第23話 連城グループの闇
ドアを叩く音と、外からの声が、部屋の中にまで響き渡った。しかし、沙織はもはや、警察の存在を気にする様子もなく、ただ健太郎への憎悪と、自分を理解してほしいという切実な思いを込めて、私に語り続けていた。蓮は、沙織の衝撃的な告白に、呆然と立ち尽くしたままだった。
「連城グループというものは、私たちが想像する以上に、深い闇を抱えているわ」
沙織は、まるで遠い記憶を辿るかのように、静かに話し始めた。
「健太郎さんが連城グループの総帥になるまでの道のりは、まさに血塗られたものだった。彼は、自分の野望のためなら、どんな手段も選ばない。邪魔になる人間は、容赦なく排除してきたわ。裏で、どれだけの人間が泣き、どれだけの会社が潰されてきたか……」
沙織の言葉は、私の知る連城グループの華やかな表向きとは全く異なる、恐ろしい側面を語っていた。健太郎が、表向きは慈善事業にも熱心な人格者として振る舞っていたことを知っていただけに、そのギャップに私の心は深くざわめいた。
「彼にとって、家族の情も、忠誠心も、全ては道具に過ぎない。蓮さんも、例外ではなかったわ」
沙織は、そう言って、呆然と立ち尽くす蓮に視線を向けた。蓮は、沙織の言葉に、まるで何かを思い出すかのように、微かに体を震わせた。彼の瞳の奥に、深い悲しみと、そして私には理解できない、暗い感情が揺らめいているように見えた。
「蓮さんは、健太郎さんにとって、唯一の『嫡男』だった。だからこそ、期待も大きかったけれど、同時に、彼の完全な支配下に置かれていたわ。健太郎さんは、蓮さんが少しでも自分の意に背くようなことがあれば、徹底的に叩き潰した。彼が『放蕩息子』として世間に知られるようになったのも、ある意味、健太郎さんによって仕組まれたものだったのよ」
沙織の言葉に、私の頭の中で、蓮の行動が新たな意味を持ち始めた。彼が私に見せていたあの深い孤独、そして時折垣間見せた、私には理解できない暗い光。それが、健太郎の支配下に置かれ、自分の人生を自由に生きられなかった蓮の、真の姿だったというのか。
(蓮さんも……健太郎に利用されていた……?)
私の心に、新たな疑念が芽生える。蓮が私を裏切ったことは、紛れもない事実だ。しかし、彼自身もまた、健太郎という巨大な存在に翻弄され、利用されてきた被害者である可能性が、私の心に僅かな動揺を与えた。彼は本当に、私を心から愛していなかったのだろうか? それとも、私への愛情すらも、健太郎の計画の中で利用されていたのだろうか?
ドアを叩く音が、さらに激しくなった。外からの声が、明確に聞こえ始める。
「開けてください! 警察です!」
沙織は、その声にハッと我に返った。彼女の顔には、再び恐怖の色が戻る。しかし、彼女の口からは、まだ健太郎の冷酷な支配についての言葉が止まらなかった。まるで、全てを吐き出さなければ、自分の心が壊れてしまうとでも言うかのように。
「健太郎さんはね、連城グループの資産を守るためなら、どんな犯罪行為も躊躇しないわ。裏帳簿、脱税、インサイダー取引……そして、邪魔な人間を消すことさえも……」
沙織の言葉は、連城グループという巨大な組織の、想像を絶する闇を暴き出していく。その話を聞きながら、私の心は、この巨大な陰謀の深さに、戦慄を覚えていた。




