第28話 沙織の二重の復讐
沙織の告白は、私の心に深く重く響いた。母と、蓮の母が、健太郎によって殺されたという事実。その憎しみと悲しみが、私の心を激しく揺さぶった。しかし、沙織の言葉には、まだ何か隠されているように感じられた。彼女の動機は、本当に母親の復讐だけなのだろうか。
「沙織……あなたも、健太郎に協力したと言ったわね。母を殺すことにも、関わったと」
私の問いに、沙織は目を伏せた。その表情には、僅かな罪悪感と、そして拭いきれない野心が混じり合っていた。
「ええ……私は、健太郎さんの計画に加担したわ。彼に指示されるまま、美咲、あなたを連城家に引き入れる手助けをした。アークデザインを奪うことにも、協力したわ」
沙織は、自らの罪を淡々と認めた。その声には、冷たさが滲んでいた。
「でも、それは全て、私自身の母親の復讐のためでもあったのよ! 私の母は、健太郎さんの初恋相手だったけれど、結局は捨てられ、私という隠し子を産んで、貧しい生活を強いられた。そして、最後に健太郎さんの手で殺された。私は、彼への深い恨みを、ずっと抱き続けていたわ」
沙織の瞳には、母への深い愛情と、健太郎への激しい憎悪が宿っていた。彼女の復讐は、私に対する裏切りという形で、実行されていたのだ。
「私は、健太郎さんの駒として動くフリをしながら、裏では彼の犯罪の証拠を集めていたのよ。彼が、どのようにしてアークデザインを奪おうとしているか、どのような違法な手段を講じているか、全て記録していたわ。いつか、彼を失脚させ、連城グループの全てを、私が手に入れるために」
沙織は、そう告白すると、私の顔を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、私への申し訳なさや、後悔のようなものはなく、ただ、自身の野望と、健太郎への復讐心だけが、燃え盛っていた。
「私の目的は、あなたと健太郎さん、そして蓮さん……皆を出し抜き、連城グループの頂点に立つこと。そして、私の母親の無念を晴らすことよ。あなたを騙したのは、そのためだった。連城家に入るための、そして健太郎を倒すための、唯一の道だったの」
沙織の言葉は、私の心を再び大きく揺さぶった。彼女は、私を裏切った悪女であると同時に、健太郎という巨大な悪意に立ち向かおうとしていた、もう一人の復讐者でもあったのだ。しかし、その復讐の動機には、純粋な憎悪だけでなく、連城グループの権力を手に入れようとする、彼女自身の強大な野心が、深く絡み合っていた。
私の脳裏に、あの古びた写真が蘇る。若き日の健太郎と、沙織の母、そして幼い沙織。あの写真に隠された、あまりにも深すぎる悲劇と、憎悪の連鎖。そして、その血の宿命が、今、私と蓮、そして沙織を、この連城家の闇へと深く引きずり込んでいた。
沙織は、私の母を殺した共犯者であり、私を騙した裏切り者だ。しかし、彼女もまた、健太郎という悪魔によって人生を狂わされた被害者でもあった。この複雑な真実に、私の心は混乱した。
目の前には、泣き崩れる蓮の姿。そして、私を憎悪と、しかしどこか理解を求めるような瞳で見つめる沙織。
この巨大な陰謀の盤面で、誰が本当に「駒」で、誰が「執棋者」なのか。




