残された羞恥心
妹でさえも、最初こそ顔を赤らめていたのに、最近ではもう何のためらいもなく「ごめん、もう無理」と言っては、その場で漏らしてしまう。
街を歩けば、女性たちがパンツやズボンを穿いたまま静かにおしっこを済ませていく光景が日常になりつつあった。
社会全体で「女性が我慢の末に漏らすことは自然なこと」と受け止められ、羞恥心という感情はほとんど失われていた。
――でも、私は違った。
どれだけ“普通”だと言われても、人前で漏らすことを想像するだけで、顔から火が出そうになる。
羞恥は、私の中から消えてはくれなかった。
ある日、書類を持って廊下を歩いていると、前方で立ち尽くす同僚の美咲を見つけた。仲のいい彼女だ。
(ああ、もしかして……)
すぐに状況が読めた。膝をわずかに震わせ、顔を伏せている。
次の瞬間、彼女のジーンズの股間から黒い筋が広がり、しゃああ……という音とともに床に水たまりができていった。
私は心の中でつぶやいた。
(どうせ、みんなみたいに平然とした顔をしてるんだろう……)
だが顔を上げた美咲の表情を見て、息を呑んだ。
目には涙が浮かび、頬は真っ赤。唇を噛み、今にも泣き出しそうなほど羞恥に満ちていた。
「……なんでっ」
その声は震えていた。
胸がざわめいた。
社会全体が「自然」だと受け入れているのに――なぜ彼女も、私と同じように羞恥心を抱き続けているのか。
妹はもう恥ずかしがらないのに。
同僚の多くは平然と漏らすのに。
(どうして、私と美咲だけ……?)
廊下に広がる水たまりを前に、私たちはただ立ち尽くした。
消えるはずの羞恥心が、二人の間に確かに残っている。
それは孤独ではなく――同じ疑問を共有できる者がいる、奇妙な連帯感だった。




