野戦病院にて
次に目を覚ました時には、私は野戦病院にいた。
ズキズキとする身体が意識を繋いでいる。
(痛い……、痛い)
痛みだけがクリアに伝わってきて、それ以外の感覚はまるっきり死んでいた。
野戦ではベッドなど贅沢品の極みであり、いかに私が近衛師団の将校だとしても柔らかな布団に背中を預けることなど出来やしない。
急に光が入ったせいで痛む右目——左目には視界がない。どうも包帯か何かで覆われているらしく見えない。
「お……、目が覚めたみたいだぜ。おーい、棗、棗少尉」
聞き覚えのある低音だ。女性のようだが言葉が荒っぽい。
——昔見た小説の、海賊のようだ。
目が彼女の声へと向く。
「はいはい——なんだね」
棗という声も女のものだ。なんだか分からない。自分もだが——最近の軍隊は女が増えた。奇妙な感じがする。
「お目覚めだよ。こいつもおねんねは終わり。私もようやく肩の荷が降りた。まさか近衛師団の中隊長殿とはね。殺したら私のせいになったりすんのかな」
「さあ、それは知らんけれども——ま、ここからは私の仕事だ。さあ、君も持ち場に戻れ。こっから彼女は搬送せにゃならんよ」
「へえへえ、ところで軍医殿。私にも診断書をくれねえか。戦場なんて怖いところからはさっさと帰りたいんだが」
「馬鹿言ってないで戻れ少尉。私は忙しいんだ」
会話の中身はあまり大したものじゃなかった。だけど、生き残った私にはそんな大層なものではない会話がなんとも気が抜けていて、安心した。
——生き残った?
誰が。
私がだ。
じゃあ、何人生き残ったんだ。
尋ねたい。聞きたい。私の部下は全員で200人いたんだ。
私を慕ってくれていた部下は。
気に食わないが助けてくれた下士官は。
自分を指導してくれた先任は。
どこだ。
どこにいるんだ。
「あー、はいはい。おーい。聞こえますか、宮入大尉? 聞こえたんなら瞼を開け閉めしてくれますかね。ダメなら、そうだなあ……、ああ指先をあげて。どこでもいいですから」
棗、という方だろうか。はいはいは口癖か。
こいつ軍隊らしくないな。そう思いながら、私は指先を挙げた。わずかに上げるだけでも相当の努力がいった。
「おー、よろしい。では、もう少しだけ寝ましょうか。大丈夫、貴女は後方に送られますよ。私がカルテを書くんでね」




