詰問
「昼に来いと言ったはずよね」
私は頭を抱えながら棗に言った。目の前の凹凸なしの傷医は私が奢った昼食に舌鼓を打っている。
丸メガネの奥の目が笑った。
「大した仕事をしてない貴女と違って、私は忙しいのです。いつ来るか分からない患者がいるもので」
「あー、うるさい。ま、それもその通りか」
とはいえ、直球に暇だろうと言われるのも噴飯物だ。私以外の貴族将校なら怒るだろう。
「ええ、大概の仕事は私の後輩諸氏がやってくれるでしょうが」
「あんた何歳よ」
「女性に年齢を聞くのは野暮ですよ。で、宮入大尉。いや、宮入係長?」
「どっちでもいいけど大尉の方が気に入ってるわね」
どうでもいい会話だ。
「ああ、そうですか。じゃあ大尉。一傷医に何の御用です? 命の恩人って話なら、もうお礼はもらいましたよ」
「した覚えはないけど、なら昼食代は自腹にして貰おうかしら」
「撤回します。まだもらってない」
ケチくさいやつだ。
「でも、話は命の恩人についてなのよ」
「……私?」
「もう一人いたでしょう。私を運んだ人よ」
「私が運んだんですよ。貴女は意識がなかったから知らないでしょう。傷医と衛生兵の商売には担架で搬送する任務があるのです」
「嘘ね」
「なぜ嘘だと? 貴女は砲弾で吹っ飛ばされたんですよ。記憶の混濁があっても全然おかしくない」
「そうかもしれない。だけど、貴女ほど高い声じゃなかった。男の声、だと思う。私を搬送してくれたのは別の人よ。貴女じゃない」
「いいえ、そうじゃない。私ですとも。衛生兵とともに前線を見回っていたら貴女がいた。そこで力自慢の兵たちに命じて貴女を運んだんです。望み薄でした。周りは死んでたし、貴女だって死にかけだった。だから耳だって変になってたんです」
棗の目は笑っていない。この上ない真面目な顔だ。私だってあの時、耳に入った低音の声がなければ疑っていた。
棗が相槌を打っていた。ならば彼女以外の誰かがあそこにいたのである。




