第51話 絶望と逮捕
蓮の告白と、スクリーンに映し出された決定的な証拠の数々は、会議室を完全に凍り付かせた。連城グループの幹部たちは、これまで健太郎が築き上げてきた巨大な悪行の連鎖と、彼らがその闇の一部であったという事実に、恐怖と絶望に震え上がった。彼らが信じていた連城グループという絶対的な権威が、今、音を立てて崩れ去っていく。
沙織は、蓮の完璧な計画と、全ての真実が暴かれた現実に、その場に崩れ落ちた。彼女の顔は、もはや蒼白というよりも、死人のように血の気が失われ、瞳には、憎悪と、そして底知れぬ敗北の念だけが宿っていた。彼女は、健太郎を出し抜き、連城グループの頂点に立つという、長年の野望を打ち砕かれたのだ。彼女は、蓮を信じられないといった表情で睨みつけた。
「嘘よ……嘘だ! 蓮さん、あなたは……私を裏切ったのね……!」
沙織の声は、ほとんど絶叫に近かった。彼女は、蓮こそが、健太郎の死後、自分を支え、共に連城グループを掌握するパートナーだと信じていたのだろう。しかし、蓮の言葉は、その最後の信頼すらも、打ち砕いた。
その時、健太郎が連行されていくはずだった警官たちと共に、再び会議室のドアが開いた。そこに現れたのは、手錠をかけられた健太郎だった。彼の顔もまた、蓮の告白を聞き、スクリーンに映し出された雅美の死の映像を見たことで、絶望と怒りに歪んでいた。彼の瞳は、蓮と沙織、そして私を、深く、深く、憎悪に満ちた視線で睨みつけた。
「蓮……この裏切り者め! 貴様だけは……絶対に許さん!」
健太郎の怒声が、会議室に響き渡る。彼は、蓮の母親を殺したこと、沙織の母親を殺したこと、そして違法な「星核」技術の研究を進めていたこと、その全てを暴かれ、自らが奈落の底へと突き落とされた現実に、激しい憎悪を露わにした。
しかし、蓮は、健太郎の怒号にも動じることなく、冷徹な視線で彼を見つめ返した。
「父さん。あなたが犯した罪は、あまりにも重すぎる。私の母と、林美咲氏の母、二人の命を奪い、『星核』技術を悪用しようとした罪。そして、連城グループを私物化し、多くの人々を不幸にした罪。その全てに、今、償ってもらう時が来たのです」
蓮の言葉は、健太郎の心を深く抉った。彼の顔から、最後の血の気が失われていく。彼は、蓮の完璧な計画と、逃れられない証拠の前に、完全に打ち砕かれていた。
経済犯罪捜査隊の警官たちが、沙織と健太郎に近づいていく。沙織は、最後の抵抗とばかりに、蓮に掴みかかろうとしたが、警官に阻まれた。彼女の瞳には、蓮への激しい憎悪が燃え盛っていた。
「蓮さん……あなたも、私と同じ……」
沙織の声は、かすれて、ほとんど聞き取れなかった。彼女は、蓮もまた、自分と同じように、誰かを騙し、利用することで復讐を遂げたのだと、そう言いたかったのかもしれない。
しかし、蓮は、沙織の言葉に、何も答えることはなかった。彼の視線は、遠く、窓の外の空に向けられていた。その瞳の奥には、復讐を成し遂げた後の虚無感と、しかし、ようやく訪れた静寂のような光が宿っていた。
経済犯罪捜査隊により、健太郎と沙織は逮捕され、連行されていった。彼らが会議室のドアを通り過ぎる時、健太郎は蓮に向かって、最後の憎悪のこもった視線を向けた。しかし、蓮は、もうその視線に応えることはなかった。彼の復讐は、今、ここに完結したのだ。
会議室には、重苦しい沈黙が広がる。幹部たちは、その場で呆然と立ち尽くしていた。連城グループという絶対的な権威が、今、目の前で、音を立てて崩れ去ったのだ。
蓮は、ゆっくりと私の方へ歩み寄った。彼の顔には、復讐を成し遂げた後の安堵と、しかし、私に対する深い罪悪感が混じり合っていた。
「美咲……本当に、すまなかった」
彼の声は、震えていた。私の心は、彼への憎悪と、そして、この壮絶な戦いを一人で背負ってきた彼への、深い憐憫に満たされた。




