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テレビの向こうで

テレビからは賑やかな歌番組の音が流れている。けれど、私はもう画面そのものに集中できていなかった。

頭の中に浮かんでくるのは――大学時代の茜の姿ばかり。


「なんでだろうね、つい我慢しちゃうんだよ」

あの頃、トイレに駆け込んできた彼女が笑ってそう言ったのを、今でも鮮明に覚えている。


でも私は知っていた。あれはただの口癖じゃない。

授業中、彼女は必ず途中からソワソワし始める。足を組み替えたり、手元のペンを強く握りしめたり。それでも堂々と前を見て、決して弱音を吐かない。

けれど終わった瞬間、誰よりも早く立ち上がってトイレへ駆け込む。そんな姿を、何度も、何度も見てきた。


あのときから、私はずっと疑問に思っていた。

どうして茜は、あんなに無理をしてまで我慢するんだろう?


……思い返せば、ヒントのようなものはいくつもあった。


ミスコンで優勝したとき、ステージ裏で彼女は小声で「お腹痛い」と言っていた。それでも人前に立てば、まるで何もなかったように完璧な笑顔を作る。

ゼミの発表でも同じだった。緊張で顔色が悪くても、質問に答える声は堂々としていた。


そうだ、茜は――“弱みを見せるのが嫌い”なんだ。


だから、尿意みたいな生理的な欲求でさえ、ギリギリまで抑え込んでしまう。人前で途中で抜けることを“恥”だと感じていたんじゃないか。


けれど、今のこの世界では「トイレで用を足す」という概念そのものが無くなっている。誰もが自然に、当たり前のように“そこでしてしまう”のが常識だ。

それなのに――茜だけは、昔と同じように我慢している。


「……変わってないんだな」

胸が苦しくなる。


彼女のプロ意識の高さ。気丈さ。負けず嫌いな性格。

そのすべてが“我慢癖”につながってしまっている。


でも――。


今日、生放送で顔を赤らめた彼女を見て、私は確信した。

きっと茜は今も、この世界で生きづらさを抱えている。


「会わなきゃ……」

思わず呟いていた。


久しぶりに彼女に会って、ちゃんと聞いてみよう。

どうしてそこまで我慢してしまうのか。

そして――今も彼女が苦しんでいるなら、私は友達として寄り添いたい。


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