帰国
最前線から四〇キロ後方の大陸国家扇国の港町、広江。
私はそこにいた。
扇国は大八洲皇国とは海を挟んで隣国。現在居留民保護を目的として戦争中。
難しい政治上の案件は本来将校ですらあまりよく分かっていない。
軍人は陸軍、海軍問わず政治に関わらないのが美徳とされている。無論建前だ。政治に興味のない軍人ばかりとはいかない。
「……後送。後送」
意味のない呟きを繰り返す。三角巾で腕を吊り下げ、顔の半分を襷掛けしたように包帯が巻かれている。すれ違いそうになった兵がさっと傍にそれて敬礼をした。
「おい、あれ——」
「ああ、確か近衛師団の——」
半分しか見えないからか、ひどく耳が良くなってしまった。そのせいでやたら私の悪口が耳を打つ。
(こんな顔ではもう、お役御免かもしれないな)
私は少し投げやりになっていた。
宮入穂乃果は顔に傷がある。どうやら最前線で傷を負ったらしい。
ご丁寧に、というか余計なと言うべきか、棗は律儀に連絡を入れていた。手紙とカルテを皇都の病院に送ったのだ。
軍事郵便の天狗に速達を、と彼女が一言入れていたのを私は見ていた。背中に大きな翼をもつ彼は真面目な敬礼をして彼女の手紙を皇国に持っていったのだろう。
男ならばこうした傷も誉になるのかもしれない。それは今、とても羨ましい。
どうしようもない気持ちで、私は埠頭に泊る病院船に乗り込んだ。その船の中で、紛争は止まったこと。休戦協定が結ばれたことを知った。




