった事で鉄兵が起きた事に気づいたのだろうリードが息せき切って走ってきた。どうやら走る事には慣れていないらしく、やがて鉄兵の前までたどり着くと、膝に手をついて荒く息を整え始める。
「おはよう、ししょ……う?」
そんなリードに鉄兵はのんびりと挨拶をしようとしたのだが、不意に顔を上げたリードの表情を見て鉄兵は戸惑いを隠せずに語尾が疑問形になってしまった。明らかにリードは怒っているようで、まさに怒れる小動物という題が似合いそうな表情で口元をへの字に曲げている。可愛らしい少女であるリードが怒り顔を見せたところで怖いどころか微笑ましくしかないのだが、それにしても怒られるような事はしていないはずだがどういうことだろう?
不意に手を上げたリードが、しっかりと腰に力を溜めて振り下ろす。開いた状態で振り下ろされた掌はこのままだと頬へ強烈にミートするだろう。俗に言うビンタという奴を食らおうとしているわけだが、昨日の戦闘の後遺症か、動体視力が強化されている鉄兵にはその動きが良く見えてしまう。避けると後が怖そうなのであえて食らおうと思ったのだが、ふと寝ているリルを起こしたくないなとか鉄兵が思ってしまったところ、その結果はリードにとって非常によろしくないものとなった。
「いっっっっったぁぁぁぁい!!!!」
鮮やかな平手を放ったリードは、しかし逆に手を腫らして悲鳴を上げた。それはそうだろう、リルを起こしたくなかった鉄兵は無意識に絶対防御の魔力コーティングを展開してしまったのだ。衝撃すら通さない魔力コーティング時の鉄兵を叩くと言う事は、鉄の壁にしたたかに平手を打ち付けるようなものだ。それが会心の一撃ともいえる見事なものだったのだから、リードには逆に痛恨の一撃となって返ってきた訳だ。
「こら鉄兵! なんで防御するのよ!」
「あー……すいません。けどリルが寝てるから今は勘弁して。後でちゃんとくらいますから」
手を痛そうにぶんぶん振りながらリードが怒り狂う。その様子はあらぶるリス辺りの形をもったオーラでも背に浮かせそうな勢いだ。なんとも理不尽なリードの言い様だったが、とにかく謝りつつも腕の中のリルを視線で指すと、リードは可愛らしいリルの寝姿に「うっ」と怯み、頬を膨らませた後ではぁっと溜息を吐いた。
「後で三倍にするからね……けど、わかった。そんな物理防御結界が張れるからあんな無茶したのね」
どうやらこの魔力コーティングによる防御魔法は物理防御結界という立派な名前のある魔法らしい。それはともかく、リードの怒っている原因がなんとなく分かった。
「えっと……怒ってるのはその事ですか?」
「そうです」
ちょっとそこに座りなさいとでも言わんばかりにリードが腕を組んで胸を張り、鉄兵を睨みつける。どうやら説教モードに移行したようだ。もう座っているので座れないが、思わず鉄兵は背を正す。
「鉄兵は魔術師でしょ? それなのになんで魔法を使って戦わないの!
山賊が来て鉄兵が出てった時は心配だったけど、なんだかんだで鉄兵は化け物だから大丈夫かなーと思って楽観してたのに。
なのに様子を見に行ったら山賊は結構ぴんぴんしてるのに鉄兵は倒れて寝せられてたし、リルちゃんはものすごくおっきくって山賊なんて一捻りできそうなのにそんな状況だっていうのにじっと山賊を見張ってるだけだし、状況がぜんっぜん分からないから勇気を振り絞って出て行ってあの山賊さん達に聞いたら、魔法使わないで一騎打ちの決闘なんてしたっていうじゃない!
鉄兵は戦士じゃなくて魔術師でしょ。だから決闘だとしても魔法は使って良いの!
それなのに魔法を使わないであんなぼろぼろになるなんてバカじゃないの!
っていうか騎士でもないのに決闘なんてバカじゃないの!
もっとスマートに戦いなさいよ!」
魔術師でも無く技術者なんだけどなぁとか鉄兵は思ったが、言うと今度は本物の雷を落としてきそうなので黙っておく。それにしてもなんとも酷い言われようである。一言言われるたびに古傷が抉られるようだ。なおもリードは雷を落としそうな気配をしていたが、これ以上は耐えられそうになかったので鉄兵は慌ててリードの説教に口を挟むことにした。
「まあまあ! 魔法を使わなかった事には事情がありまして……」
「どんな事情?」
「いや、一応肉体強化の魔法は使ったんです。でも俺は人を殺す魔法なんて使う根性が無いし、無傷で対象を捕縛する魔法とか知らなかったもので無茶をしてしまいました。今度教えてくれませんか?」
「お願いします。師匠!」と調子良く熱心に頼み込むと、リードは満更でもないように怒りを解いたようだった。
「そうね。考えてみればここのところ鉄兵には聞くばかりで何にも教えてなかったし、たまには師匠っぽい事もしないとね。……あれ、って事は魔法を使わなかったのはわたしのせい?」
途端にリードはばつの悪そうな顔をしたが、その件についてはお互い様なので軽く流す事にする。それよりもリードの怒りが落ち着いたところで気になることが頭をもたげてきたのだが、そういや山賊はその後どうなっているのだろう? リルが見張っていたから逃げられはしてないだろうが、そのままあの場所にいるのだろうか?
