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親友が密かに署名した婚前契約書  作者: 朧月 華


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第15話 反撃の戦略、そして「十倍賠償」


母の遺した「家族信託基金」の手がかりと、森本弁護士への連絡先を手にした私は、迷わず森本先生に電話を入れた。彼の声は、私の決意を感じ取ったのか、昨夜の心配そうな響きから、確かな信頼へと変わっていた。


「林さん! やはり、あなたのお母様は抜かりのない方だった。まさか、そこまで周到な準備をされていたとは……すぐに事務所へいらしてください。詳しい説明は、そこでいたします」


森本先生の声には、驚きと、そして確かな喜びが満ちていた。彼の言葉は、私の心を奮い立たせた。私は急いで事務所へと向かった。


事務所の応接室で、森本先生と私は、あの分厚い書類を広げた。その表紙に記された『林芳美 家族信託基金設立に関する付帯書類』の文字は、私にとって、希望の光そのものだった。森本先生は、書類の内容を読み進めるごとに、驚嘆の声を上げた。


「林さん、あなたのお母様は、天才的な弁護士であったかのような周到さです! この基金は、アークデザインの株式を含む、あなたのお母様の全資産を管理するものでした。そして、その中に組み込まれていたのが、この『敵対的買収防止条項』です」


森本先生が指差す条項に、私の視線が釘付けになった。その第一条項には、明確にこう記されている。


「この基金の運用中に、被信託人である林美咲の署名を利用し、被信託人の資産を悪意をもって侵奪しようとした者に対し、その侵奪された資産の価値の十倍、さらに年利一割の利息を加えて、信託基金に賠償させる」


「十倍賠償……!」


私の口から、驚きの声が漏れた。森本先生は、冷静な口調でその過酷な現実を突きつけた。


「つまり、蘇沙織さんは、あなたのお母様の会社を八百万で売却し、それを連城蓮さんの起業資金に充てたと自白しましたね。その八百万から連城さんが得た利益も全て含め、仮に計算しても、賠償額は数十億円規模になるでしょう。この金額を、蘇さんが個人で支払うことは不可能に近いです。彼女は、この条項が発動すれば、瞬く間に破産に追い込まれるでしょう」


森本先生の言葉は、私の心に、冷たい、しかし確かな復讐の炎を灯した。沙織は、私から騙し取った金で、もはや立ち上がれないほどの巨額の負債を背負うことになるのだ。それは、母の魂を汚し、私を裏切った者たちへの、厳正な裁きを求める、静かで、冷徹な炎だった。私の心は、この炎によって、一点の曇りもなく研ぎ澄まされていた。


「先生、蓮の不倫の証拠は、あの写真で十分でしょうか?」


私の声は、驚くほど冷静だった。もはや涙はなかった。私の心には、ただ、目の前の敵をどう打ち砕くかという、研ぎ澄まされた思考だけが存在していた。


「ええ、完璧です。決定的な証拠となるでしょう。ホテルの名も写っていますし、日付も時間も明確です」

「では、この不倫の証拠と、沙織が私を騙してサインさせた『偽装契約書』を合わせて、沙織を恐喝罪で刑事告訴することは可能でしょうか? 私の署名を利用して資産を奪い、その資金が蓮の不倫に使われた。その状況で、さらに不倫の事実を私に突きつけ、私を絶望の淵に追い込もうとした。立件は容易だと推測しますが」


私の言葉に、森本先生は目を見開いた。その瞳には、私の鋭い指摘に対する驚きと、そして確かな賛同が宿っていた。


「恐喝罪、ですか……なるほど。確かに、あなたの署名を欺いて資産を奪い、その資金が連城蓮さんの不倫に使われた。その状況で、さらに不倫の事実をあなたに突きつけているとなれば、その構成要件は十分に満たします。悪質な手口であれば、刑事罰に問われる可能性も十分あります。あなたの読みは正しい。これは、蘇沙織さんにとって、致命傷となるでしょう」


私は、静かに頷いた。私の心には、一片の迷いもなかった。


「分かりました。先生、すぐに準備を進めてください。私は、この全てを、沙織と蓮の目の前で、明らかにしたい。彼らの化けの皮を剥ぎ、二度と立ち上がれないようにしてやります」


私の声は、震えることなく、強く響いた。母の遺した知恵と、私の内に燃え始めた復讐の炎。それは、私を裏切った者たちへの、最初の反撃の狼煙だった。


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