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死刑執行人への愛  作者: 逆さ藤


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 大山は一言かけて病室を出ていった。



「重苦しい話ですね。家の歴史が長いと色々あるのでしょう」



 棗は横でずっと聞いていたようだ。人払いでもしておけばよかった。あまり聞かせたくない話である。脈を取られる。



「脈は正常です。動揺しておられないので?」

「色々あるって話でしょう? 私は当然だと受け止めている、ってことじゃない?」



 実際、宮入でもそのほかの貴族家庭でもありがちな話だと思っている。


 当主は孤独だ。孤独だからこそ誰かに話を聞いて欲しいし、すがりたくもなる。しかし、家の家長、貴族家の当主はそんなことをしていい立場ではない。


 彼ら彼女らの背中には家族だけではなく、一族、そしてそれぞれの家臣への責任があるからだ。どこにも傾いてはいけないし、誰もを無視するわけにはいかない。そうするとたちまち家は分散してしまう。家臣は当主に嫌われれば野に下る自由があるが、当主は家臣に見捨てられればすぐさま力のない一個人になるだけだ。


 だからだろうか。貴族は横のつながりを異常に重視する。保険だろう。もし家臣から追い出されても他の貴族に顔をつないでさえいれば食うに困ることだけはないからだ。



「父は無気力に見えても、宮入の家を大事に思っているんでしょう。家ではあれだけど」

「私からみれば、とても貴族らしいお方に見えましたが。威厳もあり、穏やかに見えました」

「そうかな……」



 私からすればピンと来ないどころではなかった。いつも無表情で読書しているか陸軍の仕事で家にいないかのどちらかだ。宮入を貴族として成り立たせているのは母であり、母の商会が宮野池の経済をどうにか回している。


 最悪の想定として、父がいなくても宮野池は困らない。母がいなくなれば宮野池は困る。そんな感じの領主家だ。


 そんな父も甘えたい時があるのだろうか。



「あなたはどうなんです? 次期伯爵でしょう? 誰にも縋れないのは辛いのでは」

「どうかしら……」


 縋る相手。


 ——朝右衛門。


 いや、なぜだ。すぐ思い当たるのはどうしてだ。私は女、あちらも同じだ。



「……」



 私は無言になった。


 棗は笑った。



「朝右衛門ですか?」

「……」

「いいと思いますよ。私はそれも」

「どうしてよ」

「別に。特に理由はないです。ああやって自分を顧みず身を挺して救ってくれる。それが自然とできるやつです。あいつは」



 

 病室には何日かいた。どうにか生き残ったが、顔には傷が付くし、目もよく見えなくなった。眼鏡を作ったが、実に煩わしい。丸いレンズの向こう側を見るのは慣れないと大変だろう。


 皇都の病院から近衛軍司令部へと向かう。久々だ。



「宮入近衛軍大尉」



 煉瓦造りの司令部、その門の前で敬礼すると衛兵たちは顔を引き攣らせていた。前まではこちらも困惑していたが、何度か続くと慣れたものだった。今回はあえて胸の略綬を見せびらかすように歩いてやった。


 司令部に入る。地下の資料室に向かい、仕事を再開する——そう思っていたのだが。



「宮入、宮入大尉?」

「ああ、あんたか。何?」



 地下に下る階段の前で声をかけられた。困惑するような声の主は入軍以来の知り合いである貴族大尉だ。復員してきた私に普通とは変わってしまったと直言してきた最初の同僚。


 彼女の肋骨服は綺麗で、ついこないだ鬼原との戦いでボロ切れのようになった私のものとは別物に見えた。



「いや、その……。しばらくいなかったわよね」

「ええ、まあ。ちょっと実家の方でさ。それでどうしたの?」



 お互い領地持ちだ。実家の方の話となると、一歩踏み出しづらい事情。誤魔化すにはちょうどいいし、何より宮野池の事情は他とはちょっと違うのだ。



「お父上がこの間来たのよ。そういう事情なのかと思ったわ」

「はい?」

「宮入義直陸軍中将……。伯爵家の当主が急に、身一つで来たからさ。私たちも畏まっちゃったわよ。凄い方よね。さすが勇武の宮入家。司令もすごく動揺しちゃってものすごい駆け足だったわ」



 とんでもない話だ。私がいない間にそんなことになっていたのか。父はどうも、そうしたところがある。娘の私ですらそんな話を聞くと身構える。


 陸軍中将であり、伯爵家の当主という立場をどこかに置き忘れたような態度。周りからすればもっとわかるようにしてくれと言いたくなる。


 司令は近衛軍少将で、父は陸軍中将。指揮系統が違うにしろ、軍人という範囲の中で階級は絶対だ。その上、司令の爵位は確か男爵。陸軍での勤務評定の良さで転軍して就任した人だから全く頭が上がらなかっただろう。



「へえ」



 そんな考えを巡らせていたが、私はそれを前に出さないように努めた。



「気にならないの? いや、何があったのよ」

「分かりもしないことに何も言えないわよ。私は娘だけど、あちらは当主。伯爵様よ。あんただってわかるでしょ。貴族なんだからさ」

「ああ、まあ……。そうね」



 貴族なりの特殊さを理解してくれる同僚ばかりだ。だから近衛軍がある。もし陸軍や海軍などにいれば首を傾げられる事情でも理解を示してくれるのだからありがたい。



「もういい? 仕事しないとね。花形の騎兵課と違って私は窓際どころか窓すらない地下の資料課だけどそれでも仕事はあるのよね」

「ちょっと待った」

「だから何?」

「司令が呼んでる。私たち全員に宮入大尉が来たら呼びつけろって命令が下令されてる。だから来なさい」

「ええ……?」

「ここから降りて資料課に向かっても、今度は階段を余分に歩くわよ。それでもいいならいいけど。私は待ってるだけでいいから」

「わかったわよ。行く」

 


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