第27話 美咲の母・芳美の死の真相
「美咲さんのお母様、芳美さんは、かつて健太郎さんが初期に行っていた『違法技術実験』の、主要な助手の一人だったわ」
沙織の言葉は、私の頭の中に、さらなる衝撃を走らせた。母が、健太郎の違法な実験に関わっていた? 私の知る、倫理的で、人々の幸福を願う母とは、あまりにもかけ離れた事実だった。
「私の母も、芳美さんと共に、その研究チームに所属していたわ。健太郎さんは、まだ若く、連城グループの末端にいた頃、この『星核』技術の潜在能力にいち早く気づき、非合法な方法で研究を進めていたの。あの頃は、まだ『未来のエネルギー』という曖昧な表現で、投資家から資金を募っていたけれど、彼の真の目的は、常にその兵器転用だったわ」
沙織の声には、当時の苦悩と、健太郎への深い憎しみが滲んでいた。蓮は、顔を覆い、沙織の言葉に、苦痛に歪んだ表情を見せている。
「芳美さんと私の母は、当初は健太郎さんの夢に共鳴していた。世界を救う、革新的なエネルギー技術だと信じていたわ。でも、やがて健太郎さんの真の目的が、純粋な研究ではなく、連城グループの覇権を確立するための兵器開発にあると知るのよ」
沙織は、震える声で続けた。
「二人の母親は、倫理的な葛藤に苦しんだわ。そして、この危険な技術が悪用されることを阻止するため、健太郎さんの研究チームを抜け出し、技術の安全な封印を訴えようとした。それが、あの『事故』の真実よ」
私の全身に、冷たい震えが走った。母の死が「事故」ではなかったことは、沙織から聞かされていた。しかし、その背後には、健太郎の兵器開発計画と、母の命を懸けた抵抗があったとは。
「健太郎さんは、二人の母親が離反し、自分たちの計画を公にしようとしていることを知った。彼は、何よりも『星核』技術の秘密が漏れること、そして彼の兵器開発計画が明るみに出ることを恐れたわ。だから……」
沙織は、そこで言葉を切ると、私と蓮を交互に見た。その瞳には、深い悲しみと、そして残酷な現実が映し出されていた。
「……だから、健太郎さんは、二人の母親を、事故に見せかけて殺したのよ。私の母も、芳美さんも、彼にとって、邪魔な存在でしかなかった。それが、林芳美さんの死の、本当の真相よ」
沙織の言葉は、私の脳裏に、母の最期の言葉を鮮明に蘇らせた。「美咲……沙織を……信じるな……」。あの時、母は、この恐ろしい真実を私に伝えようとしていたのだ。自分を裏切った沙織のことも含めて。
私の瞳から、怒りと悲しみが混じり合った涙が、止めどなく溢れ出した。母は、私を守るために、そして「星核」技術が悪用されることを阻止するために、命を懸けて戦ったのだ。そして、その命を奪ったのが、健太郎であり、沙織もまた、その共犯者だった。
蓮は、沙織の言葉を聞き終えると、その場に崩れ落ちた。彼の顔は、絶望と、深い苦痛に歪んでいた。彼の母親もまた、健太郎の手によって殺された。その事実は、蓮の心の奥底に、どれほどの深い傷と、憎悪の炎を燃やし続けてきたのだろう。
私の目の前で、連城家の血縁に隠された、あまりにも深い闇が、今、完全に露わになった。




