騒々
屋敷の入り口には何人かの人がいた。そう見えるだけなのか、それとも実際に人なのかはわからない。浅右衛門の話は宮野池でも通じる。だって、彼ら一族の一番の上客は人だからだ。
刀の試し切り、漢方薬の材料、鬘のための髪、新式銃の試し撃ち。
人がそういう風に利用されるのはどうなのかと思うだろう。私だっていい気はしない。
だけれども浅右衛門の名前を継承する一族はその後に使われた死体を丁重に扱う。決して粗末にはしない——という話だ。実際にはわからないが。
「おい、君たち」
棗がぞんざいに話しかける。どことなく高圧的だ。近衛師団にいる時の、何とも言えない飄々とした態度はない。睨めつけるような彼女の振る舞いに、門前の集団は怪訝そうな顔をした。
「どちら様です? ええと——軍人さんですか?」
目の前にいた長身の体躯をした男性が言った。囲むわけではないが、周りににじり寄る。私はどうしていいかわからないままに、彼らを見守っていた。もちろんいざとなれば止めようとはしている。
「その通りだよ。開門開門、狐珠浅右衛門殿はいらっしゃるかな?」
「は、はあ……、何だこいつ? 誰か知ってるか?」
長身の彼は戸惑ったように周囲に漏らしたが、誰もが横に首を振った。知られてないのかよ……知り合いみたいな空気出しといて。
「じゃあ、君だ、君。金髪の君だよ」
奥にいた——つまり門の近くだ。そこにいた一際小柄な少年だろうか。棗は彼を指差した。
「お、俺?」
「君以外に私が指差している奴がいるかね? ああ、別に反論しなくてもいい。早めに行きなさい。幼馴染の棗が来たと言いなさい。どうせ居留守を使うだろうから早く通せとね」
「え、え」
「早くしな、怒られるのは君だよ。私が厄介な奴だと浅右衛門は知っているんだ。つまりこのまま放置すると面倒になるぞ。門番の君たちが面倒ごとを放置するとあとで浅右衛門が雷を落とす。怖いぞ、浅右衛門は。本当に怖いぞ」
どんな脅し方だ。私は呆れた。
「わ、わかりました。どうぞ、お待ちください。それと、ええ、棗様と——」
「そうとも、棗だよ。そして、ここにおわす方にも最敬礼を。そうしないと君たちが不敬な存在になるよ」
「は、それはどういう——」
「宮野池を治める御領主の令嬢だ。君たちはもっと外に目を向けなさい。他の領地を治める者を覚えてないなど、世間知らずにも程があるぞ」
そう言われて、そこにいた全員が形ばかりだろうが敬礼をした。私はそれに形ばかりの答礼を返した。
「あんたね……、ちょっとやりすぎじゃないの? 大体、人が変わりすぎよ。もっとどうにかならないの?」
「どうにかって何です?」
「あの態度よ、態度」
「はは、少しばかりやりすぎでしたかね。ま、若造をいじって遊ぶのも上の責務という奴ですよ。理不尽を若いうちに味わっておくと楽ですよ」
通された屋敷。案内された座敷はなかなか居心地がよかった。溜詰めの間だ。急な来客を待たせるためにある部屋である。
そんなに広さはない。しかし客人を通すには最低限のものが揃っている。畳の質も上等だ。
部屋自体が小さいものだから、自然棗とは膝を詰め合う状況になる。私はその時間で棗に詰め寄った。
「何が理不尽よ。台風が来たみたいに泡食わせて。さっきから足音の軋みが止まんないのよ」
「ああ、バタバタしてますねェ……」
のんびり言いやがって馬鹿。
「あんたは何様のつもり?」
「蛮州の出世頭、のつもりです」
「そうなのかは知らないけど、じゃあ、それが人様の家をばたつかせていいって話になる?」
「なりませんでしょうな」
「それも私を出汁に使って」
「箔をつけさせてもらいまして」
皇都廃墟愛好会とやらが目の色を変えるようなボロ屋。それが実家の没落令嬢にそんな価値があるのだろうか。何だかなあ。
「礼を言いに来たのよ、私は」
「そうでしょう」
棗はずっとこんな調子だ。近衛師団で肩身を狭くしていた時みたいにしてくれ。
足音が少なくなった。
足を摺る音が一つだけする。襖が開く。先ほど棗に名指しされた少年だった。緊張しているのか、玉のような汗をかいている。
「宮入様。大変お待たせして申し訳ありません。当主、浅右衛門の支度が出来ました」




