表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/46

順応

翌日の昼休み。

私は会社の屋上に出て、美咲を呼び出した。

「ごめんね、急に……」

「ううん、いいよ。なんか顔が真剣だったから、ちょっとびっくりしたけど」


人目がないことを確認してから、私は深く息を吸った。

「美咲、……私ね、この世界に“順応”してみようと思うの」

その言葉に、美咲の瞳が揺れた。


「順応って……わざと、失禁するってこと?」

「うん。恥ずかしいけど……でも、このままだと私たち、ずっと浮いた存在のままじゃない? みんなは自然にやってるのに」

「……」


私は続ける。

「この世界になってから、ずっと考えてたんだ。恥ずかしいままでいるのは、自分のためかもしれない。でも……みんなが当たり前にしてるのに、私たちが恥じているせいで、逆に楓や萌まで“恥ずかしい”って思ってる」

「……うん。私も、同じこと考えてた」


美咲は小さく頷き、唇を噛んだ。

「私が慣れれば……萌ちゃんはきっと元に戻れる。彩が慣れれば楓ちゃんも」

「そう……。私たちが順応すれば、みんなを救えるかもしれない」


二人で沈黙する。

ビルの隙間を風が抜けていく音だけが響いていた。


「でも、みんなの前でいきなりやったら……」

「うん、それはダメ。恥ずかしさが伝わっちゃう」

「だから、こっそり。まずは会社で、誰にも気づかれないように……」


お互いの目を見た瞬間、同じ覚悟を共有できた気がした。

怖い。けれど、未来のため。

そして楓ちゃんや萌ちゃんの笑顔のために。


私は思わず苦笑した。


そう言って、美咲も少し照れたように笑った。

二人だけの、小さな決意だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

それから、私と美咲は一週間にわたって“順応の実験”を続けた。

朝からわざと我慢し、昼休みの廊下の隅や帰り道の暗がりで服の中に解放する。


もちろん羞恥心が消えることを期待して。


だが――結果は正反対だった。

どれだけ繰り返しても、私たちの顔から赤みは消えない。


毎回、こみ上げる恥ずかしさに震えて、結局は息を合わせるように苦笑いを浮かべるしかなかった。

ある日の昼休み。


私と美咲が服を替えて戻ると、楓ちゃんが机に頬杖をつきながら声をかけてきた。

「先輩方、また替えてきたんですか? どうしちゃったんですか…?」

私は心臓をぎゅっと掴まれた気がした。


後輩たちは、すでに“おむつに守られた羞恥心の世界”を日常として受け入れてしまっている。


「……ごめんね。ほんとに心配させちゃって」

私は必死に笑顔を作ってごまかした。


「そうそう。私たち、ちょっと試してみたいことがあるだけだから。気にしなくていいの」

美咲も合わせて言う。


二人は「そうですか……」と頷いたけれど、まだ納得はしていないようだった。


このままでは、後輩たちにまで“普通に失禁する感覚”は戻らない。

本当に世界に順応するためには――私が一人で挑まなければならないのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