「ところで師匠。あの山賊はどうしたの?」
「山賊? あぁ、あの人達ならアリス様に連れられて昨日の火事にあったとこの家を建て直させてるみたい。わたしはリルちゃんとずっと一緒にいたからあんまり知らないけど」
自分のしでかした事に対する始末は、本人につけさせようというわけなのだろう。なるほどアリスならそうするだろうと鉄兵は思った。それにしてもリードはずっとリルと一緒にいたという事だが、昨夜からずっとあそこにいたのだろうか? アリス達が戻ってくるまでリルはずっと山賊を見張っていたのだろうが、リードはそんなリルの健気な姿を見て自分だけベットでのんびり出来る性格じゃないのはここ数日でわかっている。眠そうな気配は無いからきっとリルにもたれつつ寝てたりしたのだろうが、そこには山賊がいたはずで、なかなか根性が座ってるなとか思った。
それはともかく、山賊達が大人しくしているかは気になるところであった。リルが元の大きさに戻ったのは今頃あっちでも気がついているだろう。今山賊達と一緒にいるのは恐らくアリスとイスマイル。それに兵士三人だろう。対して山賊達は17人いるわけで、悪い事態になっていなければいいのだが……
「様子を見に行ってみようかな」
「あ、あたしもいくー」
ヤバイ事態になってたらアレなのでリードを連れて行くのはどうかと思ったが、考えすぎだろうという事で、あまりそこを深く考えない事にした。自分はあまり物騒な事を考える性格じゃないと思っていたのに、どうもまだ昨夜の興奮が抜け切っていないようだ。
リルを起こさないように慎重に立ち上がってゆっくりと火事現場に向かう。現場に着くと、山賊達は大人しく従っているようで、見覚えのある顔がイスマイルに指示されて働いている。あれだけ数が揃えば作業もはかどっているようで、はやくも壁の半分以上が完成しているようだった。
「おや、これはテツ殿」
現場に近づくと鉄兵の姿に気がついたイスマイルが声をかけてきた。
「昨晩は見事な御活躍だったそうですな」
「その件については触れないで下さい……自分の行動を恥ずかしく思っているので」
いきなり痛い話題に触れられて、鉄兵はイスマイルの言動を遮るようにイスマイルに掌を向けた。伏せ目がちに言った言葉は我知らず尻すぼみに小さくなっていく。
「恥じる事など無い立派な行動だったと思いますが、鉄兵殿にとってはそうでもない……という事ですか?」
事実そういう事なので頷くと、イスマイルは思うところがあるようで「ふむ」と腕を組んでしばし考えた後で説教を始めた。
「テツ殿。無礼を承知で言わせていただきますが、あなたは自分の取った行動を誇らねばなりません。この山賊達がなぜこのように従順に使役されているかといえば、それはテツ殿との名誉ある戦いに敗れたからこそ敗残兵としての責務を全うしているのです。それなのに、彼等を打ち破ったテツ殿自身がその事について恥じていると知れば、彼等はどう思うと思いますか?」
鉄兵にとって、イスマイルの話は思いがけない事だった。山賊を倒した事でもう自分の役目は果たし終えたように考えていたが、行動には責任がついてくる。例え軽率な考えからした行動でも、後始末までしっかりと責任を持って行わなければならないのは言われてみれば当然の事だ。
自分がなんであんな行動を取ったかを改めて考える。誰もが納得できる形で事を終わらせたいと考えて取った行動であり、それがいかに不本意な工程で達成したとしても、それで相手が納得して従っているという事ならば、自分には彼等を納得させた自分である義務があるのだ。
ふと視線を感じて振り返ると、たまたま近くにいた山賊の一人が会話が聞いていたようで、値踏みするかのように鉄兵の事を薄睨みしている。確かヨハネという最初に戦った山賊である。
鉄兵はしばし考えた後でヨハネに向かって真剣な顔で頷きかけた。するとヨハネはそれで良いと言わんばかりに軽く微笑みかけて作業に戻っていった。
「そうですね。浅はかな考えをしてしまい申し訳ありません」
神官という事もあり説教になれているのだろうか。鉄兵のまだまだ足りぬ思慮を正す説教をしてくれたイスマイルには自然と敬意を持って頭が下がった。
「いえ、御無礼の程をお許し下さい。テツ殿のお役に立てたのならば私にとっても光栄というものです」
あくまでも丁寧なイスマイルの言葉には大人の貫禄が感じられた。イスマイルの丁重さを見ていると、毎度の事ながら鉄兵は自分がまだまだ子供なんだなと思えてくる。色々見習うべきところは多そうだった
「イスマイル様の言う事はもっともだけど、鉄兵はやっぱり無茶しちゃ駄目だと思うよ。鉄兵は頭が良いくせに思慮が浅いところがあるからそのうち酷い目に会うと思うの」
と、良い話で終わろうとした会話の最後に突っ込みを入れてきたのはリードである。相も変わらず痛いところを真正面から言ってくれるが、自分でもそんな気がするので何も言い返せなかった。
「鉄兵か? 起きたのだな」
ちょうど会話が終わった頃に、小屋の中の作業を見ていたらしいアリスが作りかけの玄関から出てきた。こちらにすぐに気がついたようで駆け寄ってくる。
「アリス……ごめん、心配かけた?」
いつも冷静なアリスが珍しく慌てたように駆け寄ってくるのを見て、鉄兵は思わず自分から謝った。他の人と話しててもそんな事は思わなかったのだが、なぜだろう?
ちなみにその横では「私の時と全然対応が違うんですけど、どう思います?」「ふむ、そうなのですか。それはそれは」等とリードとイスマイルが小声でやり取りしていたのだが、鉄兵の耳には届かなかった。
「そうだな。心配したぞ」
アリスは鉄兵の無事な姿を見て安心したように息を吐くと、やはり少し怒っているようで、口をへの字に曲げている。
「えっと……ごめんなさい。謝るから機嫌直して欲しいな」
なんともボキャブラリーに欠けた謝罪の言葉だが、どうにも言葉が出てこない。人間真剣になればなるほどそんなものである。
「ふむ。そうだな、心配をかけさせた罰として一つ説教をさせてもらおうか」
アリスは思惑有り気に微笑むと、すっと鉄兵に近づいた。事も無く他人の間合いに踏み込んでくるアリスに鉄兵はやや戸惑う。
「鉄兵、手を出してくれないか?」
どうにも逆らう気が起きず、言われるままにリルをリードに預け、両手を前に出す。すると、アリスは鉄兵の手をそっと両手で包んで握ってきた。昨日は自分が握ったわけだが、今日は逆の立場である。アリスの手は剣を握る手なので少しゴツゴツしていたが、それでも思った以上に柔らかかった。
アリスが真剣な眼差しで鉄兵を見つめてくる。吸い込まれそうなほど深い真紅の瞳を向けられて、否応も無く鉄兵の鼓動が上がっていく。
「鉄兵は私に山賊の命より私が傷一つ無く戻ってきた方が嬉しいといってくれたが、それは私だって同じ気持ちだ。私からも改めて言うぞ。私は他人の命より鉄兵の命の方が大事だ。無茶な事をしないでくれ」
「え、あ……はい」
アリスの言葉は真剣そのもので、鉄兵は真摯なアリスの言葉にやや意識が朦朧としてきた。
なんだろう。これは愛の告白をされるよりもきっと恥ずかしい。自分も同じ事をしたんだと思うと鉄兵は消えてしまいたいほど恥ずかしくなってきたが、不思議と嫌ではなく、妙にこそばゆい感覚だった。
ちなみに二人の横ではイスマイルが「うむうむ」と頷き、他の山賊達やリードは口から砂でも吐きそうな表情をしていたが、無論二人はその事に気がついてはいなかった。
9/26:文章修正
「アリスは思惑有り気に微笑むと、すっと鉄兵に近づいた。間合いに踏み込んでくるアリスに鉄兵はやや戸惑う。」→「アリスは思惑有り気に微笑むと、すっと鉄兵に近づいた。事も無く他人の間合いに踏み込んでくるアリスに鉄兵はやや戸惑う。」
他多数細かく文章修正(内容は変わってません)
イスマイルの台詞の「鉄兵」を「テツ」に修正……
10/24:ご指摘いただいた誤字修正
「その件についてはお互い様なので軽く流す頃にする。」→「その件についてはお互い様なので軽く流す事にする。」(頃→事)
12/11:ご指摘いただいた誤字修正
「茶杓」→「茶筅」
12/18:指摘いただいた誤字修正
なんとも理不尽なリードの良い様だったが、
→言い様だったが、