衝撃と不安
楓視点
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そのころ私は、萌と二人で外にランチに出ていた。
最近は仕事が忙しく、萌とゆっくり話すのは久しぶりだった。
カフェで軽く食事を済ませ、テーブルでたわいのない話をして、二人で笑い合う。
そんな何気ない時間が心地よくて、私はほっとしていた。
――ふと、萌の様子に気が付いた。
黒いズボンの股のあたりを、ぎゅっと抑えている。
顔は少し赤く、目を伏せながら小さな声で言った。
「……あっ、我慢の限界かも」
その言葉に、私は反射的に視線を逸らした。
「ご、ごめん、目をそらすね」
こういう場でおむつにしちゃうのって、やっぱり恥ずかしいよね……と考えながら。
――でも、次の瞬間。
「ぴちゃ、ぴちゃ……」
耳に小さな音が届いた。
思わず視線を戻すと、萌は黒いズボンの股間を抑えたまま漏らしていた。
「えっ……も、萌、おむつは?」
思わず問いかけると、萌はきょとんとした顔で私を見た。
「……ああ、おとといから履いてないんだ。別に、お漏らししても気にならなくなって」
あまりに自然に言うから、私は言葉を失った。
萌の声にも態度にも、恥ずかしさは一切なかった。
私はまだ(こんなカフェで……しかもオムツじゃなくズボンの中に……)と顔が熱くなるのに。
萌ちゃんはまるで、当たり前のことのようにひょうひょうと続けた。
「それじゃ、会社に戻ろっか」
そう言って立ち上がる萌。
股からお尻にかけて大きく濡れたズボンをはいているのに、何ひとつ気にしていない。
その姿を見ながら、私はぞくっとした。
――完全に“羞恥心”が消えていたのだ。
午後の休憩時間、デスクで書類を整理していると、楓ちゃんがそっと近づいてきた。
小声で「先輩、少し……お話いいですか?」と耳元でささやかれる。
私は頷き、会議室の片隅に二人で移動した。
ドアを閉めると、楓ちゃんはどこか不安そうに唇を噛んで、落ち着かない様子で私を見つめてきた。
「……あの、先輩。今日、萌とランチに行ったんですけど」
「うん」
「……途中で、萌が普通に……ズボンの中に、おしっこしてて。しかも、オムツしてなかったんです」
私は思わず息をのんだ。
萌ちゃんまで……。
楓ちゃんは必死に言葉を繋いでいく。
「私、びっくりして『オムツは?』って聞いたんです。そしたら、もう履いてないって。『お漏らししても気にならなくなった』って、そう言ったんです」
「……そう」
「でも……私、やっぱり恥ずかしいんです。カフェで、周りの人が見てるかもしれない場所で……。顔が熱くなって、目をそらすしかなくて」
楓ちゃんの声は震えていた。
その姿に、私は胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「わかるよ……私も同じだから」
私は小さくうなずいた。
「……先輩も、まだ……?」
「うん。美咲はもう、何も恥ずかしくないみたい。自然にできちゃってる。でも……私は、すればするほど恥ずかしさが強くなって。どうしても慣れない」
同じ羞恥心を抱えているのは、今やこの世界でほんの少数――。
楓ちゃんは少し驚いた顔をしたあと、ほっとしたように微笑んだ。
「先輩が私とまだ一緒で、少し安心しました」
――でも、その安心の裏で、私の心には焦りが募っていった。
美咲、そして萌ちゃんまでもが“順応”していくなかで、私と楓ちゃんだけが取り残されていく。
私たちはこれから、どうすればいいのだろうか。




