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親友が密かに署名した婚前契約書  作者: 朧月 華


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第16話 復讐の炎、最初の標的

森本先生との打ち合わせを終えた私は、もはや迷いも躊躇もなかった。私の心には、母の魂が宿る「アークデザイン」を取り戻し、裏切り者たちに裁きを下すという、明確な目的だけが存在していた。私は、あの冷酷な二人に、この私の変貌ぶりをまざまざと見せつけ、彼らが私を無力な女と見下したことを、後悔させてやるのだ。


森本先生は、私の迅速な行動力に驚きながらも、私の指示通りに沙織と蓮を「呼び出す」ための書面を作成してくれた。それは、弁護士からの正式な呼び出し状であり、蓮の不倫の事実と、沙織によるアークデザインの不正な株式譲渡に関する疑惑、そして「家族信託基金」の存在を示唆する内容が、簡潔に記されていた。


「林さん、この書面には、詳細な法的根拠はまだ記していません。あくまで『呼び出し』を目的とした、挑発的な内容に留めています」


森本先生は、私の意図を正確に理解していた。彼らに、私の手札の全てを最初から見せる必要はない。彼らの傲慢さを刺激し、自らが優位に立っていると誤解させることが、この最初の反撃における重要な戦略だった。


「これで、彼らは動揺するでしょう。特に蘇沙織さんは、あなたのお母様の資産管理のずさんさにつけ込んだはずですから、まさかこのような基金が存在していたとは、夢にも思っていないはずです」


森本先生の言葉に、私の心は高揚した。私は、この書面を、蓮のオフィスと、沙織のマンションに、それぞれ速達で送るように指示した。彼らがこの書面を目にした時の、傲慢な表情が歪む瞬間を想像すると、私の心の奥底に、静かな愉悦が広がった。


そして、書面とは別に、私は沙織のスマートフォンに、一枚の写真を送った。それは、蓮と葉子の不倫の決定的瞬間を捉えた写真ではない。私が撮った写真の中から、葉子が蓮の首筋に甘えるように顔を埋めている、ごく一部を切り取ったものだ。その写真には、何のメッセージも添えなかった。ただ、それ一枚だけ。


(沙織、あなた、きっと動揺するわね……)


沙織は、私が蓮の不倫を知っていることに気づき、焦るだろう。そして、それがなぜ、自分に送られてきたのか、混乱するだろう。その混乱と焦りが、彼女の計算を狂わせ、私の盤面に引きずり込むための、最初の仕掛けとなる。


蓮に対しては、何も送らなかった。彼には、沙織からの動揺と、健太郎からの介入という、二重のプレッシャーを与えることが、今の私の狙いだった。


私の心は、嵐の前の静けさのように、研ぎ澄まされていた。復讐の炎は、私の全身を巡り、私を冷徹な狩人へと変えていた。私は、もう、ただ泣き崩れるだけの無力な女ではない。この盤面を支配するのは、この私だ。


連城グループという巨大な城壁に、私の最初の矢が放たれた。


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