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死刑執行人への愛  作者: 逆さ藤


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 要するに、私は暇になった。貴族同士のお茶会だの社交会だのと言った義務にも誘われない。


 楽ではある。


 ただ、まずいとは思う。伯爵家の後継としてそこそこの立場の人間を捕まえろ。まあ、ありがちな貴族の仕事だ。



「ううむ……」



 それでも私には特に危機感はなかった。結局のところ後継なんかはすぐ突替わる。そういう時のために貴族という生物は予備の兄弟くらいは作っている。


 事実私は長男の早逝で後継になった。従兄弟だっているから、その気になれば私の代わりはいくらでもいるのだ。父の養子になって仕舞えばいいのだから、考えようによっては女の私より面倒がない。


 そして最近の私の悩み。


 戦場でのあの低音。あの主が気になっていた。私の命の恩人だ。やはりお礼は言いたい。


 問題はあの時、今以上に目が見えていなかったせいでそれが誰か分からないことだった。うっすらと陸軍の将校服を着ていたのは覚えていた。


 陸軍の男。将校。そんな条件に当てはまるのはいくらでもいるわけで、私は参ってしまっていた。


 近衛隊本部の地下にある戦術資料課。私の新しい職場だ。係長の肩書は頂いたが仕事はない。中隊だのを率いて戦場に行くことは二度とないかもしれない。


 何人かの同僚はこの穴ぐらから出られない不幸を嘆いていた。あからさまなサボり行為にも課長である少佐は何も言わない。いや、彼本人が執務机に足を乗せ、本屋で買い求めたような本を読んでいる。


 そんな中で私はというと客を待っていた。ノックの音がする。それ自体すらここでは稀だ。ドアに近い兵が誰何の声を出す。



「傷医だよ」



 棗だ。

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