第34話 健太郎の悪行の露呈
警官たちが、呆然とする健太郎を連行していく。その間にも、沙織は一切の動揺を見せず、主賓席に座ったまま、冷徹な視線で彼らの後ろ姿を見送っていた。健太郎の目には、最後まで沙織への激しい憎悪が宿っていたが、沙織はそれを意に介さなかった。
「皆さん、ご協力ありがとうございます。この後、連城グループの内部調査にご協力いただけますか?」
沙織は、警官たちに、まるで連城グループの新たな総帥であるかのように、指示を出した。警官たちは、彼女の言葉に戸惑いながらも、その指示に従い始めた。私の頭の中は、激しく混乱していた。一体、誰が、この盤面を本当に支配しているのか。
沙織は、警官たちにいくつか指示を出し終えると、静かに私と蓮に向き直った。
「美咲、蓮さん。あなたたちは、健太郎さんがどれほど悪辣な人間か、まだ本当に理解していないでしょうね」
沙織の声は、冷ややかに響いた。彼女は、再びワイングラスを手に取り、琥珀色の液体をゆっくりと揺らした。その仕草は、以前、私を嘲笑っていた時と同じだったが、今、そこに宿るのは、勝利者の絶対的な自信と、深遠な孤独だった。
「私の母親、そして美咲さんのお母様。彼女たちの死の真実を、あなたたちは知ったわね。でも、健太郎さんの悪行は、それだけではないのよ」
沙織は、そう言って、テーブルの上に置かれていたUSBメモリを、器用に指先で弾いた。そのメモリは、カチャリと音を立てて、私の目の前に転がった。
「見てちょうだい。健太郎さんの本当の顔を」
沙織は、蓮が使うはずだった書斎の大型モニターを指差した。蓮は、沙織の言葉に、ゆっくりと顔を上げた。彼の瞳には、私と同じく、深い困惑が宿っている。
沙織は、モニターにUSBメモリを接続した。画面が切り替わり、一瞬の砂嵐の後、高画質の監視カメラ映像が映し出された。そこには、健太郎が書斎の隠し部屋で、側近と思われる男と密談している姿があった。
その会話は、あまりにも衝撃的なものだった。健太郎が、私を「事故」に見せかけて始末する計画を詳細に指示している。アークデザインを完全に手中に収め、私が邪魔になったら、沙織を替罪羊として全ての罪を被せるつもりであったと、彼は冷酷に語っていた。
「林美咲は、あの馬鹿な女の母親と同じように、事故に見せかけて始末しろ。そして、蘇沙織には、全ての責任を押し付けろ。彼女は私の隠し子だが、所詮は血縁だけの存在。利用価値がなくなれば、いつでも切り捨てる」
健太郎の声が、モニターから冷酷に響き渡る。その言葉を聞きながら、私の全身に悪寒が走った。美咲は、自分がどれほど深い闇に葬られようとしていたかを知り、戦慄した。沙織もまた、健太郎の言葉を聞くたびに、顔を歪ませ、唇を強く噛み締めていた。彼女は、健太郎が自分を「駒」として扱い、最終的には「切り捨てる」つもりだったという、その真実を、今、この映像でまざまざと見せつけられていたのだ。
「あなたのお母様を殺した計画も、健太郎さんが指示したものよ。そして、私の母親の死も……」
沙織は、そう言って、さらに別の音声ファイルを再生した。それは、健太郎が、沙織の母親の「事故」を装った死を指示している録音だった。健太郎の冷酷な指示、そして、それを実行する男たちの声。
「あの女も、星核の秘密を知りすぎた。邪魔になる。事故に見せかけて処理しろ」
その録音は、数分に及んだ。健太郎の憎しみが込められた指示、そして実行者への報酬の約束。私の耳には、それが悪魔の囁きのように響いた。沙織は、録音が終わると、モニターの電源を切った。その顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていたが、瞳には、悲しみと憎悪が入り混じった、激しい炎が燃え盛っていた。
「私の復讐の動機は、美咲さんの母親の死だけじゃない。私の母親の死も、健太郎さんが原因だったのよ。私は、この日のために、長年、彼の駒を演じ続けてきた。彼を失脚させ、連城グループの全てを、私の手で掌握するために!」
沙織の声には、深すぎる悲しみと、そして絶対的な復讐への執念が混じり合っていた。健太郎は、彼女の母親までも殺していたのだ。この憎悪の連鎖は、一体どこまで続くのだろうか。
蓮は、全ての証拠と沙織の告白を聞き終えると、再び顔を覆った。彼の肩は、激しく震えていた。その震えは、怒りからか、悲しみからか、私には判別できなかった。しかし、彼の心の奥底に、さらに深い闇が広がっていくのを感じた。




