重なる日
数日後、私は勇気を出して美咲に声をかけた。
廊下での出来事以来、頭から離れなかったのだ。
私は自分も失禁に対して抵抗感があることを伝えた。
「ねえ……美咲。どうして私たちだけ、まだ恥ずかしいって思うんだろうね」
彼女は少し俯き、机の端に置いた指をぎゅっと握った。
「……実はね、私もずっと考えてたの。おかしいよね、みんなはあんなに平気なのに」
私たちは小さな喫茶店の隅に座り、互いの体験を打ち明け始めた。
私は彼氏の前で漏らしてしまった日のことを話した。その日からおかしくなってしまったのだ、と。
すると美咲は、驚いたように目を見開いた。
「……待って。その日って、〇月〇日だった?」
私は頷いた。
美咲は息を呑み、声を震わせて語り出した。
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あの日、美咲は仕事帰りに駅へ向かっていた。
膀胱はすでに悲鳴を上げていて、冷や汗が背中を流れていた。
「あとちょっと……もう少しだから……」
人波をかき分け、駅のトイレに駆け込む。
運よく個室がひとつ空いていた。
彼女はスカートの裾をつかみ、必死に扉を閉めた。
しかし――。
かちゃり、と鍵をかけたその瞬間。
もう身体が限界だった。
「だめ、待って……!」
下着に温かさが走り、じわりと広がる感覚に膝が震える。
慌ててスカートをまくり上げようとしたが、指先が震えて思うように動かない。
ついに制御が切れ、しゃあああ……と音を立ててすべてが流れ出した。
ストッキングを伝って膝を濡らし、靴の中へまで熱い液体がしみこんでいく。
美咲は便座の前で立ち尽くし、顔を覆った。
――個室にいたのは彼女一人。
だが、羞恥心は誰かに見られた以上に鮮烈で、心をえぐった。
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「……あの日からなの。みんなが平気そうにお漏らししてても、私は笑えなくなった。だって、私にとってはどうしても“恥ずかしいこと”のままなんだもの」
美咲はそう言って、潤んだ瞳で私を見た。
偶然ではない――そう直感した。
私が彼氏の前で羞恥に震えたその日、美咲も同じように羞恥を抱えていた。
(あの日、何かが起きたのだろうか……?)
失禁するのが“当たり前”の世界で、私と美咲だけが羞恥心を抱き続けている。
その理由は、あの日に隠されているのかもしれない。
私たち二人の小さな秘密は、やがて世界の異常に触れていく糸口となるのだった。




