選択肢
その夜、私は自宅に戻り、ソファに身を沈めた。
茜の笑顔が、どうしても頭から離れない。
「気持ちいい」なんて、あんなふうに言えるのか――。
私は思った。
この世界になって、得をする人間がいるのだと。
でも、私はどうしても共感できない。
失禁することが“自然”だなんて、心のどこかで否定してしまう。
きっと、あの日偶然失禁してしまい、それを恥じたから――私は“この世界の外側”に立たされているのだろう。
茜もそうだ。彼女は前の世界の記憶を持ったまま、この世界を楽しんでいる。
「じゃあ、私は……?」
選択肢は二つしかない。
ひとつは、美咲や楓、萌のように恥じらいを抱える人たちのために、この世界を“もとに戻す”方法を探すこと。
もうひとつは、佐伯先輩のように、自ら失禁して、この世界に完全に染まっていくこと。
私は考える。
失禁の常識は、まるでウイルスのようなものだ。
一度慣れてしまえば、抗えずに身体も心も侵されていく。
恥じらいを持ったまま失禁した者だけが、その影響から外れていられる――そんな仮説が頭に浮かんだ。
「でも、どうして私と茜だけが……?」
理由は分からない。
けれど、確かにこの世界には“選ばれた者”のように、前の世界の記憶を持つ私たちがいる。
私は窓の外の夜景を見つめた。
街のどこかで、誰かがまた当たり前のように衣服を濡らしている。
その光景に順応するか、抗うか――。
私の選択が、これからを決めるのだろう。




