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親友が密かに署名した婚前契約書  作者: 朧月 華


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第17話 新たな美咲の誕生と挑発

森本先生の事務所を出た時、私の心は、澄み切った冬の空のように、一点の曇りもなかった。あの深い絶望の淵で、私は確かに一度死んだ。しかし、母の遺した知恵と、あの冷徹な条項が、私を蘇らせたのだ。もはや、私はかつての無垢な令嬢ではない。復讐の炎を宿し、研ぎ澄まされた知性で戦うことを選んだ、林美咲だった。


まず、私は自分の外見から変えることにした。蓮との結婚生活で身につけていた華やかなドレスや、優しげな色合いの服は全てクローゼットの奥へとしまい込んだ。代わりに選んだのは、黒、ネイビー、チャコールグレーといった、シンプルで力強い色彩の、仕立ての良いスーツやワンピースだった。髪は長く艶やかだったが、今はきっちりと一つにまとめ、余計な飾りは一切つけない。鏡に映る自分の顔は、以前より痩せ細り、目の下には消えないクマが刻まれていたけれど、その瞳には、もはや憐憫や悲しみではなく、冷徹な意志の光が宿っていた。まるで、別の人間になったかのようだった。これは、もはや過去の私との決別であり、沙織と蓮への宣戦布告の象徴だった。


森本先生と共に、私たちは反撃の戦略を練り上げた。

「相手は、あなたが何も知らない無力な女だと思っています。その油断こそが、最大の武器になります」

森本先生は、私の変貌ぶりに感嘆しながらも、冷静に助言をくれた。

「感情的になるのは禁物です。論理と法、そして相手の心理を巧みに利用し、追い詰めていく。それが、連城グループのような巨大な敵と戦う唯一の道です。そして、何よりも、彼らのプライドを徹底的に打ち砕くことを意識してください」

私は、森本先生の言葉を一つ一つ、心に刻み込んだ。私の頭の中では、チェス盤が鮮明に広がり、沙織と蓮、そして健太郎の駒が並べられていた。私は、もう誰かの駒ではない。この盤上の「執棋者」となるのだ。


私たちは、沙織がアークデザインの株式を譲渡された際の契約書、そして彼女がそれを連城グループに売却した際の記録を精査した。森本先生は、健太郎が連城グループの総帥として、その売却に深く関与している証拠を見つけ出した。また、蓮がその売却益を起業資金としたことも、銀行の取引記録から裏付けが取れた。全てのパズルが、ゆっくりと、しかし確実に繋がっていく。


そして、蓮の不倫の証拠。ホテルで撮り続けた写真の数々は、どれも決定的だった。日付と時間、ホテルのロゴ、そして蓮と葉子の親密な姿。それらは、蓮が私を欺き、結婚生活を破綻させた紛れもない証拠だった。私は、それらの証拠を、感情を一切交えず、淡々と整理していった。それは、まるで他人の人生を分析しているかのような、冷徹な作業だった。


私は、自らの復讐の炎を、冷静な知性で燃え上がらせる訓練を重ねた。どんな時も、感情に流されず、相手の出方を予測し、次に打つべき手を考える。私の心の奥底には、母への深い愛情と、裏切られた痛みがあったけれど、それを表面に出すことは決してなかった。


「準備は整いました。美咲さん。いつでも、彼らにとっての『地獄の門』を開くことができます」


森本先生の言葉に、私は静かに頷いた。私の心には、一切の迷いも恐怖もなかった。ただ、研ぎ澄まされた刃のような決意だけが、静かに光を放っていた。私は、もう泣かない。この戦いに、私の全てを賭ける。


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