招待
基本的に軍隊というのはどことなくお役所なところがある。何事も書類が必要、上長の決済は必須。
ただ、そこに階級だの役職だのがくっついていて、一朝有事のその際は海を渡って戦う。
「はいこれ」
ヒョイ、とそのそうした書類を出すと私は管理室への入室を許可された。
気持ち悪い時間の報酬はこれだ。実に面倒だった。今でも少し吐き気がするがここで嘔吐するわけにもいかない。課長へのむかつきを飲み下して私は書類を漁り始めた。
棗は近衛本部の前から出ようとしていた。彼女の前に私は立つ。
「……で、何なんです? もうお礼は頂きましたよ。何度も奢られるのも嫌なんですがね」
棗はあまり気乗りしない様子で私の招待を受けた。私は浮かべるのに慣れていない笑みを浮かべる。
「いや、お誘いなのよ」
「誘い? 何の誘いです?」
「宮入家からのお誘いよ。実は私の父上——知っているわよね」
「……まあ、存じておりますよ。伯爵でしたよね。確か昔々の大戦で一番槍の栄誉をもらって領地を得たとかいう」
「その通り。宮入家は勇武で知られた家よ」
「それで。そんな関係ない話をしてどうするんです?」
棗の態度は、まるでつまらない授業を聞く生徒のようだった。きっと歴史の授業なんか興味がなかったのだろう。
別に、ここで延々宮入家の歴史を滔々と語るつもりはない。それは私だって特に知らない事だし、せいぜい勇武を誇った先祖がいたくらいで十分だ。領地を得るきっかけの先祖がいて、それを富ませた別の先祖がいて……仕事終わりに私がするには情けない話だ。末裔たる私は何をしたわけでもない。
「戦場での勇武は貴女のような方々に支えられている」
「……?」
「娘を救った傷医に、是非会ってお礼をしたい。宮入伯爵——との事よ」
「ほお……。私のような下っ端に随分と手厚い言葉じゃないですか」
「命の恩人を無碍にするような者が戦場で生きていけるわけがない。どうか私に貴女をもてなす栄誉を与えてほしい」
「心がくすぐられますねえ」
「それで? そこまで言われて貴女はどうする?」
「伯爵にそこまで言われて、今日は都合はと断るつもりはありませんよ。ええ、今日は挨拶する栄誉を浴するとしましょう」




