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新婚6日目、ミーシャは戦場に行った~貞操逆転世界で出征した妻のために夫のすべきこと~  作者: つゆたま


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6/10

1日目⑤

「長い……戦いだった……」


 ウーノはミーシャから、長々と説教されていた。

 自分の言動が周囲からどう見られるか自覚して、男としてつつしみを持ってほしいと、涙ながらに言われたのだ。

 昼間、弱者扱いされたくない、と言う意見に同意したが、それとこれとは別。男は女にとって被捕食者であり、周囲の女はみんな狼なのだと、彼女は語った。


 自分の認識が甘かったのは事実だし、すこし警戒に欠けるところがあるのは、自覚していた。

 だからこそ、最初の方はウーノも只ひたすらうなずいていたのだが……説教の方向性がだんだんと、本当は巨乳好きなのではないかと、自分はタイプではないんじゃないかと、ウジウジとした内容に変わっていった。


 これはいけない。イネッサに『金目当て』と言われたときもムッとしたが、当の本人から疑われては敵わない。ウーノはミーシャを分からせてやることにした。


「……うるさい口だな」


「ちょっと、今は真面目な話……ん……」


「……ふう。やっぱり俺には、ミーシャちゃんが一番魅力的だよ」


「……本当ですか?胸の大きいイネッサより、私の方が、女として、魅力的ですか?」


「本当だよ。ミーシャちゃんが世界一!」


「じゃ、じゃあ……許してあげ……あんっ……」


 ウーノの言葉は心からの物だった。実際に、イネッサと結婚していたら、格下扱いされて生活に不満があっただろうし。

 ともあれ、ウーノはミーシャの心も体もほぐすことにセイコウし、静かな夜を手に入れたのだった。


 コトが終わった後、ベッドの上では、ミーシャが死んだカエルのように白目をむいてひっくり返っていた。

 尊厳もへったくれもない姿だが、それでも不思議と美しさを感じる。それはきっと、ただ愛による贔屓ひいき目なのではなく、本当にミーシャが美少女だからだろう。

 美しい女性と結ばれた幸運を噛み締めながら、ウーノはモザイク必須の状態の彼女に毛布をかける。そして失われた水分を補充するべく、宿のキッチンへと行くことにした。


 備え付けのタオルで体を拭き、念入りに服の消臭用の魔道具で身を清めた後、ローブしっかり身に着けて、部屋を出た。


「あ、もう終わったの?アイツ、イクの早すぎ……うわクッサ!誰が掃除すると思ってんの……」


 扉を開けると、イネッサが部屋の前に立っていた。


「あれ、イネッサ……さん?やば、臭いますか?」


「アンタはともかく、ドア開けただけで酷い臭いがしてくるよ……早く締めて」


 イネッサは鼻をつまみながらドアを閉めるように促した。ウーノは慌てて指示に従い、ミーシャを起こさないようにそっとドアを閉めた。


「す、すみません……あの、それで、何か用ですか?」


「敬語はいらないよ、年もそんなに離れてないでだろう?……さっきは悪かったねぇ。少し話さない?アイツの昔話、してあげる」


 そう言ってイネッサはラウンジの方へ歩いて行った。ウーノはその後を付いて行く。

 ラウンジにつくと、彼女はカウンターの下から酒瓶とグラスを取り出した。


「……あ、ごめん。俺、酒苦手で……それより、水が……」


 未成年なのに挑発されて酒を飲み、アルコールで気が大きくなった結果滝壺ダイブ。直近でそんな失敗をしていたウーノは、当面は酒を断ろうと決めていた。

 幸いにも、この世界で男が酒に弱いことは恥ではない。そして恋人でもない女性に酒を勧められても、男は断るのが普通だ。

 女が男に酒を飲ませようとする、それは酔いつぶしてアレコレするのが目的だからである。


「えー?しょうがないなぁ……ほれ、飲みな」


 イネッサが指を振るうと、虚空から水があふれ出し、グラスの中を満たした。


「ありがとう……ぷはっ……それで、妻とはどういう関係で?友達とか?」


 ウーノが一気に水を飲み干すと、イネッサは呆れたように再び指を振って、開いたグラスに水を入れた。

 そして自身は、酒瓶に直接口をつけてラッパ飲みした。


「んっく……ふうぅ……やめてよ、アイツと友達なんてさ。まあ、腐れ縁、ってやつ?この宿、アタシの両親が経営しててさ……流れ水の民のよしみで、アイツには少し安く、貸してやってたの。初めて来たのは、10歳かそこらの時だっけ?それ以来、偶に顔合わせてんのよ」


 イネッサは後ろに一つにまとめた髪を振って、目を指さした。


「ああ、やっぱり君もか。黒髪で目が青い人は、みんな流れ水の民なの?」


 イネッサは怪訝な顔をした。


「アンタそんなことも知らないで、ミーシャと結婚したのかい?そうだよ、普通は髪色と瞳の色は、魔力の属性に影響されて変化する。んで普通は黒髪ってのは属性なし、身体強化が得意な奴の色だ。でもアタシたち流れ水の民は目だけが青くて、黒髪なのに水と風の魔法が得意なのさ」


「ああ、だからやたらと、髪色がカラフルなのか……」


 ウーノは納得がいった。この街の人は色とりどりの髪を持っていたのが、不思議だったのだ。自分と同じ黒髪もいたが、どちらかというと少数派だ。


「でも、ほんと、意外だよ……あの泣き虫ミーシャが、ね……」


 そう言って、イネッサは酒瓶を仰ぐ。最初に口を付けた時はほとんど満タンだったそれは、すでに半分になっていた。


「その泣き虫ミーシャってのは……?」


「ぷふう……アイツの冒険者としての二つ名。格下の魔物にすらビビッてるから、つけられたの。魔物だけじゃなくて、人間相手ならただのチンピラに絡まれても泣いて逃げ出す、真正のビビりなんだよ。実力はあるし仕事も丁寧だから、金は稼げるのに、ビビりなせいで、全部台無し!……なのに、アイツはさっき、私に魔法を、しかも禁術を撃とうとしたんだ。驚きだよ」


 イネッサの意外、という言葉は、ウーノと結婚したことだけでなく、自分に牙を剥いたことも含まれていたようだ。


「禁術……?」


「確実に命を奪う魔法、だよ。魔法使いは普通、ちょっと体を焼かれたり腹を貫かれたくらいじゃ死なない。回復魔法があるからねぇ。でも禁術は、回復魔法が効かないんだ。さっきアイツが使おうとしたのは、『忌まわしい影の汚水』って魔法。黒い水が相手の体に入り込んで、中から暴れて体中をズタズタにするのさ」


「うわぁ……」


 想像しただけで玉がヒュンとする。ウーノは顔を青くした。


「自分が傷つくのも、誰かを傷つけるのも、苦手なアイツが、さ……逃げてばっかりのアイツが……アンタを取られたくないからって、この私に歯向かってきたんだ。本当に、人間どうなるか、分からないもんだねぇ」


 少しうれしそうに話す彼女からは、ミーシャへの複雑な感情が見えた。

 腐れ縁と呼んだり、ミーシャを馬鹿にするような言動はあるが、なんだかんだ言って年下の同胞のことを、気にかけているのかもしれない。


「……そうなんだ。まだ、ミーシャちゃんのこと、知らないことばかりだな……」


「アンタたちは、どれくらいの付き合いなの?前にアイツがここに来たのは半年前だけど……その時は男の話なんてなかったから、最近でしょ?」


 イネッサの問いに、ウーノは頬をかいた。


「えー、知り合って1日、結婚したのは今日の朝……」


 しばらくの沈黙。目を丸くしたイネッサは、机を叩いて立ち上がった。


「はあぁ!?噓でしょ!?1日で結婚……犬だってもっと相手を選ぶさ!んでもって今朝結婚した……!?」


 バンバンとテーブルを叩くものだから、残り少なくなった酒瓶が倒れてしまう。

 ウーノは転がって落ちそうになったそれを寸前でキャッチして、テーブルに戻した。


「おっと……いや、まあ、はい……」


「ちょっと待ってよ……アンタがビッチって、マジの話じゃん。アタシ間違ってないじゃん……馴れ初めは?馴れ初めはどんなの?」


 目を輝かせて迫るイネッサを、ウーノはどうどうと抑えた。


「えーっと、俺が色々あってミーシャちゃんが住んでる森に飛ばされて……彷徨さまよってたら、ミーシャちゃんがいたんだけど……魔物に襲われてる、って勘違いしたんだ。それで魔物とミーシャちゃんの間に割って入って、庇おうとしたら、ガブリ。手当てしてもらって……その晩に、まあ、俺も悪いんだけど、押し倒されてベッドイン。翌朝……というか今朝に、ミーシャちゃんから、ごめんなさい、結婚してください、で今に至る……って感じ」


 自分で話していても、展開が早すぎると感じた。昨日の夜から今までで、この24時間ちょっとで、1年分くらいのイベントをこなしたような気がする。


「……んん?今、押し倒された、って言った?」


 イネッサはこめかみを抑えて、半目でウーノに問いかけた。


「まあ……助けてくれたお礼とか、色々含めて親し気に接していたら、ミーシャちゃんに押し倒されたんだ。最初はそんなつもりじゃなかったんだけど、なんか『嘘つき!』って言われて怖い顔してさ、魔法を使われそうになったから、流れでこう、合体!って感じで……」


「……え!?アイツに私を責める資格なくない!?魔法で脅してない分アタシの方が健全じゃないかい?しかも一日違い!?」


 イネッサは再び立ち上がって叫んだ。


「いや、まあ、ミーシャちゃんも、だから水に流す、って言ったんじゃないか?自分も似たようなことしてたから……」


 興奮収まらないイネッサは、その場でぐるぐると歩き始めた。

 ウーノはどうしたらいいか分からず、とりあえず水を飲んだ。


「に、二度目は……許しませんから、ね……?」


 そうしていると、膝をガクガク笑させたミーシャがラウンジに入ってきた。まだ行為の後の余韻が残っているらしい。

 イネッサの叫びで目が覚めたのか、横にウーノがいないことに気が付いて探しに来たようだ。


 そんな情けないコンディションながら、髪をユラユラさせて臨戦態勢のミーシャを発見したイネッサは、興奮気味に彼女に飛びついた。


「ちょうどよかった……ってクッサ!雌と汗の臭いでクッサ!」


「え、ちょ、ちょっと、何を……」


 想定外の反応にミーシャは目を白黒させた。


「ウーノ!アンタの亭主、アタシが借りてくから!オラ、風呂場行くよ!裸にひん剥いて、色々聞いてやるからねぇ!」


「え?え?」


 イネッサはミーシャを引きずって、廊下へ消えていった。


「ていうか、アンタ、イクのマジで速すぎじゃないかい?雑魚過ぎない?あんなんじゃウーノが満足しないでしょ」


「ちょ、見てたんですか?私は別に弱く……」


 廊下の角を曲がったところで、二人の言い争う声は聞こえなくなった。


「あ、俺も風呂……まあ、明日の朝でいいか……先に寝てよ……」


 ウーノは考えるのを止めて、部屋に戻った。

 ベッドの上は昨晩の自宅のベット同様にひどい有様だったので、掛け布団を敷いて寝ることにした。

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