伝染
会議室の片隅。
小声で事情を話した私たちは、結局、楓にもおむつをすすめることになった。
「……やっぱり、これしかないよ」
そう言って差し出すと、楓は顔を真っ赤にしてうつむいた。
「……恥ずかしいですけど……昨日みたいになるよりは……」
そうつぶやいて、震える手で受け取った。
こうして、私以外の三人――美咲、佐伯先輩、楓――は全員がおむつを着けて仕事をすることになった。
だが、私は違う。今でもトイレで用を足せる。
……だからこそ、疑問が膨らんでいった。
なぜ楓に羞恥心が芽生えたのか。
美咲と佐伯先輩は、あの日、自分の経験をきっかけに羞恥を抱えたと語っていた。
でも楓は? 昨日まで普通に失禁して、笑っていたはずなのに。
(……もしかして、羞恥心は伝染するのでは?)
その仮説が頭を離れなかった。
自分が彼氏の前で恥をかいた日。美咲も偶然、駅のトイレで涙を浮かべた。
佐伯先輩も、同じ日、個室で震えていた。
そして昨日、楓は私の涙を真正面から見た――その翌朝、彼女も羞恥を感じるようになった。
「羞恥心って……感染するものなのかもしれない」
思わず口に出した私の言葉に、美咲と佐伯先輩は顔を見合わせた。
楓は、うつむいたまま小さく頷いた。
「……彩先輩が泣いてたの、見てたから……私も……」
私の胸はざわついた。
もし羞恥心が“伝染”するものだとしたら――この世界に、少しずつ、また「恥ずかしい」という感覚が広がっていくのかもしれない。




