転移先は墓場でした。
それはいつもの放課後、少し遅い時間。
私は仲の良い生徒会執行部の仲間4人と一緒に、高校の通用門に向かって歩いていた。4人とも鞄にはたくさんのぬいをぶら下げている。作ったのは私だ。
「ありがと~理梨ん。また新しい推しマロ様ができて、すっごい嬉しいよぉ」
今日作り上げた5㎝ぬいに頬ずりしながら、仙間泉音が喜んでいた。
「チョコファッション一つで手を打ってあげる」
「はは、おまかせください…、ってヤバ!タブレット机の中に置いたまんま。ごめん、先に行ってて」
「慌てたらこけるぞ」
校舎に駆け戻る泉音の後を、神足朔弥が追って行こうとした。
「相変わらずあわて者だよな、泉音は」
「校門のところで待ってるからゆっくりね」
呆れたように声をかけたのは剣朋成と野々崎もえぎ。
「だから忘れ物はないか確認しなさいって言ったでしょ」
と言ったのは私、土寄理梨。一応生徒会では会計を担当している。
しっかりもので可愛げがないとよく言われるが、自分では気に入っている。生真面目で融通が利かないという一面も含めて。すべては私を形づくっている要素の一つ。
「ほんと土寄は手先だけじゃなくなんでも器用だよな」
とはよく言われる。何でもそつなくこなす器用貧乏と言われることもある。
外見に派手さもなく、泉音やもえぎのように取り立てて可愛いかったり美人だったりするわけでもない。
体形はまあ普通のJK。太くもないし痩せてもいないし、胸がでかいわけでもない。ごくごく平凡。身長はどちらかというと低め。ナチュラルブラウンのおさげ髪。何においても絶対的な地味キャラ位置だと、自ら認識している。
それで充分。この先の長い人生、私は堅実で現実的に生きていきたい。
なんて思っていた時期も確かにありました。
それはいつもの放課後、少し遅い時間。
慌てた泉音が駆けだし、その後を神足が追従し始めた時、最初の発光現象が起きた。
あまりにもまばゆい光に一瞬目を閉じ、すぐに開いた。片手で光を遮りながら、見えたのはとても大きな魔法陣のようなサークル。
続いてすぐに二度目の発光現象が起こり、また大きなサークルが見えた。
と、思ったら目の前の景色が一変していた。
光の粒がトンネルを造っていた。そこをどんどん流されていく。トンネルはとても大きく、はるか前方に剣ともえぎの姿があった。まるで何かに吸い込まれているかのように、前を行く彼らも光のトンネル内を物凄い速さで流されていく。
『こと…り!手!』
すぐ近くに流れてきた泉音が、こちらに向かって思い切り手を伸ばしてくれた。
『いずね!』
私も必死で手を伸ばした。
『土寄!』
神足も片手で泉音の手をつかみながらこちらに手を伸ばしてくれる。
『かみた…り君』
私は必死で二人に向かって両手を伸ばした。けれど流れは早く。
前方の剣ともえぎの姿はどんどん離れていく。
『……り!い…!……』
もえぎが何かを叫んでいるが聞き取れない。
届きそうだった手は届かず。神足と泉音までもが高速で離れていく。
『待って!いずね!神足君!まっ…』
皆からどんどん離れていき、不安が一気に膨らんだ。
なんで?どうして?自分だけが取り残されてしまう。焦りと不安で泣きそうになった。
そこで暗転。
目の前が真っ暗になったと思ったら、ぽーんとどこか明るい場所に胴体着陸よろしく転げ落ちた。
私一人。
そこは異世界召喚定番の王城とか、どこかの聖堂や地下室や研究室のようなところではなく。
外だった。
いや、おそらく。考えたくはない。考えたくはないが、墓場?かもしれない。
夕闇が迫りつつある開けた場所。膝ぐらいの高さの細長い石柱が縦横に並ぶ。倒れたり欠けたりしている石柱もあり、多くは雑草に覆われている墓標らしきものの数々。荒れ果てた雑木林が点在し、遠くにはここを囲むように立つ鉄柵らしきものが見えた。
考えなくても墓場だった……。私はがっくりと両手をついた。腕には辛うじてトートバッグが残っていた。お気に入りのぬいをたくさんくっつけているが、趣味の裁縫道具しか入っていない。学生カバンもスマホもトンネルを流されているうちに手放してしまった。手元にあるのは役にも立たないトートバッグひとつきり。
一体ここはどこなんだ。
どうして異世界転移のようなモノに遭遇したのか。
これは夢?
さっきから少し離れたところにある大きな樹の前に、変なじいさんと大きな鳥の姿が見えるけど、これも夢だ。うん夢に違いない。
変なじいさんと大きな鳥の背後が透けてみえるのもきっと夢のせい。お化けやユーレイなんてこれまで一度も見たことがないし、私はそういうの信じてないし。
やばい、変なじいさんユーレイと目が合った気がする。
やばいやばい。何かこっちに浮いてきたんですけど?
見えてないフリをしよう。というか、逃げたい。
『おい、キャス。このけったいな奴わしらがみえておるようじゃな』
『のうようですね、主。おそらく声も聞こえているようです。今あきらかに挙動不審ですので』
『うむ、怖がるのも無理はないかのう。これお嬢…あ、逃げた』
『逃げましたね』
じいさんと大きな鳥のユーレイコンビが頭上で話し出したのでパニックに陥った。恐怖で頭が真っ白になって、ただ走った。どこをどう走ったのか。分からないけれど、この墓場の出口は見えなかった。
形は違うが大小さまざまな墓標が、崩れながらも並んでいる。荒れ果てた歩道と叢と墓標と。つまずきながらも出口を求めて走った。
ここでも鉄柵が見えたが、その向こうには鬱蒼とした森があるようだ。鉄柵は私の背の三倍はあり、とても越えられそうもない。
息を切らして振り替えると、じいさんと大鳥のユーレイコンビは追いかけてはこなかった。
少しほっとして息を整える。
それにしても分からないことだらけだ。
分からないことだらけなのに、頭は全然働かない。
「と、とにかく落ち着こう。落ち着いて整理して、深呼きゅ…ひっ!」
すぐそばでいきなり大きな音がした。それと同時に鉄柵がガタガタと揺れる。何かが鉄柵にぶつかったのか。
鉄柵の向こう。
赤い目をした骸骨のお化けが数体、鉄柵に張り付いていた!
叫んだ。叫びながら走って逃げて。後ろを振り返る勇気もなく。ただただ走って。
もとの場所に戻っていたようだ。大きな樹の側に、じいさんと大きな鳥のユーレイがいた。
私は泣きながら、じいさんと大きな鳥に訴えていた。
「お、おばけっ、おばけがいた!」
『……』
『……』
じいさんと大きな鳥のユーレイが顔を見合わせて、微妙な表情をしていた。




