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「ふがっ……。ああ、大山。なんだ、起きてるじゃないか。全く、さっさと起こしてくれれば良いものをさ」
「棗」
「宮入大尉。こいつを責めないでやってくださいね。こいつ嘘つけないタチでして。ああ、検問所じゃ笑い堪えるのが必死だった」
棗は寝起きにしては軽快な調子で声を出し、脈やら何やらをとった後、大丈夫と太鼓判を押してくれた。
「初めて聞く話ばかりね……はあ」
ため息をついた。大山は真面目すぎるような顔を作り、言った。
「穂乃果様」
「ああ、それやめて。あんまり慣れてないから」
小っ恥ずかしい。あんまり人の名前に様とかつけるもんじゃないな。
「我々は確かに陸軍式の訓練を受けてます。正規の軍ではありませんが、御領主に対しての忠誠を誓っています。どうか、信じて欲しい」
「別にそんなのはいい。父が何をしているのかわかんなくなった。私を疎んじているか、興味ないのかとも思ってたけど」
「令嬢様。それは大変な勘違いです。御領主はあなたを心から案じているんです」
大して響かない言葉だった。誰でも言える。貴族というのはそうしたものじゃない、と目の前の大山に言っても通じないだろう。こればっかりは貴族じゃなければわからない感覚かもしれない。
「わかったわかった。それでなぜあそこに? 私を心配してってこと?」
どことなく投げやりになりながら言った。
「その通りです。我々は元々、宮野池との境目に住んでいた犬族です。ただ——」
大山が言いにくそうに続ける。
「境目にありがちなのですが、その、宮野池の領民や我々の祖先がですね……。合わさった」
私は手を差し出した。二十歳の私にはちょっと重たすぎる。悍ましさ——というよりは、納得に近い感情ではあった。ただ、少なくとも病室の寝台の上で聞きたい話ではなかった。
「半分亜人、なの?」
「私の場合は母上です。母が犬族でした。父はとうに亡くなりましたが、宮入の末端に属していると聞いてます」
「親戚って訳……」
本来なら一族に亜人がいるのは恥ずべきことなのだろう。顔を赤くする者だっているに違いない。
だが、宮入は違う。何せ亜人の国とも言える蛮州が隣にあるのだ。そんな価値観がまかり通るはずもなかった。私からしても亜人は宮野池の住人と見えた。
「申し訳ありません」
大山が頭を下げた。
「なぜ頭を下げるの?」
「亜人が一族にいるのは恥かと……。事実、父の存在など知らなかったでしょう?」
「宮入もそれなりに大きな家だからね。確かに知らない。あなたが嘘をついていないとも限らない。宮入の名を名乗る不届者と言えるかもね」
「令嬢様」
「でも、同じように宮入でないとは私は言えない。知らないからね」
「それで良いかと」
大山は静かに言った。父親の存在も明かせない複雑な出生。それまでの人生がその結論でいいと判断したのだろう。
「早く言って欲しかった。そうすれば蛮州での案内もうまく行ったでしょうに」
「その点においては、謝罪するしかありません」
またしても頭を下げる。
「父からの差金かしらね。父もそこまで介入したくもないのでしょう。親戚と言っても、そこまで近くもなく、犬族であるからにはもっと昔の方があなたのお父上なのでしょうし」
「そう聞いております」
「あなたの救援に感謝を。宮入伯爵家として礼を言います」
大山の話を強引に切った。これ以上自分の一族のやらかしを聞きたくない思いもあった。




