再び
夕方、デスクで一人考え込んでいた。
(……やっぱりそうだ。羞恥心は伝染する。でも、持続するわけじゃない。佐伯先輩のように、漏らすことに慣れた人は“この世界の当たり前”になってしまう。その瞬間、その人から伝染した羞恥心は消えるんだ……)
自分のノートにメモを取りながら、唇を噛む。
(じゃあ……羞恥心を「定着」させるにはどうすればいいんだろう。誰かがずっと失禁を恥ずかしいと思い続けてくれなきゃ、連鎖は途絶えてしまう……)
そんな思考に沈む中、美咲が「彩、今日は先に帰るね」と声をかけてきた。
その時の彼女の表情が、どこかぎこちなかったのを彩は見逃さなかった。
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(……やばい。替えのおむつ忘れちゃった)
会社を出た美咲は、スーツの下に普通の下着だけを身に着けていることに緊張していた。
(今日は……家まで我慢しよう。大丈夫、大丈夫……!)
しかし、夕方のラッシュで人の多い駅ホーム。電車を待つ数分の時間が、美咲にとってはあまりにも長かった。
「っ……もう……だめ……!」
膝を震わせた瞬間、しゅ~……と音がスカートの下から響き、タイツを伝って温かい流れが足元へ広がっていった。
「ああ……っ」
ホームのコンクリートに濃い染みが広がり、周囲の視線が一瞬集まる。顔を赤くしながらも動けずにいる美咲。
「……美咲先輩?」
驚いて声をかけたのは、偶然同じ電車を待っていた萌だった。
しゃがんで失禁していた人々に混じって、立ち尽くす美咲。その肩が小刻みに震えている。
その姿を見て、萌の胸にずしんと重いものが落ちてきた。
(な、なんで……また……恥ずかしい……)
美咲が顔を真っ赤にして涙を浮かべている姿を目にしただけで、胸が焼けるように熱くなる。
「私……どうして……」
萌は無意識に両手で自分の頬を押さえた。
羞恥心が――再び芽生えてしまったのだ。
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帰宅途中、美咲から連絡が入った。
『駅で……漏らしちゃった……。でも、萌が……萌が、また恥ずかしそうにしてて……』
目を見開く。
(……! 一度消えた人にも、再び芽生える可能性があるんだ!)
強い確信と同時に小さな希望が灯った。




