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死刑執行人への愛  作者: 逆さ藤


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 宮野池ははっきり言えば僻地である。蛮州さえ除けば大八洲の最西だ。扇への船を出せる大きな港もあり、紛争前は広江との定期船事業も行っていた。


 最近では海軍が色気を出し始めており母の商会と組んで大規模な鎮守府を作るという話も出てきていた。


 母は理解しているのだろうか。もしかすればここを執政府の直轄領にされる可能性を生み出してしまったことに。


 陸軍や近衛軍は成り立ちからして爵位持ちの領民軍を根幹としている歴史がある。


 しかし海軍はそうじゃない。大八洲の津々浦々の領民が寄り集まり、高官ですら爵位など全くない者ばかりだ。大八洲の、普通の人々からなる海軍。その大規模な鎮守府などできてしまえば、我々の存在意義が揺らぐんじゃないか、なんて母は考えもしないのだろう。



「前来た時は思いませんでしたが」 

「何?」

「結構栄えているような気もしますね」



 皇都にある石畳の大通りもなければ馬事鉄道があるわけでもない。大小様々な店が軒を連ね、商人の声が鳴り響いている。私からすれば幼い頃からほとんど変わっていない光景だ。



「紛争で稼いだだけよ。一時の泡沫みたいなもん」

「そうなんですかね」

「国境付近の街よ。蛮州もある。ここでしか手に入らないものの集約地であるだけ。母がよくやっただけよ。父より余程こうしたことに長けてる。年貢がいっぱい取れる田を作れないからね。うちは」



 適当な説明をしといた。実際、農業で食っていける土地ではないから商業に異様に特化したわけだ。近場にはちょうどいい取引相手がいてくれた。海に面していたのも都合が良かった。



「年貢がなくても税収は結構なものなのでは?」

「そりゃそうでしょうね」



 私の頭の中では「一つ間違えれば召し上げられる」という気持ちがむくむくともたげている。棗が呑気に構えているのはまだ気楽だからだろう。



「さて、行きましょう……どんな無理難題を押し付けるつもりやら」



 

「戻ったか」



 そういう父はいつも通りだ。私にも、世間にも興味がなさそうな顔をしている。前にも通された広間ではなく、私室だった。


 宮野池にある宮入伯爵家邸宅。そこは先祖の威光を見せびらかすような大きさだった。商会を切り盛りしている母の、豪奢好きも現れている。



「お呼びだていただき、光栄に存じます」



 その言葉に、父は鷹揚とも言える態度で応じた。親子ともいえど、身分は当主と家臣のそれなのだ。



「近衛軍に許可は取っている。呼び立てて申し訳ないな」

「要件は、どう言ったもので」

「客人をお呼びしている。一緒に話をしよう」



 父は腰を上げた。何の為にここに呼び出したのかわかりもしない。


 貴族のサガというやつなのだろうか。私もきっと将来、こんな無駄を切り捨ててしまうのだろう。そうであってほしい。



「もしかすればお前に領地を継がせるのは不可能かもしれん」

「存じてます。覚悟も」

「すまないな。これも時節柄だ」

「そうでしょうね。それで」

「宮入伯爵家は潰せない。それも私の代でな」

「……辺境ですが、儲けはありますからね」

「そうだとも。湊は楽しんでやっていたんだろうが、商才がありすぎるのもな」



 要するに父にはもうそうした話がきているのだろう。それが今なのか、遠い将来の話なのかは別だが。



「今度からは宮入商会家と名前を変えますか」

「それも悪くないが、ヒモな陸軍中将というのもな」

「何なら執政府に仕えるのは如何で?」



 冗談で言ったが、それも悪くないかもしれない。父は陸軍中将という立派な肩書も、妻が商会の女旦那という実弾もある。何より伯爵だ。執政府に乗り込んで大八洲の指揮を取るのも悪くないはずだ。



「それもいいだろうな。つまり、御国の舵取りはそろそろ面舵でも取り舵でもいっぱい、というわけだな。宮入伯爵家にとっても」



 父の顔色は、廊下を歩く時一つも変わらなかった。

  

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