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親友が密かに署名した婚前契約書  作者: 朧月 華


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第41話 蓮の母の死を追う


蓮の不在と、沙織の急進的な動きが連城グループの混沌を深めていく中、私の心は、まるで磁石に引き寄せられるように、蓮の母親、連城雅美の死へと向かっていた。沙織の告白によれば、雅美もまた、健太郎の「星核スターコア」技術の悪用を阻止しようとして、母・芳美と共に殺されたという。しかし、その死の詳細は、沙織の言葉だけでは曖昧なままだった。


私は、雅美の死に関する情報を、森本先生に依頼する傍ら、自分でも密かに収集し始めた。蓮の母親という、連城グループの元夫人に関する情報収集は困難を極めたが、私は母・芳美の遺した手がかりを頼りに、その影を追った。


古い新聞記事や雑誌の切り抜き、連城家に関するゴシップ記事、そして、連城グループの公式記録。それらを丹念に読み解いていく中で、雅美の死が、報道では「不慮の事故」として処理されていることが分かった。都心から離れた別荘地での自動車事故。運転していた雅美が、カーブを曲がりきれずに崖から転落した、というものだった。


しかし、その事故に関する記述には、いくつかの不自然な点があった。

当時、雅美が運転していた車は、連城グループの最新鋭の安全性能を誇る車種であり、そう簡単に制御不能に陥るとは考えにくい。また、事故現場は、地元住民によれば「比較的安全な道」として知られていた。そして何よりも、雅美の死後、連城グループがその事故現場の土地を買い取り、一般人の立ち入りを厳しく制限しているという事実が、私の疑念を決定的なものにした。


(なぜ、事故現場の土地を買い取ったのだろう? 何か、隠さなければならないものがあったとしか思えない……)


私は、森本先生が集めてくれた情報と、私自身の調査結果を突き合わせた。森本先生は、当時の警察の捜査記録を何とか入手したが、そこにも「事故」として処理された痕跡しかなかった。しかし、彼は私に、当時の捜査を担当した元刑事が、数年前に連城グループからの圧力によって不当に解雇された、という情報を掴んできた。


「林さん、この元刑事は、雅美さんの事故に疑問を抱いていたようです。何らかの理由で捜査が打ち切られたことに、納得がいかなかった、と」


森本先生の言葉に、私の胸が高鳴った。やはり、雅美の死は「事故」ではなかった。健太郎が「星核」技術の秘密を知る雅美を排除するために、周到に計画された殺人だったのだ。そして、その真相を暴こうとした元刑事を、連城グループの権力で葬り去った。


私の脳裏に、蓮の姿が浮かんだ。彼が、母親を殺した父親の支配下で、どれほどの苦痛と憎悪を抱えて生きてきたのだろう。沙織の母親、そして私の母親。三人の女性の命が、健太郎の「星核」技術への執着によって奪われた。この連城家の闇は、私が想像していたよりも、遥かに深く、血塗られたものだった。


雅美の死を追う中で、私は蓮に対する複雑な感情を抱き始めていた。彼が私を欺き、不倫をしていたという事実は、決して許されるものではない。しかし、彼もまた、私と同じように、大切な母親を奪われた被害者なのだ。彼が抱える憎悪と悲しみは、私のそれと、きっと同じくらい深いだろう。


私の心に、一つの推測が芽生え始めた。もし、蓮が母親の復讐を誓い、そのために「無能な放蕩息子」を演じ、健太郎の目を欺いていたとしたら? 私を欺いた彼の行動にも、何か別の意味が隠されているのではないか。この盤上には、まだ誰も知らない、最大の反転が隠されている。そう、私の直感が強く囁いていた。私は、蓮の真の顔を、この目で確かめなければならない。


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