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親友が密かに署名した婚前契約書  作者: 朧月 華


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第44話 外部捜査の本格化

蓮の不在が続く中、連城グループの内部は、沙織の急進的な権力掌握と、健太郎派の幹部たちの抵抗によって、混沌を深めていた。しかし、その混沌の影で、私が感じ取っていたのは、連城家という枠を超えた、もっと巨大で、不気味な動きだった。森本先生からの報告は、その私の直感を裏付けるものだった。


「林さん、経済犯罪捜査隊が連城グループに対して、本格的な捜査を開始しました。健太郎氏の逮捕は、あくまで氷山の一角に過ぎなかったようです」


森本先生の言葉は、私の胸に重く響いた。健太郎の逮捕は、あくまで連城家内部の問題として処理されるかと思っていたが、状況は私が想像していたよりも遥かに深刻だったのだ。


「捜査の対象は、健太郎氏個人の不正だけでなく、連城グループ全体の組織的な違法行為にまで及んでいます。特に、『星核スターコア』技術の違法な研究開発、資金洗浄、海外の反社会的勢力との繋がりまで、広範囲にわたっているようです」


森本先生の声は、かつてないほど厳しかった。私の心臓は、激しく高鳴る。星核技術。母が命懸けで守ろうとしたその危険な技術が、健城の逮捕に留まらず、連城グループ全体を巻き込むような、巨大な闇を秘めていたとは。


「捜査は、非常に秘密裏に進められていました。健太郎氏が逮捕されたのは、あくまでその一部を公にしたに過ぎません。彼らの真の狙いは、連城グループを根本から解体し、健太郎氏が築き上げた、闇のネットワークを全て白日の下に晒すことにあるようです」


森本先生の言葉は、この争いが、もはや連城家という一族の因縁話に留まらないことを示していた。国家レベルの機関が介入し、連城グループの持つ、想像を絶するような闇を暴こうとしている。それは、私や沙織の復讐の枠をはるかに超えた、巨大な「粛清」の始まりだった。


沙織は、この外部からの介入に、明らかに焦燥を募らせていた。彼女は、連城グループの権力を掌握することで、自らの野望と復讐を完遂しようとしていた。しかし、経済犯罪捜査隊の本格的な動きは、彼女の計画をも脅かしかねない。彼女の「同盟」への誘いも、その焦りから来るものだったのだろう。


そんな中、森本先生から、思いがけない人物からの連絡があったと告げられた。

「林さん、連城グループの、とある幹部から、あなたに会いたいという連絡がありました。彼は健太郎氏のやり方に反発しており、あなたに協力したいと申し出ています」


私は、その言葉に、わずかな警戒を覚えた。連城グループの幹部。彼もまた、連城家の闇に深く関わっていた人間なのではないか。しかし、森本先生は彼のことを「連城グループの中では良識派とされており、以前から健太郎氏の強引な経営手法に疑問を呈していた人物」だと説明した。


私は、その幹部との面会を承諾した。彼の名は、佐々木。彼は、隠された場所で私と森本先生に会うと、憔悴しきった顔で、健太郎が連城グループ内部で行ってきた数々の不正、特に「星核」技術を巡る資金の流れや、海外の怪しげな組織との繋がりに関する、具体的な情報を提供してくれた。彼の話は、健太郎がどれほど深く、広範囲にわたる悪事を働いていたかを物語っていた。


佐々木は、震える声で言った。

「林美咲様、連城グループは、もはや健太郎氏だけの私物ではありません。このままでは、私たち社員も、この巨大な闇に飲み込まれてしまいます。どうか、あなたの力で、このグループを、そして『星核』技術の悪用を止めていただきたい」


彼の言葉は、私に新たな使命感を抱かせた。この戦いは、もはや私個人の復讐のためだけではない。母の遺志を継ぎ、危険な技術が悪用されるのを阻止し、連城グループの罪なき人々を守るためでもあるのだ。


佐々木が去った後、森本先生は、私に一つの小さなUSBメモリを手渡した。

「佐々木さんが、あなたに渡すようにと。これは、連城グループの内部に張り巡らされた、一部の監視カメラの映像データだそうです。蓮さんの部屋の、特定の場所の映像も含まれているとか」


私は、そのUSBメモリを握りしめた。蓮の部屋の映像。もしかしたら、その中に、彼が姿を消した真の理由、そして、この盤面を支配する真の「執棋者」の手がかりが隠されているのかもしれない。


私の直感は、この混沌とした状況の中で、蓮の不在こそが、最も重要な意味を持つと強く囁いていた。全てのピースが、今、一つに繋がり始めようとしていた。


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