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親友が密かに署名した婚前契約書  作者: 朧月 華


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第46話 蓮からの隠されたメッセージ

母と雅美の秘密の手紙を読み終えた後、私の脳裏には、蓮の母親の遺したメッセージが鮮明に蘇っていた。「いつか、この星核の真実を、あなた自身の目で確かめ、ママたちの無念を晴らしてちょうだい。それが、あなたの、そしてママの、最後の使命よ」。蓮は、この母の言葉を胸に、長年、健太郎への復讐計画を進めてきたのだ。


私は、震える手で、佐々木が残したUSBメモリをパソコンに差し込んだ。蓮の部屋の特定の場所の監視カメラ映像。蓮は、この映像に、母と雅美の手紙を解読するヒント、あるいは、彼自身の計画の「最後のピース」を隠しているに違いない。


画面に映し出されたのは、蓮の書斎の映像だった。彼は、いつものようにスーツ姿で、デスクに向かっている。しかし、その瞳には、私が知る「放蕩息子」の軽薄な輝きはなく、深い孤独と、研ぎ澄まされた思考が宿っていた。彼は、デスクの上に広げられた古い地図を凝視していた。それは、連城グループの所有する、世界各地の施設を示す地図だった。


映像は、蓮が時折、その地図のある特定の場所に、細いペンで印をつけている様子を捉えていた。それは、連城グループの所有する、小さな、無関係に見える研究施設や、僻地の倉庫など、誰も注意を払わないような場所ばかりだった。しかし、蓮が印をつけるたびに、その指先は微かに震え、彼の表情には、深い苦痛と、そして確固たる決意が浮かび上がっていた。


私は、その地図の映像を一時停止させ、母と雅美の手紙と日記を改めて読み返した。二人の母親は、健太郎が「星核」技術を兵器転用しようとしていたことを詳細に記していた。その記述の中に、ある特定の場所を示す、暗号のような言葉が繰り返し現れることに気づいた。それは、母の初期の研究ノートにも見られた、抽象的な図形の名称だった。


蓮が地図に印をつけた場所と、母の手紙に記された暗号。それらが、私の頭の中で、まるでジグソーパズルのように完璧に組み合わさった。蓮が印をつけた場所は、健太郎が「星核」技術の違法な研究や、その兵器の製造を行っていた秘密基地の場所だったのだ。


映像のさらに奥、蓮が机の引き出しから、古い腕時計を取り出すシーンがあった。それは、私が蓮と出会う前、彼がいつも身につけていた、シンプルな銀色の腕時計だった。蓮は、その腕時計の裏蓋を、細いピンで開けた。その中に、小さなマイクロチップが隠されていたのだ。蓮は、そのマイクロチップを、慎重に自分のスーツの内ポケットにしまった。


(あれは……健太郎の犯罪の、決定的な証拠……!)


私の心臓は、激しく高鳴った。あのマイクロチップこそが、健太郎の全ての悪行を記録した、最後のピースなのだ。蓮は、長年かけて、その証拠を集めていた。そして、健太郎が最も油断する瞬間を待ち、このマイクロチップを公にすることで、全てを終わらせるつもりだったのだ。


雅美の手紙に書かれていた「いつか、この星核の真実を、あなた自身の目で確かめ、ママたちの無念を晴らしてちょうだい」という言葉。蓮は、その母の遺志を継ぎ、そのための周到な計画を、誰にも気づかれることなく、一人で遂行していたのだ。彼の「無能な放蕩息子」という演技は、完璧だった。私を欺き、不倫まで演じた彼の行動の全てが、この巨大な復讐計画の一部だったのだ。


私の瞳から、涙が溢れ出した。それは、彼への深い憐憫と、そして、この想像を絶する孤独な戦いを続けてきた彼への、深い敬意だった。彼が私を欺いたことへの憎しみは、今、理解と共感へと変わっていった。蓮は、私の知るよりも遥かに深く、そして壮絶な、復讐の炎を心に宿していたのだ。


私は、もう、蓮を疑うことはない。彼の真の顔は、この盤面を支配する、真の「執棋者」の顔だった。そして、彼は、この最後のピースを、今、私に託そうとしている。私は、彼の真の意図を理解した。この戦いに、私もまた、彼と共に身を投じるのだ。


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