オフィス街にて
休日、私と美咲は人目を忍ぶように待ち合わせをした。
「……やっぱり、私たちだけなのかな」
不安を抱える私の言葉に、美咲は真剣に頷いた。
「確かめてみよう。ほかにも恥ずかしいと思ってる人がいるかもしれない」
二人は「羞恥心を持って失禁してしまう女性」を探すため、町へ繰り出した。
最初に入ったのは賑やかなファミレス。
向かいの席では、女子大生のグループが談笑していた。
「やばい、もう出る~!」
ワンピース姿の一人が笑いながらそう言うと、椅子に腰かけたまま失禁を始めた。
薄い布地を透かして股間から濃い染みが広がり、床へと滴っていく。
「ちょっとー!椅子びしょびしょじゃん!」
「店員さん呼ばなきゃ」
周りの友人たちは笑い混じりに騒いでいるが、誰一人として恥ずかしがってはいない。
当の本人も、顔色ひとつ変えずにハンカチで椅子を拭こうとしている。
「……違うね」
私と美咲は顔を見合わせ、小さく首を振った。
次に訪れたのは巨大なショッピングモール。
人波の中、清楚な雰囲気の女性が恋人と並んで歩いていた。
ゆったりしたズボンをはき、どこか上品な空気をまとっている。
だが突然、その女性が足を止め、しゃがみ込んだ。
「ごめんね、ずっと我慢してて……限界だから、ここでするね」
そう告げると、彼女のズボンが一気に濡れ広がり、滝のように床へ流れ出した。
周りの人々も、彼女自身も、全く動じない。
まるで呼吸をするように自然な行為であるかのように。
「……普通の顔してる」
「うん、やっぱり」
二人の胸に、再び重たい違和感だけが残った。
次に足を運んだのは、噴水がある大きな公園だった。
そこでは女子高生の3人組が、股間を抑えてもじもじと歩いていた。
「もうみんな限界でしょ?ここで一緒にしようよ」
一人がそう提案すると、残りの二人もすぐに頷き、三人でスカートをたくし上げた。
そのままパンツを穿いたまま腰を落とすと、しゃああ……と同時に勢いよく流れ出す。
「やばい、めっちゃ出る~!」
「ほんとあったかーい」
「限界だった~!」
恥ずかしがるどころか、むしろ楽しそうに声をあげている。
「……いないね、やっぱり」
美咲が小さくつぶやく。
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「なかなか見つからないね……」
私もため息をついた。
二人は歩き慣れた道へ――自分たちの会社があるオフィス街へと向かっていった。
街中にあふれる「当たり前の失禁」を見てきた後だからこそ、胸の奥にざらつくような不安が残っていた。
(どうして……どうして私と美咲だけ、恥ずかしいままなんだろう?)
オフィス街に差しかかったときだった。
休日のはずなのに、会社近くのカフェから見慣れた人影が出てきた。
「……あれ、先輩?」
白いブラウスに淡いベージュのスカート。
清楚で、いつも穏やかな笑みを絶やさない先輩・佐伯さんだった。
だが、その姿は普段の落ち着きを失っていた。
足を止めて身をかがめ、必死に腿を寄せ合わせている。
「……っ、だめ……」
かすかな声が聞こえた。
次の瞬間――。
スカートの裾が暗く染まり、足元に小さな水たまりが広がっていく。
「……っ」
彼女は俯き、肩を震わせた。
街中を行き交う人々は、誰も驚かない。
それどころか、ちらりと見てから何事もなかったかのように歩き去っていく。
普通の世界。
でも――。
佐伯先輩だけは違った。
頬を真っ赤に染め、両手で顔を覆い、涙を浮かべていた。
「……どうして……私だけ、こんなに……恥ずかしいの……?」
声は震え、嗚咽が混じっていた。
美咲が息をのんだ。
「先輩も……」
私は思わず歩み寄りそうになるが、足が止まる。
(ここにもいた……! 私たちと同じ、“羞恥心を持ったままの人”が……!)
佐伯先輩は気づかぬまま、その場に立ち尽くしていた。
失禁の痕を隠そうとする仕草が、痛いほどに切実で、哀しくて――そして、確かに私たちと同じだった。




