美容室
久しぶりに美容室に行くことにした。考えてみれば、この世界が「失禁が当たり前」になってから初めてだ。
お店のドアを開けると、変わらずおしゃれな雰囲気。担当の美容師さんもいつもと同じように明るい笑顔で迎えてくれた。
「今日はどうします?」
「ちょっと軽めに整えてもらえますか」
そんな会話をして、椅子に腰かける。鏡越しにハサミが入るのをぼんやり眺めていると――ふと、美容師さんがもじもじと足を動かしているのに気づいた。
……あ、我慢してる。
そろそろ限界なんだろう。私は心の中で「この人も、ここでそのまま漏らすんだろうな」と予想した。
ところが次の瞬間、予想は裏切られた。
「ごめんなさい、少々失礼します」
そう言うと、美容師さんはハサミを置いて、駆け足で入口の方へ行ったのだ。
私は鏡越しに、その姿を目で追う。
入口にたどり着いた彼女のジーンズが、じわじわと色を変えていくのが見えた。お尻から内ももに沿って、暗いシミが広がっていく。
やっぱり……でも、席ではなく、入口で。
「お待たせしました」
美容師さんは何事もなかったように戻ってきた。ジーンズは濡れたまま。でも平然とカットを再開する。
私はハサミの動きを見ながら考えた。
どうやら職業によっては、その場でするのはマナー違反らしい。
――明日、楓ちゃんと萌ちゃんに聞いてみよう。
そう思いながら、鏡に映る自分の髪が少しずつ整っていくのを見つめていた。




