職場の変化
1週間が経った。
佐伯先輩がオフィスで「実行」してからというもの、変化は確実に広がっていた。
最初は先輩の周囲に座っていた人たち。
次に隣の島。
そして今は、フロアのあちこちで、女性社員たちが「おかしい……なんで……」と顔を赤らめる光景を見るようになった。
たった一度、羞恥心を持った人の失禁を目撃するだけで、伝染するように羞恥心が芽生える。
そんな法則めいた現象が、この職場で進行していた。
美咲と楓と私は、羞恥心を持ち始めた女性社員にそっと声をかけて、おむつを手渡した。
「こっちの方が安心ですよ」
そう言うと、彼女たちは不安げに頷きながら受け取る。
しばらく前まで失禁に無頓着だった人たちが、今では人目を避けるようにおむつをつけている。
ただ、男性社員たちは不思議そうに私たちを見ていた。
「なあ、何がそんなに恥ずかしいんだ?」
「おしっこなんて、前からみんな普通にしてただろ」
彼らには羞恥心が伝染していないらしい。
更に1週間。
職場の空気は、確実に変わっていた。
羞恥心を持ち始めた同僚は少しずつ増えていき、美咲と楓と私は彼女たちにおむつを渡すのが、もはや日常のようになっていた。
「彩さん、ありがとうございます……」
顔を赤らめながら受け取る同僚の姿に、あの頃の佐伯先輩を重ねる。
だが――今日、気づいてしまった。
いつもなら新たに2人、羞恥心が芽生えるはずなのに、今日は1人しかいなかった。
「……あれ?」
思わず独り言が漏れる。
ふと目をやると、佐伯先輩が書類をまとめながら談笑していた。
失禁後にも関わらず、恥ずかしそうに視線を逸らすこともなく、穏やかな表情。
そういえば、ここ数日は泣いていない。
(もしかして……薄れてきてる?)
あの日、道の真ん中で涙を浮かべながら失禁した佐伯先輩。
あの姿が「伝染」の引き金になっていたはずだ。
もし、彼女自身の羞恥心が和らいでしまったなら――伝染の力も弱まってしまうのか。
私は胸の奥に冷たいざわめきを感じながら、美咲と楓に視線を送った。
彼女たちも同じことに気づいているのか、表情が固い。
「……このままじゃ、止まる?」
小さくつぶやいた声は、自分でも驚くほど不安げだった。




