再会
「お、生き残っていたんですね。ま、私が見たんだから当然ですが」
病室——将校に対する特権だろうか個室だ——そこの扉が開き、つるりとした顔がのぞいた。凹凸のない細い身体にでかい丸メガネがついている。白衣の袖が手を隠していた。
「棗少尉」
「あら、覚えてくれていたんですね」
「……まあ、貴女のおかげで生き残ったようなもんだしね、こっちは」
「ははは、でしょうとも。全く後送は正解でしたでしょう?」
大怪我だったからこの言葉には同意するしかない。棗は眼鏡の奥の目を細めて笑った。
「袖捲ったら?」
「身体を白衣に合わせろとの事です。全く素晴らしい。これのせいで匙を掴みづらいし分銅も落としかねない」
「やめなさい」
「申請はしてますよ。それに」
棗は白衣をポケットに突っ込む。
「この姿勢を制限されてないので。病室巡回なんかは楽です」
「はあ……、それで?」
「それでとは?」
「何しにきたの?」
「お見舞いですが? もう目的は達した感じですね。元気そうでなにより」
「ああ、どうも」
そうとしか言いようがない。彼女が言った通り怪我した方の目の視力が多少落ちた程度で済んだ。彼女が適切な初期治療を行なったからこそこの程度で済んでいる。
「ここの主治医は私の後輩です。腕のいい男ですよ。実際、貴女にも後遺症はなさそうだ。軍人を続けるのに支障はない」
「喋りすぎよ貴女。私は疲れた。寝るわ」
「ああ、待って」
布団にくるまろうとした私を、棗は止めた。白衣の懐から箱を取り出す。燐棒を入れる箱のようだが、そこには恭しい飾り付けがされていた。
「何これ?」
「勲章ですよ。私が渡すのも変な形ですが、貴女は受勲したようです。私もですけどね」
ほらこれ、と棗が胸元を指し示す。
凹凸のない胸元。飾り気もないそっけない傷医着には銀色の勲章があった。
「……戦訓章ね。交戦経験のある軍人に贈られる」
「ええ、近衛師団の将校に贈られるらしいですね。私のような、ただ引っ張り込まれた傷医でも貰えるものだから、大層なものでもないんでしょうけど」
「そうでもないわ」
詳しく説明する気にもならないが、戦訓章は戦争で生き残った戦訓を忘れぬようにという目的で贈られる。要は受勲すると前線勤務の経験ありと認められるのだ
意外かもしれないが、大体の軍人は一度前線に立つと二度と経験したくないと口を揃える。私だってもう御免だ。棗も似たような気持ちらしく、受勲した喜びは特に感じられない。
「そこにでも置いといて」
「よろしいので?」
「大層なものじゃないなら、いいでしょう」
私はぶっきらぼうに言ってそれ以上は口を開けなかった。棗はため息をついてその勲章の入った箱を病室の机に置いた。
「それじゃ、私は」
「ええ、二度と会わないことを期待するわ」
「手厳しい……。とはいえ、傷医に対しては当然ですね。貴女も身体にご自愛を」




