復帰、しかし…
身体は治った。軍服に袖を通す。近衛隊の将校服は目立つ。目の当たりに火傷の痕は残ったが、その程度の傷で済んだのは幸運でしかない。
「あららら……」
ただ、私はそれを喜ばしいとは思えなかった。
もし、これが男性ならば男の傷は勲章、となるのかもしれない。事実戦訓章を胸につけ、顔に傷のある男性は勇者扱いされ野蛮な振る舞いすら【英雄、色を好む】とばかりに好意的に受け止められる。
だが、女性の私には縁のない話だった。むしろ嫁の貰い手に困る。
大体女性の軍人はそもそも後方にいることの方が多いのだが、私はそうはいかない。
私が産まれた宮入家は勇武の家として知られていたが、長男が早逝したせいで私が継ぐ予定だ。
なぜ二〇そこそこの、それも女の私があっさりと後継の座に着けたのかといえば話は簡単だ。
何代だか前の先祖が、さまざまな事情から当主に就いた。当時でも珍しい話だが、その際に結構な隆盛を極めて(伯爵位やら官位やらを頂いたそうである)しまった。
そのせいで宮入家では女性の当主に対する嫌悪感というものがない。何なら長男がいた頃さえ、まだおくるみで寝こける幼い私を推す声すらあったそうだ。
馬鹿馬鹿しい。
一応父は生きている。母もいる。だから家を継ぐのはまだまだ先だ。
しかし、伯爵家でそれなり高位の官位を得ている家の至上命題は存続。それに関して私はこの紛争でかなり遅れをとってしまっていた。
私は火傷の痕を触った。二〇〇人の部下を亡くした指揮官の、間抜けな姿。
「……何とか、しないとね」
私はそう言って外に出た。復帰の挨拶をしに近衛隊本部に顔を出す必要があった。
火傷の痕を見る目はさまざまだったが概ね残念がる声が多い。何人かの私と同じ貴族将校はわざわざやってきて見してくれとせがんできた。すぐに追い返したが。
長い黒髪を二つに分けて纏めていて、背も入隊基準ギリギリの私は子供扱いされることも多かったのだが、復帰初日からそんな扱いは全く無くなっていた。むしろ避けるような、慄くような視線を向けてくる。
「何かあったの?」
見舞いにきてくれた友人に聞いたが、何の冗談だとばかりに見返された。
「何かって……」
「だっておかしいじゃないの。いっつもあんただってからかってきた。今じゃそんなのすらない」
「からかっていい存在じゃないわよ、その」
「火傷?」
「いや……」
「じゃあ、間抜けな指揮官に何かも言いたくないってこと?」
「違うわよ。それは絶対違う」
「じゃあ何?」
友人は言いにくそうに、それでも友人だからか言ってくれた。
「宮入大尉」
「なによ、わざわざ改まって」
「貴女、凄い顔をしてる……。その軍人みたいな」
「軍人——」
私の言葉を打ち切って、友人は続けた。
「そりゃ、私たちは一応軍の一部ではあるわよ。だけど本物かって言われると違う。実戦経験だってこの前までなかった。将校は貴族で、兵も下士官もお仕着せのようなものだったじゃない。だけど、貴女は違う。実戦を経験して、全滅した中隊から帰ってきた。そんな貴女はもう顔つきから歩き方まで違ってしまったのよ。まるで戦場にいるみたい……」
「ちょ、ちょっと」
「そんな貴女に、私たちみたいな経歴だけ将校が何か言えるわけもない。怖いのよ、みんな貴女が」
「そんな大袈裟な」
「ごめんなさい。私だって怖いの。殺されるんじゃないかって思ってる。三年近衛師団にいました、退役少佐なんですよ、実戦なんてした事ないけど……なんて、そんな思い出話をする貴族たちと貴女はもう違ってしまった」
ごめんね、と友人は言ってどこかに向かった。貴族将校の肋骨服とズボンに身を包んだ友人は眩しかった。私は彼女と違ってしまったのだろうか。ただ実戦を経験した。戦訓章を持っているのは彼女も同じはずなのに、前線にいたか後方にいたかでこんなに感覚が違うとは思えなかった。




