出立
宮野池の領地の屋敷。そこに私はいた。棗と話して何日かたち、領主の仕事が云々と理由をつけて休暇をもらい、皇都から舞い戻ったのである。
「さ、棗少尉。案内しなさい」
「ええと、その。私は傷医であって従卒ではないんですが」
「あなたが案内すると言ったんでしょうが」
「言いましたけど、その。私にも立場ってものが」
立場とはなんだ。私は棗の小柄な体を叩いた。
「いてて……、故郷に錦を飾るんですよ。傷医ってのは蛮州じゃ結構な立場なんです。人の世界で立場を築いたってことなんですから」
「へえ、そうなの」
「大変なんですよ。生まれる場所一つが大ごとなんです。宮入大尉は」
その先は言わせなかった。そんな悲哀や愚痴を聞くために彼女に案内を任せたわけではない。
「私たちもあなた方が怖い、と言えば変かしら」
「変でもない、ですかねえ」
ぐちゃぐちゃと話していたが、結局私たちは荷物をまとめて蛮州への道に向かった。
蛮州への道、と言ってもなかなか大変だ。街道を行くのが都市間の移動の常識。皇都のような整備された都市ならば小さめの蒸気機関車が走っていることもあるが、宮野池のような田舎では望むべくもない。
「こうしてえっちらおっちら歩いていくしかないってわけよね」
「我々の方は天狗が送ってくれることもありますが、人は嫌がりますからね」
「空から落ちたらどうするのよ」
「着地すればいいじゃないですか」
「……」
きっと感覚がそのまま違うのだ。私はあまり言わないことにした。




