詰問
「ご心配をおかけしました」
ぶち抜きの広間。上座に座り三寸高い床の間から父が私を見下ろす。距離はかなりあるが、これもまた貴族の嗜みということになる。当主は特別で、それ以外はたとえ娘でも臣下という扱いだ。
ここには家族のぬくもりがない。しかし私はそれを自然なものだと受け入れていた。
「お前の命が助かったのならそれだけで十分だ」
「過分なお言葉、痛み入ります」
「近くに寄れ」
同じ広間に入れ。そういう事だ。正座で両手をついたままの私はにじり寄るように襖を超えて彼の前に座った。
棗を流し目で見たが、非常に居心地が悪そうだ。貴族の屋敷など来るものではない。まず楽しいものではないからだ。それをまざまざと感じている顔だった。
「おや、そこにいる御仁は誰か?」
「御当主、紹介いたします。私の命の恩人である棗薫近衛少尉です。彼女は戦場で私を救ってくれました」
わかりきっているくせにこうして尋ねる。これもしきたりだ。どうにも無駄なしきたりで、もしこのまま私が後を継ぐのならこうした無駄極まりないものは全て無くしてしまおうと思っていた。
その後は一応父も立ち上がりあれこれと喋ったが、私はいまいち耳に入ってこなかった。棗も同じらしく、はあはあと相槌を打つだけに終始していた。
父から解放された後、棗を誘った。
私の部屋。そこで棗は深いため息をついた。
「いやはや……、お父上は真面目な方なのですな。貴族の嗜みをああも守る方も珍しい」
「以前に貴族と会ったことがあるような言い回しね」
「まあ、私にも色々あるわけです。患者に貴賎はありませんのでね」
「ええ、そうでしょうとも。伯爵家の娘を救ったわけだし、兵に薬をあげることもあるでしょうね」
「はは、全くその通り。それで、その」
「何?」
「私をここに連れ出したのは、まさかお父上と御目通りさせるためだけでもないでしょう?」
鋭いやつだ。
「勘づいた?」
「何聞かれるんです? 知ってることならいいんですがね」
「あんた、私を騙しているわよね。ああ、言わなくてもいいわ。全部知ってる。言い訳は結構。だから聞かれたことに全て答えなさい」
棗は顔を引き攣らせた。もしかすれば私の顔が怖かったのかもしれない。正座を正して座り直した。




