茜の告白
茜はグラスの水滴を指でなぞりながら、淡々と語り始めた。
「この前さ、夕方の収録を終えてトイレに駆け込んだんだよね」
「……トイレに?」
私は思わず聞き返した。
「そう。前の現場から移動する途中で渋滞にはまっちゃって。昼からずっと我慢してたから、もう限界で。収録中もずっと脚が震えてたくらい」
淡々とした口調なのに、その光景が妙に生々しく頭に浮かんできた。
「でね、やっとトイレの個室に入って、ベルト外そうとした瞬間……パンツの中がじわって暖かくなったの」
「……っ」
私は息を呑んだ。
「結局、そのまま脱ぐこともできなくて、便座に座って……ズボンもパンツも履いたまま全部出しちゃった」
彼女はそう言って、グラスを口に運んだ。
恥ずかしい思い出を話しているはずなのに、表情は不思議と落ち着いている。
「でもね……」
茜はそこで少し笑みを浮かべた。
「私、それ気に入っちゃったんだよ」
「……え?」
「私ね、学生のころからずっと――おしっこを我慢するのが趣味だったの」
さらりと言われた言葉に、私は言葉を失った。
「授業中とかさ、ほんとは途中で行けたのに、わざと我慢して。限界まで耐えたあとでトイレに駆け込むと、解放感がすごくて気持ちよかったんだよね。もちろん、そのときは漏らしたことなんて一度もなかったけど」
彼女は少し遠くを見るようにして続けた。
「でも、この前テレビ局のトイレで我慢しきれずに漏らしちゃったとき――恥ずかしかったけど、今までで一番気持ちよかったの。解放感がね、もうすごくて」
「茜……」
「だから私、この世界になってからはむしろ楽しいの。みんな人前で我慢するのが当たり前になったでしょ? だから、私の性癖が堂々と開放できるんだよ」
私は呆然としながら、彼女の顔を見つめていた。
あのミスコン女王で、いまや人気アナウンサーの茜が――こんな風に、自分の“我慢癖”を性癖として誇らしげに語るなんて。
胸の奥がざわめいた。驚きと、少しの戸惑いと……そしてほんのわずかな羨望が入り混じって。




