帰り道
茜に慰められながら、私たちは人混みを抜けて帰路についた。
さっきのことを思い出すたびに胸の奥がちくりと痛んで、顔が火照る。
「やっぱり……私、無理かも」
そんな弱音をこぼすと、茜は「大丈夫だよ」と軽く肩をたたいてくれた。
少し沈黙が続いたあと、茜がふいに言った。
「……ねえ、彩。私、またおしっこしたくなってきちゃった」
思わず足を止めて、彼女を見つめる。
「えっ……またそこで漏らすの?」
声がふてくされたように響いてしまった。
茜はくすっと笑って首を横に振る。
「ちがうよ。私は我慢の限界になったら漏らすだけ。ちょっとしたくなってきたからって、すぐにはしないよ」
そのあっけらかんとした言い方に、私は言葉を失った。
「……そんなふうに言うの、やっぱりおかしいよ」
心の中でそうつぶやく。
お漏らしをそんな簡単に受け入れるなんて、この世界はどう考えてもおかしい。
私はやっぱり順応できていないんだ――改めてそう感じた。
そんなことを考えながら歩いていると、ふいに前から見知った顔が近づいてくる。
「あれ……楓ちゃん?」
思わず声を上げると、楓も驚いたように目を丸くした。
「あっ、彩先輩!」
私服のジーンズ姿の楓ちゃんが、小さく手を振りながら駆け寄ってきた。けれど、その表情はどこか落ち着かず、両手がそわそわと腰のあたりをさまよっている。
「すみません、今おむつを使い切っちゃって……急いでるんです」
彼女は顔を赤くしながら小声で耳打ちしてきた。私は思わず返事に詰まる。楓ちゃんも、やっぱり……。
そのとき、横から茜がひょっこりと顔を出した。
「彩の会社の後輩の子?」
楓ちゃんは驚いたように目を見開く。
「そうなんです。えっ……アナウンサーの茜さんですか?」
「はい、そうです」茜はにっこりと微笑む。
「わ、私……すごいファンなんです!」楓ちゃんは声を弾ませ、頬をさらに赤くした。
茜は嬉しそうに頷くと、私の方を振り返った。
「ねえ彩、この後3人でお茶でもする?楓さんも時間ありますか?」
「はい、ぜひ!」楓ちゃんは即答した。
その笑顔に、私は胸がざわつく。
だって、ついさっきまで「おむつがなくて困ってる」なんて言ってたのに……本当に大丈夫なんだろうか。
こうして私たちは、駅前のカフェへと向かうことになった。




