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親友が密かに署名した婚前契約書  作者: 朧月 華


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第49話 蓮の登場と大逆転


沙織の総帥就任演説が佳境に入り、会場の空気は、賛同と疑念が交錯する、奇妙な熱気に包まれていた。彼女は、自身のリーダーシップと、「星核」技術という未来の切り札を武器に、連城グループの幹部たちを説得しようとしていた。私の隣に座る森本先生は、じっと沙織の言葉に耳を傾けながら、私の顔をちらりと見た。彼の目にも、蓮の登場を予期するような、緊張感が宿っていた。


「……以上をもちまして、連城グループは、私、蘇沙織のリーダーシップの下、新たな時代へと踏み出します。皆様の、ご賛同を賜りたい」


沙織がそう言って、深く頭を下げた瞬間だった。


会議室の重厚なドアが、音もなく、しかしゆっくりと開かれた。


そこに立っていたのは、連城蓮だった。


彼の登場に、会場の誰もが息を呑んだ。蓮は、いつものだらしない放蕩息子のような格好ではなく、完璧に着こなされたダークスーツに身を包んでいた。その顔には、以前私が見たあの深い孤独や、冷徹な仮面の影はなかった。代わりに宿るのは、研ぎ澄まされた知性と、全てを支配する威厳に満ちた光だった。彼の瞳は、会場の全ての人間を、一瞬にして見通すかのように鋭く輝いていた。その姿は、まるで、長きにわたる闇の中から、ようやくその真の姿を現した、真の「執棋者」そのものだった。


沙織は、蓮の姿を見るなり、顔色を蒼白にした。彼女の瞳には、驚き、困惑、そして深い恐怖が混じり合っていた。彼女は、蓮がこの場に現れることを、全く予想していなかったのだ。蓮は、沙織を一瞥すると、その冷たい視線を彼女の横に控える連城グループの主席弁護士に向けた。弁護士は、蓮の視線に、まるで体が硬直したかのように、震え上がった。


蓮は、ゆっくりと、しかし確かな足取りで、会議室の中央へと歩みを進めた。彼の後方には、見慣れない制服を着た数名の男たちが続いていた。彼らは、昨日、健太郎を逮捕した経済犯罪捜査隊のメンバーだった。彼らの存在が、この場の空気を、さらに張り詰めたものに変えていく。


「皆様、連城グループの皆様。そして、蘇沙織氏」


蓮の声は、静かだったが、その一言一言は、会議室の隅々にまで響き渡り、人々の心を揺さぶった。彼の声には、以前のどこか弱々しい響きはなく、絶対的な権力と、揺るぎない確信が宿っていた。


「健太郎の逮捕によって、連城グループが混迷を極めていることは、私も承知しております。しかし、本日、ここで行われている『総帥交代』の儀式は、あまりにも拙速であり、そして何よりも、連城グループの腐敗を隠蔽するための、新たな欺瞞に過ぎません」


蓮の言葉に、会場の幹部たちはざわめいた。沙織は、怒りと、そして強い焦りから、立ち上がった。


「蓮さん! あなた、何を言っているの!? 健太郎さんの悪行を暴き、連城グループを立て直そうとしているのは、この私よ!」


沙織は、そう言って、蓮を睨みつけた。しかし、蓮は彼女の言葉を意に介さなかった。彼の視線は、真っ直ぐに沙織を捉えていた。


「蘇沙織氏。あなたが健太郎の悪行を暴いたのは事実でしょう。しかし、あなた自身もまた、健太郎と共に、この連城グループの闇を深くしてきた共犯者であり、そして、私と林美咲を欺き、母親たちの命を奪った張本人の一人だ」


蓮の言葉が、沙織の顔色を完全に蒼白に染め上げた。彼女の瞳は、信じられないものを見たかのように見開かれていた。蓮は、彼女が健太郎を出し抜いた「真の執棋者」であると信じていたのだろう。しかし、蓮の言葉は、その沙織の完璧な計算を、根底から覆すものだった。


「私の演説は、まだ始まったばかりだ。真の連城グループの闇と、この盤面を支配してきた者たちの真の顔を、今、ここで全て明らかにしよう」


蓮の声は、冷徹に響いた。彼が、長年隠し続けてきた真の姿が、今、この場で、遂に露わになろうとしていた。私の心は、この壮大な復讐劇のクライマックスを、息を呑んで見守っていた。


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